中小企業向け税務

消費税の課税事業者になる判定 — 2年前の売上だけでは決まりません

「2年前の売上が1,000万円を超えたら消費税を納める」。ここまでは広く知られています。

ところが実務で判定を誤るのは、そこから先です。前年の上半期はどうか。資本金はいくらか。インボイスの登録をしているか。去年、機械を買っていないか。

入口は7つあります。どれか1つに当たれば課税事業者です。 そして「2年前の売上」は、そのうちの1つにすぎません。

自社で判定できるところまで整理します。

出発点は2年前。今年の売上では決まりません

まず条文です。

事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する(消費税法9条1項)

基準期間は、個人事業者ならその年の前々年、事業年度が1年の法人ならその事業年度の前々事業年度です。

ここで最も多い誤解があります。

当該課税期間における課税売上高が1,000万円以下の場合であっても、その基準期間における課税売上高が1,000万円を超えているときは、当該課税期間について同項本文の規定は適用されないことに留意する(消費税法基本通達1-4-1)

今年の売上が落ちても、今年の納税義務は変わりません。 効果が出るのは2年後です。逆に、今年いきなり売上が伸びても、それだけで年の途中から課税事業者になることはありません。上半期の売上は翌年に(特定期間)、通年の売上は翌々年に(基準期間)効いてきます。

課税期間の途中から課税事業者になることはあります。ひとつはインボイスの登録を受けた場合で、登録日から課税事業者となり、登録日から課税期間の末日までの期間について申告が必要になります。相続・合併・吸収分割でも同じことが起きます。 条文は、相続なら「当該相続のあつた日の翌日からその年十二月三十一日までの間」(消費税法10条1項)、合併なら「当該合併があつた日から当該合併があつた日の属する事業年度終了の日までの間」(同11条1項)、吸収分割なら同じ書き方で分割の日から事業年度の末日まで(同12条5項)について、免除しないと定めています。

この2年のずれが、資金繰りの事故を生みます。 納税義務は2年前の売上で決まるため、売上が落ちた年も課税事業者のままになり、その落ちた年の売上に係る消費税を納めることになるためです。判定に使う年と、税額を計算する年は別です。 納める額はあくまで今年の売上から計算します。

判定の入口は7つ

上から順に見てください。どれか1つでも当たれば課税事業者です。

#入口内容
1インボイスの登録適格請求書発行事業者の登録を受けている(消費税法9条1項の括弧書き)
2課税事業者の選択課税事業者選択届出書を提出し、その効力が続いている(9条4項)
3基準期間基準期間の課税売上高が1,000万円超(9条1項)
4特定期間特定期間の課税売上高が1,000万円超(9条の2第1項)
5基準期間がない法人事業年度開始の日の資本金の額または出資の金額が1,000万円以上、または特定新規設立法人(12条の2、12条の3)
6相続・合併・分割承継元の課税売上高(承継先の課税売上高との合計額による場合もあります)が一定額を超える(10条、11条、12条)
7高額な資産の取得高額特定資産などを取得した(12条の4)

1と2は自分で選んだ結果、3と4は売上の規模による判定、5から7は特例によって免除が外れるものです。

以下、実務で判定を誤るところだけを取り上げます。

つまずくのは「課税売上高」の中身です

1,000万円という数字は覚えられています。間違えるのは、何を1,000万円と比べるかのほうです。

免税事業者だった年は、税抜きにしません

これが最も多い誤りです。

基準期間である課税期間において免税事業者であった事業者が、当該基準期間である課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等については消費税等が課されていない。したがって、その事業者の基準期間における課税売上高の算定に当たっては、免税事業者であった基準期間である課税期間中に当該事業者が国内において行った課税資産の譲渡等に伴って収受し、又は収受すべき金銭等の全額が当該事業者のその基準期間における課税売上高となる(消費税法基本通達1-4-5)

免税事業者は消費税を課されていないので、割り戻す消費税がありません。 受け取った金額がそのまま課税売上高です。

数字で見ます。免税事業者だった年の売上が1,050万円だったとします。

  • 誤って1.1で割ると 約955万円。1,000万円以下なので免税、と判定してしまう
  • 正しくは 1,050万円 で判定。1,000万円超なので課税事業者

税抜き1,000万円ちょうどに相当する税込額は1,100万円です。 1,000万円から1,100万円の帯に売上がある事業者は、この処理ひとつで結論が反転します。

年の途中で課税事業者になった場合は、期間ごとに扱いが分かれます。国税庁が計算例を示しています。

① 令和X年1月~9月 課税売上高 5,500,000円 ② 令和X年10月~12月 課税売上高 4,400,000円 ⇒ ① 5,500,000円 + ② 4,400,000円×100/110 = 9,500,000円   そのまま計算      税抜処理

免税事業者だった1月から9月はそのまま、課税事業者だった10月から12月は税抜処理をして足します。1つの年の中で2つの処理が混在します。

輸出免税は含み、非課税売上は含みません

基準期間における課税売上高及び特定期間における課税売上高には、(中略)第7条《輸出免税等》、第8条《輸出物品販売場における輸出物品の譲渡に係る免税》若しくは租特法第85条《外航船等に積み込む物品の譲渡等に係る免税》から第86条の2《海軍販売所等に対する物品の譲渡に係る免税》まで又はその他の法律若しくは条約の規定により消費税が免除される場合の課税資産の譲渡等に係る対価の額を含み消費税額等、特定資産の譲渡等の対価の額、(中略)売上げに係る対価の返還等の金額(中略)は含まないのであるから留意する(消費税法基本通達1-4-2)

輸出免税は「課税資産の譲渡等」のうち消費税が免除されるものであって、非課税ではありません。 判定には含めます。輸出比率の高い事業者が「免税だから」と外すと、判定を誤ります。

一方、非課税売上は入りません。 課税売上高の対象は「課税資産の譲渡等」で、これは資産の譲渡等のうち消費税法6条1項で非課税とされるもの以外のものだからです(消費税法2条1項9号)。住宅の家賃、土地の譲渡・貸付け、社会保険診療などは判定から外れます。

返品・値引きは引き、貸倒れは引きません

条文は「対価の額の合計額から売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額」としています(消費税法9条2項1号)。返品・値引き・割戻しは差し引きます。

貸倒れは差し引きません。

法第39条第1項《貸倒れに係る消費税額の控除等》に規定する事実が生じたため領収することができなくなった課税資産の譲渡等の対価の額は、当該基準期間及び当該特定期間に国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から控除しない(消費税法基本通達1-4-2 注2)

回収できなかった売上も、判定上は売上のままです。 納税額の計算では貸倒れに係る消費税額を控除できますが、それと納税義務の判定は別の話です。

法人は年換算する。個人はしない

ここは法人と個人で結論が逆です。

法人の基準期間が1年でない場合は、年換算します。

基準期間が一年でない法人 基準期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から当該基準期間における売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額を当該法人の当該基準期間に含まれる事業年度の月数の合計数で除し、これに十二を乗じて計算した金額(消費税法9条2項2号)

月数は「暦に従つて計算し、一月に満たない端数を生じたときは、これを一月とする」とされています(同条3項)。

基準期間に含まれる事業年度が10か月、その期間の課税売上高が900万円だった法人で計算します。

9,000,000円 ÷ 10 × 12 = 10,800,000円

1,080万円となり、1,000万円を超えます。年換算しなければ900万円で免税、換算すれば課税事業者。結論が反転します。

個人事業者は換算しません。

個人事業者の基準期間における課税売上高については、次に掲げる場合のように当該基準期間において事業を行っていた期間が1年に満たないときであっても、当該基準期間における課税売上高によって法第9条第2項第1号《個人事業者に係る課税売上高》の規定を適用する(消費税法基本通達1-4-9)

国税庁も「個人事業者の場合、その事業を開始した日がいつであるかにかかわらず、基準期間の課税売上高を1年分(12か月相当)に換算する必要はありません」としています。前々年の3月に開業して900万円なら、900万円のまま判定します。

特定期間は「かつ」ではありません

前年の上半期を見るのが特定期間の判定です。ここは条文の読み方が結論を変えます。

特定期間は、個人事業者ならその年の前年1月1日から6月30日まで、法人なら原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間です(消費税法9条の2第4項)。

条文は、この期間の課税売上高が1,000万円を超えるときは免除しない、と定めています(同条1項)。そして、同じ条にこの規定が置かれています。

国外事業者以外の事業者が第一項の規定を適用する場合においては、前項の規定にかかわらず、当該事業者が第一項の特定期間中に支払つた(中略)給与等の金額に相当するものとして財務省令で定めるものの合計額をもつて、第一項の特定期間における課税売上高とすることができる(消費税法9条の2第3項)

「することができる」です。 国税庁も「いずれの基準で判定するかは納税者の任意です」としています。

条文に「かつ」とは書かれていません。 しかし選択が任意である結果、実務上はこうなります。

特定期間の課税売上高特定期間の給与等支払額この特例では
1,000万円以下問わない課税事業者にならない
1,000万円超1,000万円以下課税事業者にならない(給与等で判定できる)
1,000万円超1,000万円超課税事業者になる

国税庁の質疑応答事例も「特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額が1,000万円を超えていなければ、給与等支払額により免税事業者と判定することができます」としています。

ただし国外事業者は選べません。 その課税期間の初日において国外事業者(所得税法上の非居住者である個人事業者と法人税法上の外国法人)である場合は、令和6年10月1日以後に開始する課税期間から、給与等支払額による判定ができません。

給与等に何を入れるかで判定が変わります

当該給与等の金額とは、所得税の課税対象とされる給与、賞与等が該当し、所得税が非課税とされる通勤手当、旅費等は該当しないことに留意する(消費税法基本通達1-5-23)

特定期間中において支払った給与等の金額には、未払額は含まれないことに留意する(同 注1)

役員報酬は含みます。通勤手当と旅費は含みません。未払いは含まず、実際に払った時に含めます。

数字で見ます。特定期間の課税売上高が1,200万円、給与等支払額が980万円の事業者は、給与等で判定して課税事業者になりません。ところが所得税が非課税となる通勤手当40万円を足してしまうと1,020万円となり、判定が変わります。

出向にも注意点があります。

出向契約に基づき出向先事業者が出向元事業者に対して支払う給与負担金については、出向する使用人に対する給与を出向元事業者が支払い、その支払明細書を出向元事業者が交付する場合には、出向元事業者の給与支払額となるため、出向先事業者における特定期間の給与支払額には該当しません

設立1期目が7か月以下なら、特定期間はありません

条文は、前事業年度が「七月以下であるものその他の政令で定めるもの(次号において「短期事業年度」という。)」である場合を除いて、前事業年度開始の日以後6か月の期間を特定期間としています(消費税法9条の2第4項2号)。

国税庁の質疑応答事例も、設立1期目が7か月以下の場合について「法人設立の日から前事業年度終了日までに6か月の期間がありますが、前事業年度は7か月以下であるためその期間は特定期間に該当しません。したがって、前事業年度の課税売上高による判定の必要はありません」としています。

設立1期目を7か月以下にすれば、2期目は特定期間の判定が要りません。 ただし、事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であればそもそも課税事業者ですし(同 ※2)、既存の法人が決算期を変更して短期事業年度になった場合は、前々事業年度(その事業年度の基準期間に含まれるものその他の政令で定めるものを除きます)開始の日以後6か月の期間が特定期間になります(9条の2第4項3号)。「1期目を短くすればよい」という話を、決算期変更にそのまま当てはめないでください。

法人を作れば2年間は免税、とは限りません

設立1期目と2期目には基準期間がありません。原則として免除されますが、2つの例外があります。

資本金1,000万円以上

その事業年度の基準期間がない法人(社会福祉法(中略)に規定する社会福祉法人その他の専ら別表第二に掲げる資産の譲渡等を行うことを目的として設立された法人で政令で定めるものを除く。)のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が千万円以上である法人(中略)については、(中略)第九条第一項本文の規定は、適用しない(消費税法12条の2第1項)

「事業年度開始の日における」です。 国税庁はこの帰結を明示しています。

例えば、資本金の額を1,000万円未満で設立した後、設立1期目の途中で増資したことにより資本金の額が1,000万円以上となった場合には、設立2期目は課税事業者となります

増資の時期は、期首をまたぐかどうかで意味が変わります。

特定新規設立法人

資本金1,000万円未満でも、次の両方に当たれば課税事業者です。

要件内容
特定要件その基準期間がない事業年度開始の日において、他の者により発行済株式等の50パーセント超を直接または間接に保有されるなど、他の者により支配される一定の場合に該当すること
規模の要件特定要件の判定の基礎となった他の者および特殊関係法人のうちいずれかの者(判定対象者)の、基準期間に相当する期間における課税売上高が5億円超であること。または売上金額、収入金額その他の収益の額の合計額が、国外におけるものも含め50億円超であること

50億円のほうは令和6年10月1日以後に開始する課税期間からの要件です。 国税庁は「この『売上金額、収入金額又はその他の収益の額の合計額』とは、国内において行われる資産の譲渡等の対価の額に限らず、国外において行われる資産の譲渡等の対価や資産の譲渡等の対価以外の収入も含みます」としています。

判定対象者は、50パーセント超を持つ会社だけではありません。 国税庁の質疑応答事例は、A社100万円・B社200万円・C社50万円の出資で資本金350万円の法人を設立した事例で、50パーセント超を出資したのはB社でありながら、B社の100パーセント子会社であるC社が特殊関係法人に当たり、C社の課税売上高が常に5億円超であることから特定新規設立法人に該当する、としています。この事例では、A社とB社の課税売上高は常に5億円以下です。50パーセント超を持つ会社が小さくても、その会社が完全支配する法人が大きければ、そちらで決まります。

なお、特定要件に該当するかどうかは「その基準期間がない事業年度開始の日の現況による」とされています(消費税法基本通達1-5-15の2)。

法人成りでは、個人時代の売上を引き継ぎません

個人事業者のいわゆる法人成りにより新たに設立された法人であっても、当該個人事業者の基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高は、当該法人の基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高とはならない(消費税法基本通達1-4-6 注)

判定は事業者単位です。 ただし、上の資本金と特定新規設立法人の判定は別に当たりますし、法人成りした年の個人事業者としての期間は個人側の判定によります。国税庁の質疑応答事例も「法人成りに係る個人事業者の法人成りした年の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていますので、その年の個人事業者であった期間については納税義務は免除されません」としています。

該当したら届出が必要です

新設法人に該当することとなった場合は「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を、特定新規設立法人に該当することとなった場合は「消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書」を提出します。ただし新設法人については、法人設立届出書に所要の事項を記載して提出すれば、届出があったものとして取り扱われます(消費税法基本通達1-5-20)。

インボイスの登録をしていれば、売上に関係なく課税事業者です

消費税法9条1項の括弧書きが「(適格請求書発行事業者を除く。)」となっています。登録している限り、基準期間の課税売上高がいくらであっても免除されません。

適格請求書発行事業者は、その登録日の属する課税期間以後の課税期間については、法第9条第1項本文《小規模事業者に係る納税義務の免除》の規定の適用はないことに留意する(消費税法基本通達1-4-1の2)

戻るには手続と時間がかかります。

  1. 「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を出す。 提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日に効力が失われます。ただし国税庁は「翌課税期間の初日から起算して15日前の日を過ぎて提出した場合は、翌々課税期間の初日に登録の効力が失われる」としています(国税庁インボイス制度に関するQ&A問13)。根拠は消費税法57条の2第10項1号ですが、「15日前の日」を定めているのは消費税法施行令70条の5第3項のほうです。条文だけを引くと、日数が出てきません
  2. 登録の経過措置で登録した場合は、取りやめても一定期間は戻れません。 「免税事業者が登録に係る経過措置により令和5年10月1日を含む課税期間以外の課税期間に適格請求書発行事業者の登録を受けた場合は、適格請求書発行事業者の登録を取りやめたとしても、登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間について免税事業者となることはできません」(平成28年改正法附則44条5項)
  3. 課税事業者選択届出書を出しているなら、その効力も消す。 選択届出書は「課税事業者選択不適用届出書を提出しない限り効力は存続」します(消費税法基本通達1-4-11)。国税庁も、登録の効力が失われた後に免税事業者となるには「適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに『消費税課税事業者選択不適用届出書』を提出する必要があります」としています

登録をやめる判断は、期末の直前では間に合いません。 期限は「翌課税期間の初日から起算して15日前の日」です。

なお、免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、登録申請書に登録希望日を記載することでその日から課税事業者となる経過措置があり、課税事業者選択届出書の提出は要りません(平成28年改正法附則44条4項)。この経過措置で登録した人には、上の2年の制限が付いてきます。

設備投資をすると、あとから引き戻されます

判定を通って免税事業者に戻れるはずだったのに、戻れなくなる類型です。

取得したもの金額(いずれも税抜き)判定の単位効果
高額特定資産(棚卸資産または調整対象固定資産)1,000万円以上一の取引の単位仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から、その課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで免税点なし
金または白金の地金等200万円以上課税期間中の合計額同上
調整対象固定資産(棚卸資産以外)100万円以上一の取引の単位課税事業者選択届出書を出して課税事業者となった日から2年を経過する日までの間に開始した課税期間中に取得し、かつその仕入れた日の属する課税期間の確定申告を一般課税で行った場合、その仕入れ等を行った課税期間の初日から原則として3年間は免税事業者になれない

上の2つは、課税事業者が「簡易課税制度および2割特例の適用を受けない課税期間中」に取得した場合が対象です。 条文は「事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が」と書いており、括弧書きで免税事業者を外しています(消費税法12条の4第1項・3項)。免税事業者のまま取得したのであれば、この縛りは掛かりません。 ただし棚卸資産については、免税事業者から課税事業者になるときの棚卸資産の調整(同36条1項・3項)を受けると、その課税期間の翌課税期間から同じ3年の制限が掛かります(同12条の4第2項)。

3つ目の調整対象固定資産は、その仕入れた日の属する課税期間の確定申告を一般課税で行った場合が対象です。簡易課税や2割特例で申告していれば、この縛りは掛かりません。

3つ目は、かかる相手が限られます。 課税事業者選択届出書を出した事業者(消費税法9条7項)と、新設法人・特定新規設立法人(同12条の2第2項、12条の3第3項)です。基準期間や特定期間の課税売上高で課税事業者になっている事業者が100万円の機械を買っても、この縛りは掛かりません。 上の2つと違い、課税事業者なら誰にでも掛かる規定ではありません。

判定の単位が違う点にも注意してください。高額特定資産と調整対象固定資産は一の取引の単位で見ますが、金または白金の地金等は課税期間中の仕入れ等の金額の合計額で見ます。小分けに仕入れても合算されます。

自分で建てた場合は、完成した時点が起点になります。 自己建設高額特定資産については、建設等に要した原材料および経費に係る税抜価額(免税事業者であった課税期間や、簡易課税制度・2割特例の適用を受ける課税期間に行ったものは除きます)の累計額が1,000万円以上となった時点で該当し、免税点が使えないのは「その自己建設高額特定資産の建設等が完了した日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで」です。着手した年ではなく、完成した年から3年を数えます。

これらに当たったときは「高額特定資産の取得等に係る課税事業者である旨の届出書」を、事由が生じた場合速やかに提出します。

届出は「速やかに」。期限があるものは休日でも延びません

判定の結果として出す届出をまとめます。

届出書出す場面期限
消費税課税事業者届出書(基準期間用)基準期間の課税売上高が1,000万円超となったとき事由が生じた場合速やかに
消費税課税事業者届出書(特定期間用)特定期間の課税売上高が1,000万円超となったとき事由が生じた場合速やかに
消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書基準期間の課税売上高が1,000万円以下となったとき事由が生じた場合速やかに
消費税課税事業者選択届出書免税事業者が課税事業者になることを選択するとき選択しようとする課税期間の初日の前日まで
消費税課税事業者選択不適用届出書課税事業者の選択をやめて免税事業者に戻ろうとするとき選択をやめようとする課税期間の初日の前日まで
適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書登録の取消しを求めるとき登録の取消しを求める課税期間の初日から起算して15日前の日まで

期限のあるものは、休日でも延びません。

提出期限等が課税期間の初日の前日等までとされている届出書及び適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書については、該当日が日曜日等の国民の休日等に当たる場合であっても、その日までに提出がなければそれぞれの規定の適用を受けることができませんのでご注意ください。 ただし、これらの届出書が郵便または信書便により提出された場合には、その郵便物または信書便物の通信日付印により表示された日に提出されたものとみなされます

12月31日が期限で、その日が日曜日でも翌日にはなりません。 一方、郵便であれば消印の日で判定されます。窓口が閉まる期末は、この差が効きます。

なお、新たに事業を開始した場合の課税事業者選択届出書は、その事業を開始した日の属する課税期間の末日までに提出すれば、その課税期間から課税事業者になれます。設備投資が先行して還付が見込まれるときは、この期限が効きます。

課税事業者になったあとの計算方法は別の話です

判定の結果として課税事業者になったとして、納税額をどう計算するかは別に決めます。一般課税、簡易課税(基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合に限られます)、そして経過措置。

インボイス制度をきっかけに課税事業者になった方が使ってきた2割特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間で終わります。その後、個人事業者に限って3割特例が用意されています。この先どの方法で申告するかは、2割特例はいつまで使えるかで整理しています。

まとめ

  • 判定に使うのは今年の売上ではありません。 基準期間(2年前)です。今年売上が落ちても、今年の納税義務は変わりません
  • 入口は7つ。 インボイス登録、課税事業者選択、基準期間、特定期間、基準期間がない法人、相続・合併・分割、高額な資産の取得。どれか1つで課税事業者になります
  • 免税事業者だった年の売上は税抜きにしません。 1,050万円は1,050万円のまま判定します。1.1で割ると約955万円になり、結論が反転します
  • 輸出免税は含み、非課税売上は含みません。 返品・値引きは引き、貸倒れは引きません
  • 法人は年換算し、個人はしません。 10か月・900万円の法人は1,080万円として判定されます
  • 特定期間は条文上「かつ」ではありません。 課税売上高に代えて給与等支払額で判定でき、選択は納税者の任意です。結果として、両方が1,000万円を超えるときにだけ課税事業者になります(国外事業者は選べず、課税売上高だけで判定されます)。通勤手当と未払給与を給与等に入れないこと
  • 設立1期目が7か月以下なら、2期目に特定期間の判定は要りません。 ただし決算期変更の場合は前々事業年度が特定期間になります
  • 法人を作れば2年免税、とは限りません。 期首資本金1,000万円以上、または特定新規設立法人に当たれば課税事業者です。期中の増資は翌期に効きます
  • インボイス登録をしている限り、売上に関係なく課税事業者です。 取消しの届出は翌課税期間の初日から起算して15日前の日まで。経過措置で登録した場合は、登録日以後2年を経過する日の属する課税期間まで戻れません
  • 設備投資は判定を後ろに引きずります。 課税事業者であった課税期間に取得した、税抜き1,000万円以上の高額特定資産、合計200万円以上の金地金等

判定が割れるのは、たいてい複数の入口が同時に効いているときです。法人成りと同時にインボイス登録をした、免税に戻る年に設備投資をした、決算期を変えた。どの入口に当たっているかを一つずつ潰さないと、届出の期限を1日で落とします。

設立や法人成りの予定、直近3期の売上と給与、株主構成、設備投資の計画。この4つを拝見できれば、どの課税期間から課税事業者になるかと、いつまでに何を出すべきかをお示しできます。 判定だけでなく、届出の期限を管理するところまでが仕事だと考えています。

よくある質問

今年の売上が1,000万円を下回りました。今年は消費税を納めなくてよいですか。

その年の売上では決まりません。判定に使うのは基準期間(個人事業者はその年の前々年、事業年度が1年の法人はその事業年度の前々事業年度)の課税売上高です。国税庁の通達も「当該課税期間における課税売上高が1,000万円以下の場合であっても、その基準期間における課税売上高が1,000万円を超えているときは、当該課税期間について同項本文の規定は適用されない」としています。売上が落ちた効果が出るのは2年後です。

免税事業者だった年の売上は、税抜きに引き直して判定するのですか。

引き直しません。免税事業者であった期間の売上には消費税が課されていないため、受け取った金額の全額がそのまま課税売上高になります(消費税法基本通達1-4-5)。ここを1.1で割ってしまうと、判定が反転することがあります。たとえば免税事業者だった年の売上が1,050万円なら、税抜きに引き直せば約955万円ですが、判定に使うのは1,050万円ですので課税事業者です。

前年の上半期の売上が1,000万円を超えました。もう課税事業者ですか。

給与等支払額で判定できる場合があります。特定期間の判定は、課税売上高に代えて、特定期間中に支払った給与等の金額の合計額によることができ、国税庁は「いずれの基準で判定するかは納税者の任意です」としています。したがって、課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額が1,000万円以下であれば、この特例では課税事業者になりません。ただし、その課税期間の初日において国外事業者である場合は、令和6年10月1日以後に開始する課税期間から給与等支払額による判定ができません。

給与等支払額には何を含めますか。

所得税の課税対象となる給与、賞与、役員報酬です。所得税が非課税とされる通勤手当や旅費は含みません。また「支払った」金額ですので、未払いの給与や賞与は含まず、実際に払った時の給与等支払額に含めます。出向先が出向元に支払う給与負担金も、給与を出向元が支払い支払明細書を出向元が交付する場合には、出向先の給与支払額には該当しません。

法人を作れば2年間は消費税を納めなくてよいと聞きました。

いつもそうとは限りません。設立1期目・2期目は基準期間がないため原則として免除されますが、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であれば課税事業者です。資本金1,000万円未満でも、他の者に50パーセント超を保有されるなどの特定要件に該当し、かつ判定対象者の基準期間相当期間の課税売上高が5億円を超える(または収益の額の合計額が50億円を超える)場合は、特定新規設立法人として課税事業者になります。設立1期目の途中で増資して期首資本金が1,000万円以上になれば、2期目は課税事業者です。

個人事業から法人成りしました。個人時代の売上は引き継がれますか。

引き継がれません。納税義務の判定は事業者単位で行うため、法人成り前の個人と法人成り後の法人は別々に判断します。国税庁も「個人事業者のいわゆる法人成りにより新たに設立された法人であっても、当該個人事業者の基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高は、当該法人の基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高とはならない」としています。ただし新設法人・特定新規設立法人の特例は別に当たりますし、法人成りした年の個人事業者としての期間は、個人側の判定によります。

インボイスの登録をやめれば、免税事業者に戻れますか。

すぐには戻れないことがあります。登録の効力を失わせるには「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」の提出が必要で、翌課税期間の初日から起算して15日前の日を過ぎて提出すると、効力が失われるのは翌々課税期間の初日になります。さらに、免税事業者が登録の経過措置により令和5年10月1日を含む課税期間以外の課税期間に登録を受けた場合は、登録を取りやめても登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者になれません。課税事業者選択届出書を出している場合は、その効力を消すための不適用届出書も別に必要です。

設備投資をすると、あとから課税事業者に引き戻されると聞きました。

課税事業者であった期間の取得であれば引き戻されます。課税事業者が、簡易課税制度と2割特例のいずれの適用も受けない課税期間中に、一の取引の単位につき税抜き1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産(高額特定資産)を取得すると、その仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から、その課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者になれません。金または白金の地金等は、課税期間中の仕入れ等の合計額が税抜き200万円以上で同じ扱いになります。こちらは一の取引単位ではなく合計額で判定します。免税事業者のまま取得したのであればこの制限は掛かりませんが、棚卸資産については、課税事業者になるときの棚卸資産の調整を受けると同じ3年の制限が掛かります。

出典

お問い合わせ・ご相談

学校法人の会計監査、公営企業の会計指導、税務申告のことなら鳥生紘平公認会計士事務所にお任せください。

初回相談は無料です

受付時間: 平日 9:00〜18:00