税務調査で必ず見られる論点です。
そして、判定を間違える原因のほとんどは「順序」にあります。 20万円、3年周期、60万円、10%、30%。基準の名前は知られていますが、どれをどの順で使うかが決まっていることは、あまり知られていません。
順序を飛ばすと結論が変わります。整理します。
名目では決まりません
まず条文です。
内国法人が、修理、改良その他いずれの名義をもつてするかを問わず、その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額)は、その内国法人のその支出する日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない(法人税法施行令132条)
「いずれの名義をもつてするかを問わず」。請求書に「修繕費」と書いてあっても、それで決まりません。
国税庁も同じことを述べています。
修繕費になるかどうかの判定は修繕費、改良費などの名目によって判断するのではなく、その実質によって判定します
実務で残すべきは、請求書ではなく工事の中身が分かる資料です。 見積書の内訳、仕様書、工事前後の写真。調査で聞かれるのはそこです。
資本的支出の定義は2つ。両方に当たれば「多い方」
施行令132条は、損金に算入しない金額を2つ挙げています。
| 号 | 内容 |
|---|---|
| 1号 | その支出により、資産の取得の時において通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される使用可能期間を延長させる部分に対応する金額 |
| 2号 | その支出により、同じく予測されるその支出の時における資産の価額を増加させる部分に対応する金額 |
「そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額」 です。
ここは見落とされがちです。両方に該当しても、合計しません。 期間の延長分と価値の増加分を足すのではなく、多い方を採ります。
何が資本的支出で、何が修繕費か
通達が例示しています。
資本的支出の例示(7-8-1)
- 建物の避難階段の取付等、物理的に付加した部分に係る費用の額
- 用途変更のための模様替え等、改造又は改装に直接要した費用の額
- 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合の、通常の取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額
3つ目に注意してください。取替費用の全額ではなく、通常の取替えを超える部分だけが資本的支出です。
そして注書きがあります。
建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる
増築は資本的支出ですらありません。「取得」です。 資本的支出なら既存資産の耐用年数で償却できる場合がありますが、取得は新しい資産として扱います。ここを取り違えると償却の計算が変わります。
修繕費に含まれる費用の例示(7-8-2)から、実務で効くものを挙げます。
- 建物の移えい又は解体移築に要した費用。ただし解体移築は「旧資材の70%以上がその性質上再使用できる場合であって、当該旧資材をそのまま利用して従前の建物と同一の規模及び構造の建物を再建築するもの」に限る。また「移えい又は解体移築を予定して取得した建物についてした場合を除く」
- 機械装置の移設に要した費用(解体費を含む)。ただし「7-3-12《集中生産を行う等のための機械装置の移設費》の本文の適用のある移設を除く」
- 現に使用している土地の水はけを良くする等のために行う砂利、砕石等の敷設に要した費用、砂利道への補充費用
解体移築の70%は覚えておく価値があります。 数字が出てくる数少ない要件です。
除外にも注意してください。 移築を前提に買った建物の移築費用は、ここに入りません。機械装置の移設も、7-3-12 の本文が適用される移設は別扱いです。7-3-12 が挙げているのは2つの場面で、集中生産又はよりよい立地条件において生産を行う等のため一の事業場の機械装置を他の事業場に移設した場合と、ガスタンク、鍛圧プレス等多額の据付費を要する機械装置を移設した場合が「又は」で並んでいます(収用換地等に伴う移設は除かれます)。後者は移設の目的を問いません。 事業場をまたがない据え直しでも当たりうるので、前者だけを見て「うちは集中生産ではないから修繕費」と決めないでください。
これに当たる場合、運賃・据付費等の移設費はその機械装置の取得価額に算入します(解体費を除く。7-8-2(2) が「解体費を含む」としているのと逆です)。ただし移設費の合計額が移設直前の帳簿価額の10%相当額以下であるときは、旧据付費に相当する金額を損金に算入しないで、移設費をその事業年度の損金に算入することもできます。「修繕費に含まれる」と書かれた項目でも、括弧書きで外れる場面が付いています。
判定の順序
ここが本題です。3つの通達には適用の順序があります。
| 順 | 通達 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 1 | 7-8-3 | 一の修理、改良等の費用が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行われることが既往の実績その他の事情から明らか | 修繕費として損金経理できる |
| 2 | 7-8-4 | 区分が明らかでない金額が、60万円未満、または前期末取得価額のおおむね10%以下 | 修繕費として損金経理できる |
| 3 | 7-8-5 | 上の適用を受けるものを除いた、区分が明らかでない金額について、継続して「30%」と「前期末取得価額の10%」のいずれか少ない金額を修繕費とする経理 | その処理を認める |
なぜ順序が要るのか。
7-8-4 は「一の修理、改良等のために要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合」の規定です。内容から資本的支出と判定できるものには使えません。
7-8-5 に至っては、条文に「(7-8-3又は7-8-4の適用を受けるものを除く)」と明記されています。
国税庁も、20万円未満や3年周期の場合の費用および形式基準の適用がある支出額については「それぞれの取扱いが優先して適用されます」としています。
順序を飛ばして30%基準から入ると、本来全額が修繕費になるものを7割以上、資本的支出にしてしまいます。
「7割以上」です。7-8-5 が修繕費とするのは「30%相当額」と「前期末取得価額の10%相当額」の少ない方なので、取得価額の10%のほうが小さければ修繕費はさらに減ります。支出50万円・前期末取得価額100万円なら、修繕費は10万円(20%)、資本的支出は40万円(80%)です。
有利不利で選ぶものではなく、上から順に当てはめるものです。
「一の修理、改良等」が判定の単位です
7-8-3 は「一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理、改良等」を単位としています。
工事を分けて発注しても、一の計画に基づくものなら合算します。 20万円未満に収めるために分割する、という発想は通りません。
ただし「2以上の事業年度にわたって行われるときは、各事業年度ごとに要した金額」で判定します。期をまたぐ工事は、年度ごとに見ます。
「同一の固定資産」の意味にも注記があります。
一の設備が2以上の資産によって構成されている場合には当該一の設備を構成する個々の資産とし、送配管、送配電線、伝導装置等のように一定規模でなければその機能を発揮できないものについては、その最小規模として合理的に区分した区分ごととする
30%基準は「継続して」が要件です
7-8-5 の条文をもう一度読んでください。
法人が、継続してその金額の30%相当額とその修理、改良等をした固定資産の前期末における取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、これを認める
「継続して」です。 有利な年だけ使うことはできません。そして「いずれか少ない金額」を修繕費とします。多い方ではありません。
よくある誤解を2つ
耐用年数が過ぎていても、判定は同じです
耐用年数を経過した減価償却資産について修理、改良等をした場合であっても、その修理、改良等のために支出した費用の額に係る資本的支出と修繕費の区分については、一般の例によりその判定を行うことに留意する(7-8-9)
償却が終わっているから全額修繕費、にはなりません。 古い機械の大規模な改修でよく問題になります。
ソフトウェアも同じ枠組みです
当該修正等が、プログラムの機能上の障害の除去、現状の効用の維持等に該当するときはその修正等に要した費用は修繕費に該当し、新たな機能の追加、機能の向上等に該当するときはその修正等に要した費用は資本的支出に該当する(7-8-6の2)
不具合の修正は修繕費、機能追加は資本的支出。 建物や機械と同じ考え方です。
システムの改修は、1つの発注に「不具合対応」と「機能追加」が混ざりがちです。稟議書や仕様書の段階で、どちらの目的かを書き分けておいてください。 後から区分しようとすると、根拠がありません。
なお、既に有しているソフトウエア又は購入したパッケージソフトウエア等の仕様を大幅に変更するための費用については、注書きが付いています。
既に有しているソフトウエア又は購入したパッケージソフトウエア等の仕様を大幅に変更するための費用のうち、7-3-15の2(注)2《自己の製作に係るソフトウエアの取得価額等》により取得価額になったもの(7-3-15の3《ソフトウエアの取得価額に算入しないことができる費用》により取得価額に算入しないこととしたものを含む。)以外のものは、資本的支出に該当することに留意する(7-8-6の2 注1)
「取得価額になったもの以外」が資本的支出です。 大幅な仕様変更だから資本的支出、と一段で決まるのではなく、まず取得価額に入るかどうかを先に見ます。
その入口が 7-3-15の2(注)2 です。既存ソフトウエア等の仕様を大幅に変更して「新たなソフトウエアを製作する」ための費用は、その新たなソフトウエアの取得価額になります。なお、新たなソフトウエアの製作に伴って既存ソフトウエア等を利用することが見込まれない場合に限り、既存ソフトウエア等の残存簿価は新たなソフトウエアの製作のための原材料費になるとされています。「限り」が付いている点に注意してください。
さらに注2で、これらの費用が研究開発費に該当する場合(自社利用のソフトウエアについては、将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかな場合の研究開発費に限る)は、資本的支出に該当しないこととすることができるとされています。
災害の場合は別の扱いです
災害により被害を受けた固定資産(被災資産)については、7-8-1から7-8-5までにかかわらず、次の扱いになります(7-8-6)。
| 支出の内容 | 扱い |
|---|---|
| 原状を回復するために支出した費用 | 修繕費に該当する |
| 被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等 | 修繕費とする経理をしているときは認める |
| 上記以外で区分が明らかでないもの | 30%相当額を修繕費とする経理を認める |
災害の30%基準には「継続して」の要件がありません。 7-8-5 とは別の規定です。
ただし2つの除外があります。その被害に基づいて評価損(法人税法33条2項)を計上した固定資産は、そもそも「被災資産」から外れます。 また、被災資産の復旧に代えて資産の取得をし、又は特別の施設を設置する場合は新たな資産の取得に該当します。ここは括弧書きが効いていて、特別の施設のうち「被災資産の被災前の効用を維持するためのもの」は除かれます(7-8-6注1)。効用の維持にとどまる施設まで取得扱いになるわけではありません。
賃借資産についても手当てがあります。 補修義務がない場合でも、賃借資産が災害により被害を受けたため原状回復のための補修を行い、その費用を修繕費として経理したときは認められます(7-8-10)。
まとめ
- 名目では決まりません。 施行令132条は「いずれの名義をもつてするかを問わず」と定めています。残すべきは請求書ではなく工事の中身が分かる資料です
- 資本的支出は使用可能期間の延長と価額の増加の2つ。両方に当たれば合計せず、多い方を採ります
- **増築・拡張・延長は「取得」**です。資本的支出ではありません
- 判定には順序があります。 7-8-3(20万円・3年周期)→ 7-8-4(60万円・10%)→ 7-8-5(30%)。下から入ると損をします
- 判定の単位は「一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理、改良等」。分割発注では逃げられません
- 30%基準は「継続して」が要件で、「いずれか少ない金額」を修繕費とします
- 耐用年数を経過していても判定は同じです
- ソフトウェアも同じ枠組み。不具合の修正は修繕費、機能追加は資本的支出。稟議の段階で書き分けてください
- 災害の特例は別建てで、原状回復は修繕費、区分が明らかでないものは30%。ただし評価損を計上した資産は除かれます
判定が割れるのは、たいてい1つの工事に複数の目的が混ざっているときです。見積書の内訳をどう区分するかで結論が変わります。実際の見積書と工事の内容を拝見して、区分の根拠まで含めてご相談に応じます。 税務調査で説明できる形に整えるところまでが仕事だと考えています。