一般会計から繰入金を受けている公営企業は、支払った消費税の一部を控除できなくなることがあります。 補助金や受益者負担金も同じです。これを「特定収入に係る仕入控除税額の調整」といいます。 起きるかどうかは特別会計ごとに分かれるので、同じ団体でも水道は調整が要らず下水道は要る、ということが起こります。
上下水道の記事では制度の入口だけを扱いました。ここでは、病院事業や交通事業も含めた公営企業全体で、 どこで判定が分かれ、どこで実務が詰まるのかを整理します。
結論
調整の大きさは、想像よりもかなり大きくなります。
国税庁が公表している下水道事業特別会計の設例では、通常どおり計算した仕入控除税額が6,233,695円でした。 ところが特定収入の調整として4,558,929円が差し引かれ、実際に控除できたのは1,724,889円です。 差し引かれた額は調整前の**約73%**にあたります (このほかに、インボイス関係の調整で50,123円が加算されています。内訳は後で見ます)。
そして、この額は繰入金や補助金の使途をどう特定したかで動きます。 使途の特定は交付元に依頼する作業ではなく、公営企業の側で行える作業です。 やらずに済ませると、不利な側に振れます。
以下、判定の順序どおりに見ていきます。
判定は、特別会計ごとに行います
まず単位を間違えないことです。
消費税法第60条第1項は次のように定めています。
国若しくは地方公共団体が一般会計に係る業務として行う事業又は国若しくは地方公共団体が特別会計を設けて行う事業については、当該一般会計又は特別会計ごとに一の法人が行う事業とみなして、この法律の規定を適用する。
団体単位ではありません。水道事業と下水道事業と病院事業は、それぞれ別の法人として扱われます。 納税義務があるかどうかも、特定収入割合も、調整割合も、会計ごとに別々に計算します。 水道は調整不要で下水道は調整が必要、ということが起こります。
一般会計とみなされる特別会計があります
第60条第1項にはただし書があり、政令で定める特別会計は一般会計として扱われます。 その政令は消費税法施行令第72条第1項です。
法第六十条第一項ただし書に規定する政令で定める特別会計は、専ら当該特別会計を設ける国又は地方公共団体の一般会計に対して資産の譲渡等を行う特別会計とする。
条文にあるのは「専ら」という語だけです。その内容は国税庁のパンフレットが示しています。
ここでいう「専ら」とは、その特別会計が行う資産の譲渡等の対価の合計額のうちにその特別会計が一般会計に対して行う資産の譲渡等の対価の合計額の占める割合が95%以上である場合をいいます。
一般会計に係る業務として行う事業については、控除できる消費税額は課税標準額に対する消費税額と同額とみなされ(第60条第6項)、 そもそも申告義務がありません(第60条第7項)。ここに落ちれば調整の問題は起きません。
一部事務組合は、事業によって扱いが分かれます
広域化・共同化で一部事務組合を作るときに関係します。 消費税法施行令第72条第2項は、地方自治法第285条の一部事務組合が 特別会計を設けて行う事業のうち、規約で議決方法の特別の規定を設けたものを 一般会計に係る業務とみなすとしていますが、次の事業は、そこから除かれています。
地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百八十五条(相互に関連する事務の共同処理)の一部事務組合が特別会計を設けて次に掲げる事業以外の事業を行う場合において、当該一部事務組合が、同法第二百八十七条の三第一項(第二百八十五条の一部事務組合に関する特則)の規定に基づき、その規約において当該事業に係る事件の議決の方法について特別の規定を設けたときは、当該事業に係る法第六十条の規定の適用については、当該事業は、同条第一項本文の一般会計に係る業務として行う事業とみなす。
**主語は「地方自治法第285条の一部事務組合」です。**同条は次のとおりで、 市町村と特別区が相互に関連する事務を共同処理するために設ける組合を指します。
市町村及び特別区の事務に関し相互に関連するものを共同処理するための市町村及び特別区の一部事務組合については、市町村又は特別区の共同処理しようとする事務が他の市町村又は特別区の共同処理しようとする事務と同一の種類のものでない場合においても、これを設けることを妨げるものではない。
構成団体ごとに共同処理する事務が同じ種類でなくてもよい、という点がこの条文の中身です。 すべての一部事務組合の話ではありませんし、 広域連合はこの項の対象ではありません(広域連合を含む地方公共団体の組合については、 一般会計を設けて第3号・第4号の事業を行う場合を特別会計を設けて行う事業とみなす第72条第3項があり、 向きが逆です)。
| 除かれる事業(消費税法施行令第72条第2項各号) | 内容 |
|---|---|
| 第1号 | 地方財政法施行令第46条各号に掲げる事業その他、法令で特別会計の設置が義務付けられている事業 |
| 第2号 | 地方公営企業法第2条第3項により同法の規定の全部又は一部を適用している企業に係る事業 |
| 第3号 | 対価を得て資産の譲渡又は貸付けを主として行う事業(前二号に掲げる事業を除く。) |
| 第4号 | 地方競馬、自転車競走、小型自動車競走、モーターボート競走の事業 |
つまり、水道・下水道・病院などを一部事務組合で経営していても、一般会計とみなされることはありません。 組合になっても特定収入の判定はついてきます。
調整が要らないのは、3つの場合だけです
判定単位が決まったら、次は調整の要否です。国税庁は3つを挙げています。
①その課税期間における特定収入割合が5%以下である場合 ②その課税期間の仕入控除税額を簡易課税制度を適用して計算する場合 ③その課税期間の仕入控除税額を適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)を適用して計算する場合
このうち②は条文に表れています。第60条第4項は「第三十七条の規定の適用を受ける場合を除き」と書いており、 第37条が簡易課税です。①の5%は消費税法施行令第75条第3項です。
当該課税期間における資産の譲渡等の対価の額……の合計額に当該課税期間における……特定収入……の合計額を加算した金額のうちに当該特定収入の合計額の占める割合が百分の五を超える場合とする。
「超える場合」なので、ちょうど5%なら調整は不要です。
③(2割特例)の根拠は消費税法本体ではなく、2割特例そのものを定めた改正法の附則です。 国税庁はその仕組みをこう説明しています。
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者(免税事業者が「課税選択届出書」の提出により課税事業者となった場合を含みます。)が適格請求書発行事業者となる場合……には、納付税額の計算において控除する金額を、その課税期間における課税標準である金額の合計額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額に8割を乗じた額(以下「特別控除税額」といいます。)とすることができる経過措置(以下「2割特例」といいます。)が設けられています(28年改正法附則51の2①②)。
控除する金額そのものを売上側の税額から決めてしまう仕組みなので、 課税仕入れ等の税額を計算し直す第60条第4項が働く場面がありません。
なお、対象は令和8年9月30日までの日が属する課税期間までです。 4月から3月までを課税期間とする特別会計なら、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの課税期間が最後です。 2割特例で申告してきた小規模な特別会計は、その次の課税期間からは、①②に当たらない限り調整計算が必要になります。
特定収入割合の分母には、非課税売上げも入ります
算式はパンフレットが示しています。
特定収入割合 = 特定収入の合計額 ÷(資産の譲渡等の対価の額の合計額+特定収入の合計額)
そして「資産の譲渡等の対価の額の合計額」は次のとおりです。
資産の譲渡等の対価の額の合計額=課税売上高(税抜き)+免税売上高+非課税売上高+国外売上高
課税売上高だけではありません。特定収入の額が同じなら、病院事業のように社会保険診療という 大きな非課税売上げを持つ事業では、分母が大きくなる分だけ特定収入割合は下がります。 逆に、下水道事業のように非課税売上げがほとんどなく、収入に占める繰入金・補助金の比重が大きい事業では、割合が高く出ます。 後で見る設例でも、非課税売上げは預金利息の100,000円だけで、特定収入割合は約35.5%になっています。
何が特定収入になるのか
特定収入とは、資産の譲渡等の対価以外の収入のうち、消費税法施行令第75条第1項に列挙された収入以外のものです(第60条第4項)。 国税庁は例として次の12を挙げています。
①租税 ②補助金 ③交付金 ④寄附金 ⑤出資に対する配当金 ⑥保険金 ⑦損害賠償金 ⑧負担金 ⑨他会計からの繰入金(国、地方公共団体に限ります。) ⑩会費等 ⑪喜捨金 ⑫特殊な借入金等
⑨に**「(国、地方公共団体に限ります。)」**と付いていることに注意してください。 繰入金が特定収入の例示に入るのは、国と地方公共団体だけです。
対価性があるものは、そもそも特定収入ではありません
消費税法基本通達16-2-1は、特定収入の例示の最後をこう書いています。
資産の譲渡等の対価に該当しない負担金、他会計からの繰入金、会費等、喜捨金等
「対価に該当しない」という限定が付いています。 一般会計からの繰入金であっても、それが役務の提供の対価として支払われているのであれば、 特定収入ではなく資産の譲渡等の対価として扱われます。 繰入金だから特定収入、と機械的に処理しないでください。
特定収入にならない6つの収入
消費税法施行令第75条第1項の列挙です。
| # | 収入 |
|---|---|
| 1 | 借入金及び債券の発行に係る収入で、法令においてその返済又は償還のため補助金、負担金その他これらに類するものの交付を受けることが規定されているもの以外のもの(=通常の借入金等) |
| 2 | 出資金 |
| 3 | 預金、貯金及び預り金 |
| 4 | 貸付回収金 |
| 5 | 返還金及び還付金 |
| 6 | 特定支出のためにのみ使用することとされている収入(イ・ロ・ハ) |
6の「特定支出」は、裏返しの定義になっています。第75条第1項第6号イは、 次に掲げる支出以外の支出を特定支出と呼んでいます。
(1)課税仕入れに係る支払対価の額……に係る支出 (2)……特定課税仕入れに係る支払対価の額……に係る支出 (3)課税貨物の引取価額……に係る支出 (4)借入金等の返済金又は償還金に係る支出
パンフレットの言い換えのほうが実務では使いやすいはずです。
特定支出とは、6-イ(イ)~(ニ)に掲げる支出以外の支出ですので、例えば、給与、利子、土地購入費、特殊な借入金等の返済などがこれに該当します。
つまり、課税仕入れ・特定課税仕入れ・課税貨物の引取り・借入金等の返済、この4つ以外の支出が特定支出です。 これらに充てるためにのみ使うこととされている収入は、特定収入になりません。 人件費補助金、利子補給金、土地購入のための補助金がこれにあたります。
ここで注意が要るのは(4)の「借入金等」です。この語は第1号で定義されており、 通常の借入金等を指します。したがって、通常の借入金等の返済に充てる収入は特定支出のための収入ではなく、 特定収入になることがあります。逆に特殊な借入金等の返済は特定支出に当たります。 パンフレットが特定支出の例として「特殊な借入金等の返済」を挙げ、 特定収入に該当しない収入の例として「特殊な借入金等(注1)の返済のための負担金」を挙げているのは、このためです。
公営企業でとくに詰まる4つ
ここからが、学校法人や公益法人とは事情が違うところです。
1 企業債は「通常」か「特殊」かで扱いが逆になります
消費税法施行令第75条第1項第1号は、借入金等のうち 「法令においてその返済又は償還のため補助金、負担金その他これらに類するものの交付を受けることが規定されているもの以外のもの」を特定収入から外しています。
つまり法令で償還財源の交付が規定されている企業債は、この除外に入りません。 パンフレットはこれを「特殊な借入金等」と呼び、特定収入の例示⑫に挙げています。
| 起債したときの状況 | 呼び方 | その起債収入 |
|---|---|---|
| 法令において返済・償還のための補助金等の交付が規定されている | 特殊な借入金等 | 特定収入になる(ただし、法令において特定支出のためにのみ使用するものとされているものを除く) |
| 上記以外 | 通常の借入金等 | 特定収入にならない |
先に見たとおり、特殊な借入金等の返済のための負担金のほうは、特定支出のための収入なので特定収入になりません。 入口(起債収入)と出口(返済財源)で向きが逆になります。
そして**起債した時点で判定は終わりません。**次が本番です。
2 元金償還に充てる繰入金は、償還ではなく「その事業」に対応させます
「通常の借入金等」を財源に事業を行い、あとからその償還のために一般会計繰入金や補助金が入ったとき、 その繰入金は元金償還に使ったものとしては扱いません。 消費税法基本通達16-2-2(1)の注書です。
令第75条第1項第1号に規定する借入金等……を財源として行った事業について、当該借入金等の返済又は償還のための補助金等が交付される場合において、当該補助金等の交付要綱等にその旨が記載されているときは、当該補助金等は当該事業に係る経費のみに使用される収入として使途を特定する。
**遡ります。**その企業債で行った事業の支出が課税仕入れ(工事費など)であれば、 償還財源の繰入金は「課税仕入れ等に係る特定収入」になります。 国税庁はその理由をこう説明しています。
これは、借入金等により賄われた課税仕入れ等が、結果的に補助金等で賄われることとなるからであり、過去において仕入税額控除の対象とされた課税仕入れ等で借入金等により賄われたものについて当該補助金等の交付を受けた課税期間において調整しようとするものです。
借換債を挟んでも同じです。
借換債を償還するための一般会計からの繰入金等は、実質的には借換債によって償還された地方債で賄われた事業のために使用されたこととなりますので、その事業に係る経費に充てられたものとして使途の特定を行うのが合理的です。
交付要綱等に「借入金等の返済費又は償還費のため」としか書かれていない場合は、 按分によって使途を特定します(消費税法基本通達16-2-2(2)ハ)。 その按分の分母は当期の支出ではなく、その企業債に係る事業が行われた課税期間の支出です。ここを取り違えると結果が変わります。
3 免税事業者だった期間の事業なら、償還財源は特定収入になりません
同じ注書の後半です。
なお、免税事業者であった課税期間に行った事業の経費に使途が特定された当該補助金等は、特定収入……に該当しないことに留意する。
国税庁の説明はこうです。
この考え方からすれば、借入金等により賄われた課税仕入れ等が、免税事業者である課税期間におけるものであれば、仕入税額控除の対象とされていないことから、調整をする必要はないこととなります。
調整計算は、過去に控除した税額を後から取り戻す仕組みです。 そもそも控除していない期間の分には、取り戻す対象がありません。 市町村合併にも触れられています。
なお、市町村の統廃合により新設あるいは存続する特別会計が、廃止された特別会計から債権債務を承継することとなり、引き継いだ借入金等の中に廃止された特別会計が免税期間中に行った起債に係る部分がある場合、その借入金等の返済のための補助金等についても同様に取り扱われます。
課税事業者になった時期を、企業債の起債年度と突き合わせて確認してください。 合併や事業統合を経ている団体、免税事業者だった時期がある小規模な会計では、確認する価値があります。
4 減価償却費に充てる補助金は、特定収入になりません
これは公営企業だけの取扱いです。消費税法基本通達16-2-4です。
地方公営企業法第20条《計理の方法》の規定の適用を受ける地方公共団体の経営する企業が一般会計等から減価償却費を対象とする補助金を収受する場合の当該補助金は、令第75条《国、地方公共団体等の仕入れに係る消費税額の特例》に規定する特定支出のためにのみ使用することとされている収入に該当するものとして取り扱う。
減価償却費は課税仕入れではありません。通達は、これを対象とする補助金を 「特定支出のためにのみ使用することとされている収入に該当するものとして取り扱う」としています。 繰入金の積算内訳に減価償却費相当が入っているなら、その部分は分けてください。
条件は「地方公営企業法第20条の規定の適用を受ける」ことです。第20条は財務規定等に含まれるので、 全部適用でも財務規定等だけの適用でも及びますが、法非適用の特別会計には及びません。 法非適用の会計で減価償却費を計上していなければ、そもそも「減価償却費を対象とする補助金」自体がありません。
支払利子は特定支出の例示(給与、利子、土地購入費、特殊な借入金等の返済)に挙げられているので、 利子に充てる補助金も外れます。国税庁の設例では、 国庫補助金収入30,000,000円のうち地方債の利子の支払いに使途が特定されている10,000,000円が特定収入から外されています。
使途の特定は、自分の側でできます
ここが結果を最も動かします。方法は2つです。
| 方法 | 何によって特定するか | 文書を作るのは誰か |
|---|---|---|
| ① | 法令又は交付要綱等により使途が明らかにされている | 交付元(国・地方公共団体など) |
| ② | 合理的な方法により使途を明らかにした文書による | 地方公共団体の長(管理者を置く公営企業では管理者) |
①の「交付要綱等」の範囲は広く取られています。
交付要綱等とは、補助金等を交付する者が作成したその補助金等の使途を定めた文書をいい、補助金等交付要綱、補助金等交付決定書のほか、これらの附属書類である補助金等の積算内訳書、実績報告書も含まれます。
積算内訳書と実績報告書が含まれる点は見落とされがちです。要綱本体に書かれていなくても、 添付した積算内訳で人件費や償還費の内訳が分かるなら、それで使途が特定されます。
②は、①で特定されない補助金等について使えます。消費税法施行令第75条第1項第6号ロは 「国又は地方公共団体が合理的な方法により資産の譲渡等の対価以外の収入の使途を明らかにした文書」としており、 公営企業はここに入ります。誰が作るかは消費税法基本通達16-2-2(2)イが明示しています。
国(特別会計の所管大臣。以下16-2-2において同じ。)又は地方公共団体の長(地方公営企業法第7条の適用がある公営企業にあっては管理者。以下16-2-2において同じ。)が令第75条第1項第6号ロに規定する文書においてその使途の大要の範囲内で合理的計算に基づき細部の使途を特定する。
ここは「管理者が作る」と覚えないでください。通達は「地方公営企業法第7条の適用がある公営企業にあっては管理者」と 条件を付けています。管理者の設置を定める第7条は、同法第2条第2項がいう**財務規定等(第3条〜第6条、第17条〜第35条、 第40条〜第41条並びに附則第2項及び第3項)に入っていません。**そして条例で法を適用するときに選べるのは 「法の規定の全部」か「財務規定等」かの二択です(地方公営企業法施行令第1条第2項)。 つまり、次のように分かれます。
| 法の適用 | 管理者 | ②の文書を作るのは |
|---|---|---|
| 全部適用で、管理者を置いている | いる | 管理者 |
| 全部適用だが、条例で管理者を置いていない(第7条ただし書) | いない | 地方公共団体の長(第8条第2項により管理者の権限を長が行う) |
| 財務規定等だけの適用(病院事業、条例で財務規定等だけを適用した下水道事業など) | 置かれない | 地方公共団体の長 |
財務規定等だけを適用して法適化した下水道事業には、管理者がいません。 後で見るとおり申告期限は3か月に短くなりますが、使途特定文書の名義は長のままです。
②の具体的な方法はイからニの4段階で、上から順に試します。
| 段階 | 使う資料 | 方法 |
|---|---|---|
| イ | 法令・交付要綱等(使途の大要が判明するもの) | 大要の範囲内で合理的計算により細部を特定する |
| ロ | 予算書・予算関係書類・決算書・決算関係書類 | これらで明らかとなるところにより特定する |
| ハ | 法令・交付要綱等、または予算書・予算関係書類・決算書・決算関係書類で、借入金等の返済費・償還費のための補助金等とされているもの(前記(1)の注に当たるものを除く) | その企業債に係る事業が行われた課税期間の支出の割合で按分する |
| ニ | イ〜ハで特定できないもの | 当課税期間の支出の割合で按分する |
**ニは終点ではありません。**通達16-2-2(2)ニは、按分の結果として借入金等の返済費・償還費に 使途が特定されたことになった部分について、こう続けています。
また、この按分計算において、借入金等の返済費又は償還費でハにおいて処理済みの部分以外の部分に使途が特定されていることとなった補助金等の部分については、更にハの方法で当該借入金等に係る事業が行われた課税期間に遡って使途を特定する。
当期の支出で按分して終わり、にはなりません。償還費に落ちた部分は、もう一度ハに戻って過去の課税期間まで遡ります。
イについて、パンフレットは具体例を示しています。
「その使途の大要が判明する補助金等」とは、例えば、法令又は交付要綱等において、「… の建設に要する費用に充てる」等の記載があるものをいいます。 また、「使途の大要の範囲内で合理的計算」とは、例えば、「…の建設に要する費用」のうちに占める課税仕入れ等の支出の額と課税仕入れ等以外の支出の額であん分することをいいます。
ロの「明らかとなるもの」も同様です。
例えば、決算書の備考欄に補助金等が何の費用に充てられたかが記載されているものや、決算書の項目名で何の費用に充てられたかが明らかとなるものなどをいいます。
決算書の備考欄の書き方が、そのまま税額に効いてきます。
地方公営企業法第20条の適用がある企業は、区分ごとに計算します
ハとニの按分について、通達は公営企業だけの取扱いを置いています。
なお、地方公営企業法第20条《計理の方法》の適用がある公営企業については、同法施行令第9条第3項《会計の原則》の損益的取引、資本的取引の区分ごとにこの計算を行うものとする。
地方公営企業法施行令第9条第3項は「地方公営企業は、資本取引と損益取引とを明確に区分しなければならない」です。 収益的収支と資本的収支を一緒にして1本の按分率を作ってはいけません。 資本的収支は工事費が中心で課税仕入れの割合が高く、収益的収支は人件費・支払利息・減価償却費を含むので低くなります。 混ぜると結果がずれます。
②で特定したら、文書を税務署へ出します
自分で作れる代わりに、提出義務があります。
②の方法により補助金等の使途を特定した場合には、国の特別会計の所管大臣又は地方公共団体の長(公営企業にあっては公営企業の管理者)がその補助金等の使途を明らかにした文書を確定申告書とともに納税地の所轄税務署長に提出してください。 また、②ハ又はニの方法により使途を特定した場合には、その計算過程を明らかにしたものを添付書類として提出してください。
引用の「(公営企業にあっては公営企業の管理者)」は原文ママです。パンフレットはここを短く書いていますが、 上で見たとおり、通達16-2-2(2)イは「地方公営企業法第7条の適用がある公営企業にあっては管理者」と 条件を付けており、管理者を置かない企業では地方公共団体の長になります。
**按分をしたら計算過程も添付します。**申告直前に作れるものではないので、決算作業の中に組み込んでください。
年度をまたぐ収入の扱い
会計年度の制度と噛み合う部分です。国税庁のQ&Aから整理します。
| 収入 | いつの特定収入か |
|---|---|
| 前年度繰越金 | 繰越金を受け入れた年度ではなく、もとの収入を収受した年度で判定済み。受け入れた年度では判定しない |
| 繰越明許費として翌年度へ繰り越した補助金 | 実際に収受した年度の特定収入 |
| 繰上充用に係る収入 | 今年度ではなく、実際に収入として収受する翌年度で判定する |
| 消費税及び地方消費税の還付金 | 特定収入に該当しない(施行令第75条第1項第5号の「還付金」)。ただし還付加算金は特定収入になる |
繰越明許費について、国税庁は理由をこう述べています。
この繰越金には、「継続費の逓次繰越し」に限らず、「繰越明許費」及び「事故繰越し」も含まれるべきものです。
「歳入として立てた年度」ではなく「現に収受した年度」で見る、という一本の考え方で通っています。
還付金と還付加算金は分かれます。国税庁の問8です。
消費税の確定申告において控除不足還付税額が生じたことにより収受する還付金は、資産の譲渡等の対価以外の収入ですが、消費税法施行令第75条第1項第5号の「還付金」に該当しますので、特定収入に該当しない収入(特定収入以外の収入)となります。 なお、還付加算金は、利息的な要素はありますが、対価性がないことから資産の譲渡等の対価以外の収入に該当し、特定収入となります。
設例の注も「消費税及び地方消費税の還付金(還付加算金を除く。)」と書いており、同じ線引きです。 還付が続いている会計では、還付加算金を特定収入から落としていないか確かめてください。
数字で見る
国税庁のパンフレットに、下水道事業特別会計の設例があります(令和7年4月1日から令和8年3月31日までの課税期間)。 そのまま追ってみます。
収入の状況
| 項目 | 金額 | うち特定収入 |
|---|---|---|
| 下水道使用料収入(課税売上げ) | 130,000,000円 | — |
| 預金利息収入(非課税売上げ) | 100,000円 | — |
| 受益者負担金(課税仕入れに使途を特定) | 30,000,000円 | 30,000,000円 |
| 受益者負担金(補償費(不課税)に使途を特定) | 100,000円 | なし |
| 国庫補助金収入(課税仕入れに使途を特定) | 20,000,000円 | 20,000,000円 |
| 国庫補助金収入(地方債の利子の支払いに使途を特定) | 10,000,000円 | なし |
| 一般会計繰入金(課税仕入れに使途を特定) | 15,000,000円 | 15,000,000円 |
| 一般会計繰入金(人件費(通勤手当を除く。)に使途を特定) | 25,000,000円 | なし |
| 消費税及び地方消費税の還付金 | 250,000円 | なし |
落ちているのは4つあります。国税庁は設例の注でこう書いています。
○ 補助金等のうち、例えば、法令又は交付要綱等において地方債の利子の支払いに充てることとされているもの、合理的な方法により補償費(不課税)又は人件費(通勤手当を除く。)に使途が特定されたもの ○ 消費税及び地方消費税の還付金(還付加算金を除く。)
補助金等の側で利子・補償費・人件費の3つ、これに還付金250,000円が加わって4つです。 受益者負担金の100,000円が落ちているのは、 それが不課税の補償費に使途を特定されているからで、受益者負担金だから、ではありません。 一般会計繰入金も同じです。合計40,000,000円のうち、特定収入になったのは15,000,000円だけです。 25,000,000円が外れたのは、人件費(通勤手当を除く。)に使途を特定したからであって、 人件費に充てる繰入金だから当然に外れる、ということではありません。 特定収入から外れるのは、施行令第75条第1項第6号が「特定支出のためにのみ使用することとされている収入」と 書いているとおり、使途が特定されている場合です。
判定と計算
課税売上高(税抜き)は130,000,000円 × 100 ÷ 110 = 118,181,818円です(円未満切捨て)。
特定収入割合は、次のとおりです。
- 特定収入の合計額 = 30,000,000円 + 20,000,000円 + 15,000,000円 = 65,000,000円
- 分母 = 118,181,818円 + 100,000円 + 65,000,000円 = 183,281,818円
- 特定収入割合 = 65,000,000円 ÷ 183,281,818円 = 約35.5%
5%を超えているので、調整計算が必要です。
課税標準額は118,181,818円の1,000円未満を切り捨てて118,181,000円、 これに7.8%を乗じた課税標準額に対する消費税額は9,218,118円です。 仕入れ側は次のようになります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 調整前の仕入控除税額 | 6,233,695円 |
| 特定収入に係る課税仕入れ等の税額(調整税額) | 4,558,929円 |
| 控除対象外仕入れに係る調整対象額(加算) | 50,123円 |
| 控除対象仕入税額 | 1,724,889円 |
表の縦の並びは、上から「6,233,695円 + 50,123円 − 4,558,929円 = 1,724,889円」です。 引かれる4,558,929円が、繰入金と補助金と受益者負担金によって賄われた課税仕入れの分にあたります。
差引税額は9,218,118円 − 1,724,889円 = 7,493,229円で、100円未満を切り捨てて7,493,200円。 地方消費税は7,493,200円 × 22 ÷ 78 = 2,113,466円(円未満切捨て)で、 さらに100円未満を切り捨てて2,113,400円。合計9,606,600円が納付額です。
インボイス開始後に増えた調整があります
上の表にある「控除対象外仕入れに係る調整対象額」がそれです。
適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れは原則として仕入税額控除ができませんが、 それでも特定収入の調整計算の対象にはなります。二重に減らさないための調整が消費税法施行令第75条第8項に置かれました。
適用の入口は「取戻し対象特定収入」に当たるかどうかで、判定は第75条第9項です。
課税仕入れ等に係る特定収入により支出された課税仕入れに係る支払対価の額の合計額のうちに課税仕入れ等に係る特定収入により支出された控除対象外仕入れに係る支払対価の額の合計額の占める割合が百分の五を超える場合のその特定収入をいう。
**判定は補助金ごとです。**消費税法基本通達16-2-7は 「課税仕入れ等に係る特定収入ごとに、その課税仕入れ等に係る特定収入により支出された課税仕入れに係る支払対価の額の合計額を基礎として行う」としています。 設例でも、補助金Aは1%で該当せず、補助金Bは95%で該当する、と別々に判定されています。
補助金ごとに、免税事業者への支払がいくらあったかを集計できる状態にしておく必要があります。 これは会計システムの補助科目の設計の話です。決算のときに遡って作るのは困難です。
なお、免税事業者からの課税仕入れに係る経過措置の控除割合は、令和8年10月1日を境に段階的に下がります。 パンフレットの記載は次のとおりです。
適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れについては、令和8年10月1日からの2年間は仕入税額相当額の70%、令和10年10月1日からの2年間は仕入税額相当額の50%、令和12年10月1日からの1年間は仕入税額相当額の30%が控除可能です。
調整対象額はこの裏返しの割合(80%控除なら20%相当額)で計算するので、割合が変われば調整の額も変わります。
申告期限が3か月以内になるのは、法適用の企業だけです
会計の性質に合わせた特例があり、公営企業だけ短くなっています。消費税法施行令第76条第2項です。
| 区分 | 申告・納付期限 |
|---|---|
| 国 | 課税期間終了後5か月以内 |
| 地方公共団体(下記の地方公営企業を除く) | 課税期間終了後6か月以内 |
| 地方公営企業 | 課税期間終了後3か月以内 |
条文は第2号の括弧書きで地方公営企業法第30条第1項(決算)の規定の適用を受ける地方公共団体の経営する企業を6か月から除き、 第3号でこれを受けて3か月としています。パンフレットはこれを「地方公営企業」と呼んでいます。 第30条第1項は「管理者は、毎事業年度終了後二月以内に当該地方公営企業の決算を調製し」と定めている規定です。
したがって、法非適用の特別会計は3か月ではなく6か月です。 下水道事業の法適化を進めている団体は、移行によって申告期限が3か月前倒しになることを見込んでおいてください。 3月決算なら、9月30日だったものが6月30日になります。
パンフレットは、地方公営企業の範囲も示しています。
具体的には、水道事業(簡易水道事業を除きます。)、工業用水道事業、軌道事業、自動車運送事業、鉄道事業、電気事業、ガス事業、病院事業及び条例等により地方公営企業法を適用している事業を行っている企業をいいます。
申告方法にも義務があります。
国及び地方公共団体(地方公営企業を含む。)が行う消費税等の申告は、e-Taxにより提出することが義務付けられています。
帳簿の記載事項が5つ増えます
一般の事業者が記載する4項目(①取引の相手方の氏名又は名称、②取引年月日、 ③取引の内容(軽減税率の対象品目である旨)、④税率の異なるごとに区分した取引金額)に加えて、 特別会計は特定収入等に係る事項を記載する必要があります。
| # | 記載事項 |
|---|---|
| ⑤ | 特定収入等の内容 |
| ⑥ | 特定収入等の金額 |
| ⑦ | 特定収入等に係る相手方の氏名又は名称 |
| ⑧ | 特定収入等を受けた年月日 |
| ⑨ | 特定収入等の使途 |
**⑨の「使途」まで帳簿に書くことが求められています。**使途の特定を決算期にまとめて行う運用とは噛み合いません。
決算前に確認しておくこと
- 特別会計ごとに特定収入割合を計算したか。他の会計と合算していないか
- 一般会計繰入金のうち、対価性のあるものを特定収入に含めていないか
- 繰入金・補助金の積算内訳のうち、人件費・支払利子・減価償却費・土地購入費・補償費に対応する部分を分けたか
- 企業債の元金償還に充てる繰入金を、償還ではなくその企業債で行った事業に対応させたか
- その事業を行った課税期間が免税事業者だった場合に、特定収入から外したか
- 還付加算金を特定収入に入れたか(還付金は入らないが、還付加算金は入る)
- 使途を②の方法で特定した場合、正しい名義(管理者を置かない企業なら長)で文書を作り、按分なら計算過程も添付する準備ができているか
- ニの按分で償還費に落ちた部分を、ハに戻して過去の課税期間まで遡らせたか
- 按分を損益的取引と資本的取引の区分ごとに行ったか
- 補助金ごとに、免税事業者への支払額を集計できる状態か
- 法適化した年度は、申告期限が3か月以内に変わることを工程に織り込んだか
まとめ
- 判定は団体ではなく特別会計ごとです(消費税法第60条第1項)
- 調整が要らないのは、特定収入割合5%以下・簡易課税・2割特例の3つの場合だけです
- 一般会計繰入金でも、対価性があるものと、人件費・利子・減価償却費など特定支出に充てると使途を特定したものは特定収入になりません
- 企業債の元金償還に充てる繰入金は、償還ではなくその企業債で行った事業に対応させます。免税事業者だった期間の事業なら特定収入になりません
- 減価償却費に充てる補助金が外れるのは、地方公営企業法第20条の適用がある公営企業だけの取扱いです(消費税法基本通達16-2-4)
- 使途の特定は公営企業の側で行えます。名義は、管理者を置く企業なら管理者、置かない企業(財務規定等だけを適用した下水道事業など)なら地方公共団体の長です。ただし文書を確定申告書とともに提出し、按分なら計算過程も添付します
- 按分は損益的取引と資本的取引の区分ごとに行います
- 地方公営企業の申告期限は課税期間終了後3か月以内です。法適化で3か月前倒しになります
国税庁の設例では、特定収入の調整によって4,558,929円が控除できませんでした。 この額を動かせるのは、繰入金と補助金の使途をどこまで特定できているかです。 決算のときではなく、予算・交付要綱・積算内訳を作る段階で決まります。