経営戦略の改定は、ひとつの区切りを越えました。多くの団体が改定を終えています。
問題はその後です。改定した経営戦略が、翌年から実際に使われているか。
現場では、策定・改定の作業が終わると担当者の手が離れ、次に開くのは3〜5年後の改定期、ということが起こります。しかし総務省が求めているのは、そういう運用ではありません。
総務省が求めているのは「毎年度」の作業
経営戦略策定・改定マニュアルには、こう書かれています。
「経営戦略」は、策定して終わりではなく、まずは、計画の着実な実施を行っていく。毎年度の進捗管理(計画と決算の乖離分析)、3〜5年毎の検証や評価、そして改定を行っていくというPDCAサイクルを導入して確立させる必要がある
毎年度やることと、3〜5年ごとにやることが、別のものとして書かれています。
| 頻度 | やること |
|---|---|
| 毎年度 | 進捗管理(計画と決算の乖離分析) |
| 3〜5年ごと | 検証・評価、そして改定 |
改定期にまとめてやればよい、という構造にはなっていません。
そしてこれは、改定作業そのものにも効いてきます。マニュアルは、改定時の現状分析についてこう述べています。
なお、改定の場合は、毎年度の進捗管理を踏まえ、目標値や計画値と実績値との乖離原因を分析し、効果的な改善策を盛り込むなど、PDCAサイクルの中で適切に行うこと
毎年度の進捗管理があることを前提に、改定の手順が組まれています。 ここを飛ばすと、改定期に「なぜ計画とずれたのか」を数年分さかのぼって調べることになります。
何と何を比べるのか
進捗管理で見るのは、投資・財政計画の計画値と、決算の実績値です。マニュアルの説明はこうです。
毎年、投資・財政計画と実績との乖離や他の計画と整合しているかを確認し、必要があれば経営戦略の修正を行う必要がある
比べる対象は2つあります。
1. 計画値と決算値の乖離
収益・費用・投資額・企業債残高・資金残高といった項目を、計画で置いた数字と決算で出た数字で並べます。
決算が固まる時期に行う作業ですので、決算統計や経営比較分析表の作成と同じ時期に組み込むのが効率的です。同じ決算数値を使いますから、別作業として立てるより負担が小さくなります。
2. 目標指標の達成度
もう一つが、経営戦略で設定した目標指標を、どれだけ達成できているかです。
マニュアルは改定時の分析について「目標値や計画値と実績値との乖離原因を分析し」と書いており、目標値と計画値を並べて挙げています。収支の計画値だけでなく、目標として掲げた指標も進捗管理の対象です。
そもそも経営戦略には、目標を設定することが求められています。
目標設定については、企業債や資金関係の経営指標に関しての複数の目標設定を行う。特に水道事業、簡易水道事業及び下水道事業については、料金回収率や経費回収率の目標設定を行う
料金回収率・経費回収率は名指しされていますので、ここが未達のまま放置されていると、次の改定でも料金改定の説明でも必ず問われます。
見る指標は、経営比較分析表の区分がそのまま使えます。水道事業であれば次のとおりです。
| 区分 | 指標 |
|---|---|
| 収益性 | 経常収支比率、料金回収率、給水原価 |
| 効率性 | 有収率、施設利用率 |
| 安全性 | 累積欠損金比率、流動比率、企業債残高対給水収益比率 |
| 施設の老朽化状況 | 有形固定資産減価償却率、管路経年化率、管路更新率 |
下水道事業であれば、料金回収率にあたるのが経費回収率、給水原価にあたるのが汚水処理原価です。
経営比較分析表は毎年作るものですから、そこに載る指標を目標値と並べるだけで、進捗管理の骨格ができます。 新たに集計する数字はほとんどありません。
目標指標を見るときの注意
単年度の達成・未達だけで判断しないでください。 指標には性質の違いがあります。
| 指標の性質 | 例 | 見方 |
|---|---|---|
| 毎年なめらかに動く | 料金回収率、経常収支比率、有収率 | 単年度の実績値と目標値を直接比べてよい |
| 工事の入り方で大きくぶれる | 管路更新率、有形固定資産減価償却率 | 単年度で見ず、複数年の平均または累計で見る |
管路更新率は特にぶれます。 大きな更新工事があった年は跳ね上がり、なかった年は落ちます。単年度で目標を下回ったからといって、更新が遅れているとは限りません。逆に、たまたま大型工事があった年の数字だけを見て「順調だ」と判断するのも危険です。
目標年度に向けた軌道に乗っているかという見方をしてください。たとえば10年で管路の何%を更新する目標なら、累計の更新延長が年数按分の線に乗っているかを見ます。
3. 他の計画との整合
マニュアルは、乖離の確認とあわせて「他の計画と整合しているか」の確認も求めています。
経営戦略だけを見ていると、総合計画やストックマネジメント計画、施設更新計画との食い違いに気づけません。他の計画が改定されたのに経営戦略が古いまま、ということが起こります。投資計画の前提が動いていないかは、毎年見る価値があります。
乖離が出たとき、何を直すのか
ここが実務の判断どころです。直すものは2つあります。
マニュアルは、改定時の分析についてこう書いています。
毎年度の進捗管理を踏まえ、目標値や計画値と実績値との乖離原因を分析し、効果的な改善策を盛り込む
乖離を計画に反映するだけでは足りません。 求められているのは、そのうえで改善策を打つことです。順に見ます。
直すもの① 収支計画の数字
まず、乖離が計画に反映すべきものかどうかを判断します。マニュアルの記載例はこうです。
毎年の決算が公表された後、経営戦略の収支計画との乖離や他計画との内容の整合を検証し、後年に影響が出てくる場合は、収支計画を修正する
判断の分かれ目は「後年に影響が出るかどうか」です。
| 乖離の性質 | 例 | 対応 |
|---|---|---|
| 単年度限りの要因 | 大口需要家の一時的な休止、災害による臨時費用、工事の翌年度への繰越 | 記録に残す。計画は動かさない |
| 今後も続く構造的な要因 | 給水人口の減少ペースが想定より速い、動力費・薬品費の水準が恒常的に上がった、委託費の相場が変わった | 収支計画を修正する |
工事の繰越には注意が要ります。 単年度で見ると「投資額が計画を下回った」と見えますが、翌年度に積み上がるだけで総額は変わりません。これを構造的な改善と読み違えると、資金不足が生じる時期の見通しを誤ります。
物価上昇の影響も、一時的なのか水準そのものが変わったのかの見極めが要ります。数年分を並べて初めて判断できることが多く、これも毎年度の記録があってこそできる判断です。
直すもの② 経営改善の取組そのもの
そして、こちらが本体です。
収支計画を修正するというのは、悪くなった見通しを数字として認めるだけの作業です。それだけで終われば、経営戦略は「資金不足が生じる時期が年々前倒しになっていく記録」になってしまいます。
環境が変わったなら、その変化に対して経営としてどう手を打つのかを考え直す必要があります。マニュアルも、改定時の現状分析について次のように述べています。
また、これまでの効率化・経営健全化の取組についての内容や効果などの検証・評価もこの際行うべきである
つまり、毎年度の進捗管理で見るべきなのは、乖離の数字だけではありません。
- 打ってきた取組は、狙った効果を出したか
- 効果が出ていないなら、なぜ出なかったのか
- 前提が変わったことで、もう効かなくなった取組はないか
- 新たに検討すべき手はないか
たとえば、給水人口の減少が想定より速いことが分かったとします。収支計画の料金収入を下方修正するのは当然として、それだけでは何も改善しません。施設の統廃合を前倒しできないか、更新の優先順位を組み替えられないか、広域化の検討を早められないか、委託の範囲を見直せないか——こうした検討に入るのが、本来の対応です。
環境の変化に応じて打つ手も変わりますから、毎年度の進捗管理は、取組の棚卸しの機会でもあります。
この積み上げが、料金改定の説明を支える
なぜ取組の見直しまでやるのかというと、最後に効いてくるのが料金改定の局面だからです。
マニュアルは、料金改定を盛り込む場合についてこう述べています。
特に、料金改定を盛り込む場合は、住民負担に大きな影響を及ぼすものであることから、最大限の経営努力を行った上で、丁寧に住民や議会に説明を行う必要がある
「最大限の経営努力を行った上で」が条件になっています。 料金改定を提案するとき、必ず問われるのはここです。
このとき示せるものが、毎年度どういう手を打ってきたかの記録です。
- 計画と実績を毎年突き合わせ、乖離の原因を分析してきた
- 構造的な要因は収支計画に反映してきた
- それに対してこういう取組を打ち、こういう効果が出た(あるいは出なかった)
- 効かなくなった取組は見直し、新たにこういう手も試した
- それでもなお、資金不足が生じる時期が前倒しになっている
この順序で示せて初めて、「できることはやってきた」という説明が成り立ちます。
逆に、収支計画の数字だけを毎年下方修正してきた記録しか残っていないと、「見通しが悪くなったので値上げしたい」という話にしか聞こえません。同じ結論を出すにしても、そこに至る過程が残っているかどうかで、議会や住民の受け止めは変わります。
改定期にまとめて作った資料には、この積み上げがありません。毎年度の進捗管理は、数年先の料金改定に向けた説明材料を積み上げていく作業でもあります。
自団体の経営戦略に何と書いてあるかを確認する
経営戦略には、事後検証・改定に関する事項を記載することとされています。マニュアルの説明はこうです。
進捗管理(モニタリング)や見直し(ローリング)等の経営戦略の事後検証、改定等に関する考え方について記載すること。改定を含め、PDCAサイクルを回して継続的に実施することが重要であり、検証内容、頻度、体制(第三者も含むかどうか)、公表方法について記載
つまり、何をどの頻度で誰が検証し、どう公表するかは、各団体が自らの経営戦略の中で宣言しています。
まず確認していただきたいのは、自団体の経営戦略の「事後検証、改定等に関する事項」に何と書いてあるかです。多くの場合、次のようなことが書かれています。
- 毎年度、決算を踏まえて計画との乖離を検証する
- 3〜5年ごとに有識者委員会で第三者の検証を行う
- 検証結果は議会に報告し、ホームページで公表する
書いてあることが実行されているかどうかが、最初の点検項目になります。ここが動いていないと、次の改定のときに「前回の戦略はどう運用されたのか」を説明できません。
次の改定に向けて記録しておくこと
3〜5年後の改定作業を軽くするために、毎年度の進捗管理で残しておくとよいものがあります。
| 残すもの | なぜ要るか |
|---|---|
| 項目別の計画値・実績値・差額 | 改定時の現状分析でそのまま使える |
| 目標指標の目標値・実績値と、達成状況 | 未達の指標について、次の改定で説明が要る |
| 乖離の原因と、単年度/構造の区分 | 「なぜずれたか」を後から調べ直さずに済む |
| 計画を修正した場合はその判断理由 | 議会・住民への説明で経緯を示せる |
| 打った取組と、その効果 | 料金改定のときに「最大限の経営努力」を示す材料になる。後から思い出せない |
| 見直した取組と、見直した理由 | 効かなくなった手を惰性で続けていないことの説明になる |
| 前提条件の変動(人口、物価、制度改正) | 改定時に反映すべき要素として求められている |
マニュアルは改定時の留意点として、当初策定時からの時間経過に伴う要素の変動を反映するよう求めています。具体的には、地域の人口動向などサービス需要に影響する要素の変動状況、賃金や物価の上下動などの基礎的な社会経済情報の変化、根拠法令の改正その他の制度改正の状況です。
これらを毎年拾っておけば、改定時に集めるのは差分だけで済みます。
まとめ
- 総務省が求めているのは、毎年度の進捗管理(計画と決算の乖離分析)と、3〜5年ごとの検証・評価・改定です。改定期だけの作業ではありません
- 毎年見るのは、投資・財政計画と決算の乖離、目標指標の達成度、そして他の計画との整合です
- 目標指標は経営比較分析表の指標がそのまま使えます。料金回収率・経費回収率は目標設定が求められている指標です
- 管路更新率のように工事の入り方でぶれる指標は、単年度で判断せず累計や複数年平均で見ます
- 乖離が出たら、直すものは2つです。収支計画の数字と、経営改善の取組そのものです
- 計画の修正は、単年度限りの要因か、後年に影響する構造的な要因かを切り分けて、後者だけ反映します
- 工事の繰越を構造的な改善と読み違えないこと。総額は変わりません
- 数字を直すだけでは何も改善しません。 環境が変わったなら打つ手も変える必要があり、打ってきた取組の効果検証と組み替えが本体です
- この積み上げが、料金改定のときに「最大限の経営努力を行った」と説明できるかどうかを決めます
- 自団体の経営戦略に書いた「事後検証、改定等に関する事項」が実行されているかを、まず確認してください
進捗管理の仕組みづくり、乖離分析の進め方、次の改定に向けた記録の整え方について、ご相談を承っています。総務省の上下水道事業経営アドバイザーとして全国の団体を担当しており、他の団体がどう回しているかも踏まえてご提案できます。