経営戦略の中心は投資・財政計画です。ほかの部分は、この計画を説明するために置かれていると言ってもかまいません。
ところが実務では、ここが最後まで残ります。投資の額は技術担当課が持っていて、料金収入は業務担当課が持っていて、繰入金は財政課が持っている。 それぞれの数字を集めて表に並べたところで、収支が合わないことに気づく。合わせようとすると、どこかを動かさなければならない。どこから動かすのかが決まっていないと、この作業は終わりません。
総務省のガイドラインとマニュアルには、財源をどの順で検討するのかが書かれています。ここでは、投資試算と財源試算をどう組み立て、収支が合わないときにどこへ戻るのかを、原文に沿って整理します。
結論
決まっているものと、決まっていないものがあります。
- 財源の検討は、①企業債、②一般会計繰出金、③料金の順です。料金は最初ではなく最後に触ります
- 計画期間は10年以上ですが、試算はそれとは別に、原則として30年から50年超で行います
- 収支が合わないときに戻る先は、ギャップの発生要因で決まります。 投資試算・財源試算・投資以外の経費の3つが見直しの対象です。そのうち料金は、十分な合理化を行ってもなお賄えないときの手段として置かれています
- 繰入金は、ギャップに合わせて額を動かす項目ではありません。 ガイドラインは「安易に繰出金を増やすことで収支を均衡させることは適当ではない」としています
そして、作った計画に何を書けばよいかは、経営戦略確認リストが列挙しています。 下水道事業の確認リストは56項目あり、うち17項目が必須項目です。そこに書かれていることが、そのまま経営戦略に求められている中身です(投資・財政計画以外の項目も含みます)。
投資・財政計画は3つの部品でできています
まず、何を作ろうとしているのかを確かめます。経営戦略策定・改定ガイドラインは、投資・財政計画をこう定義しています。
「経営戦略」は、各公営企業が、将来にわたって安定的に事業を継続していくための中長期的な経営の基本計画である。その中心となる「投資・財政計画」は、施設・設備に関する投資の見通しを試算した計画(以下「投資試算」という。)と、財源の見通しを試算した計画(以下「財源試算」という。)を構成要素とし、投資以外の経費も含めた上で、収入と支出が均衡するよう調整した収支計画である。
部品は3つです。
| 部品 | 中身 |
|---|---|
| 投資試算 | 施設・設備に関する投資の見通し |
| 財源試算 | 財源の見通し |
| 投資以外の経費 | 職員給与費、動力費、薬品費、修繕費、委託費など |
この3つを載せて、収入と支出が均衡するよう調整したものが投資・財政計画です。 「調整した」という語が入っていることが大事です。3つを並べただけのものは、まだ計画ではありません。
なお、計画は特別会計ごとに作るのが基本です(ガイドライン「特別会計ごとの策定を基本とすること。」)。原則として、水道と下水道を1本にまとめることはしません。
計画期間は10年以上、試算は30年から50年超
ここは取り違えやすいところです。計画期間と試算期間は別物です。
計画期間について、ガイドラインは「計画期間は、事業の特性、個々の団体・事業の普及状況、施設の老朽化状況、経営状況等を踏まえて、10 年以上の合理的な期間を設定することが必要である。やむを得ず10 年未満の「計画期間」とする場合には、その理由について議会、住民にわかりやすく説明することが必要である」としています。
試算については、別に定めがあります。
「投資試算」や「財源試算」は、経営に不可欠の主要な施設の維持更新の見通しを立てるため、施設の耐用年数等を踏まえて、計画期間に限らず可能な限り長期間(事業の性格や個別事情にもよるが、原則として30 年から50 年超)かつ複数の推計パターンで行い、その推計結果及びそれに基づく長期目標も設定すること。
複数パターンについては「高位・中位・低位といった複数パターンで行うとともに、その結果や積算根拠も記載することが必要である」とされています。
つまり、10年の計画を作るためにも、30年から50年超の試算が要ります。 逆ではありません。
10年だけ見ていると、更新の山が見えません
なぜ計画期間より長く試算するのか。下水道事業の数字を見ると分かります。
総務省自治財政局準公営企業室が令和8年1月30日に示した資料には、こう書かれています。
標準耐用年数50年を経過した管渠の延長について、R5末現在で約4万km(総延長の約8%)となっているが、20年後には約20万km(約40%)となるなど、今後は急速に増加する見込み。
約4万kmが総延長の約8%にあたるので、全国の管渠の総延長は約50万kmです。20年後の約20万kmが約40%というのも、同じ約50万kmを前提にすると整合します。
つまり、耐用年数を超えた管渠は、この20年で約16万km増える計算になります。年平均で約8,000kmです(更新して置き換えた分はこの数から落ちるので、実際に耐用年数を迎える延長はこれより長くなります)。 同じ資料は、処理場についても「機械・電気設備の標準耐用年数15年を経過した施設が約2,000箇所(全体の90%)と老朽化が既に進行している状況」としています。
支出の中身も変わってきています。同じ資料は、下水道事業の建設改良費について、既存施設の「改良・更新」が「+244%の増加(H16:0.2兆円→R6:0.8兆円)」であるとしています。新しく造るための費用は減り、直すための費用が増えている、という形です。
(0.2兆円と0.8兆円だけを見て割ると4倍=+300%になり、+244%と合いません。兆円の表示が小数第1位までの丸めだからです。同じページのグラフに載っている実数は平成16年度2,401億円・令和6年度8,261億円で、8,261÷2,401=3.44倍、すなわち+244%です。)
これが、過去の決算の平均を延ばすやり方では投資試算にならない理由です。過去の建設改良費は「造っていた時期」の数字で、これから必要になるのは「直す費用」です。中身が違うものを延長しても、将来の額にはなりません。
投資試算 — 順番に3つ
ガイドラインは投資試算の取りまとめを3段階に分けています。
1. 施設の現状把握と将来需要の予測
「「投資試算」を取りまとめる前提として、公営企業が有する施設・設備の実状を適切に把握し、規模・能力、老朽化・劣化の状況や使用可能年数等について分析すること」とされています。
ここで法定耐用年数をそのまま当てはめないでください。 マニュアルは明確に書いています。
まず、施設・設備の規模や能力、劣化の状況を踏まえ、使用耐用年数などを把握する。この際、法定耐用年数を厳格に当てはめるのではなく、実際の耐用年数に基づき現状を把握するなど工夫することが望ましい。
総務省の資料が下水道の管渠について用いている標準耐用年数は50年ですが、50年で一斉に入れ替える前提の試算は、額が過大になります。マニュアルは下水道事業の建設改良費について、「合理的な予測方法」として、更新時期を「庁内で合理的に設定された耐用年数の到来時」または「資産の健全度の調査等から導き出した更新の必要度を踏まえた時期」に置くことを挙げています。どこかの団体がそうしていたという事例ではなく、マニュアル本体が示している置き方です。
需要予測についても、マニュアルは「人口減少の傾向やサービス需要の予測をしっかりと行い、過剰な需要予測となることは避けるべきである」としています。
2. 目標を決めて、投資額を合理化する
次に目標を立てます。ガイドラインは「目標の例としては、有収率、更新率、老朽化率、耐震化率等の指標の維持・改善について、具体的な数値等を示すこと」としたうえで、指標を1つだけ見ないよう求めています。
目標設定に当たっては、個別の経営指標の水準のみに注目するのではなく、他の指標との関連も考慮し、複数設定すべきである。
そして、目標を立てたらそのまま積算するのではなく、合理化してから額を出します。合理化の手法として挙げられているのは次のものです。
施設・設備の廃止・統合(ダウンサイジング)や性能の合理化(スペックダウン)、予防保全型維持管理を含む適切な維持・管理等による長寿命化、過剰投資・重複投資の精査、新たな知見や新技術の導入、民間の資金・ノウハウ等の積極的な活用(PPP/PFI や指定管理者制度の導入等)、広域化の取組
マニュアルは、目標を決める順序についても注意を書いています。「目標設定を行うときには、投資額の合理化を行った上での投資規模を目標と設定し、改定時の検証の際、現実的で達成可能な目標となるような設定とすることが望ましい」。 合理化前の額を目標にすると、次の改定で必ず未達になります。
3. 優先順位を付けて、時期を平準化する
最後に順番と時期です。ガイドラインは「投資の優先順位付けは、「投資試算」の目標、施設・設備の重要性、老朽化の度合い、事故が発生した場合の影響等を踏まえて行うことが適当である」としています。
平準化については「計画期間内に行うべき投資の優先順位付けを行うとともに、投資時期に偏在があれば平準化を行い、合理的な投資の内容・所要額等の見通しを「投資試算」として取りまとめること」とされています。
年度ごとの上限額を先に決めてしまうやり方もあります。マニュアルが載せている団体の事例には「年間約100 億円の上限を設定」「8年間で実施すべき事業を個々に精査」というものがあります。
財源試算 — 検討の順番が決まっています
ここが、この記事で一番お伝えしたいところです。マニュアルは、財源をどの順で検討するかを書いています。
また、財源構成の検討であるが、①企業債、②一般会計繰出金、③料金の順番で行うことが適当であると考えられる。まず、企業債の検討を先に行う理由としては、将来のサービス需要の減少が多く見込まれ、それに伴う将来的な負担の増加が見込まれるほか、企業債の財源構成比が大きいことが挙げられる。
料金は3番目です。 実務では逆になりがちで、「いくら足りないか」を出してから「では料金を何%上げるか」に進むことが多いのですが、マニュアルが示している順序は違います。
なぜ企業債が先なのか
理由は原文に書かれているとおり2つです。将来の負担増が見込まれることと、財源構成比が大きいことです。
企業債は借りた年度の財源ですが、返すのは後の年度です。そして返す原資は料金収入です。ガイドラインはこう書いています。
企業債は基本的に料金収入を原資として償還するものであることから、人口減少に伴うサービス需要の変化や人口の低密度化による料金収入の減少等が見込まれる中で、将来世代に過重な負担を強いることがないように、残高や毎年度の償還額等を踏まえて、適切な水準とすべきであること。
つまり、企業債をいくらにするかを決めないと、後年度の支出が決まりません。後年度の支出が決まらないうちに料金を決めても、その料金で足りるかどうかは分かりません。だから企業債が先になります。
財源ごとに押さえること
ガイドラインが財源ごとに求めていることを並べます。
| 財源 | ガイドラインが求めていること |
|---|---|
| 料金 | 原価(減価償却費や資産維持費等を含む。)を基に算定する。料金体系(基本料金と従量料金の比率等)にも配意する |
| 企業債 | 健全化指標や世代間負担の公平も勘案し、残高や毎年度の償還額を踏まえて適切な水準にする |
| 一般会計繰出金 | 繰出金ごとに積算の考え方を明確にしたうえで、必要性、将来的な見込み、合理化に向けての考え方を説明する |
| 自己資金 | 世代間負担の公平と経営健全化維持の双方の観点から一定程度を確保する。使用目的や使用時期を的確に説明する |
| 受益者負担金 | 適切に徴収することにより企業収入を確保する |
| 国庫補助金等 | 現行の制度や交付状況を前提とする。近年の予算額の推移や交付額の増減傾向が把握できる場合は適宜反映させる |
料金については、水道事業、簡易水道事業、下水道事業に追加の求めがあります。令和4年1月25日付の通知は「料金水準が適切なものであるか、また将来の料金改定の必要性等について議会や住民の理解に資するよう、料金回収率や経費回収率の目標及び原価計算の内訳などを記載し、見える化を図ること」としています。
同じ通知は、資産維持費についても「所有している資産の規模、経営環境や事業の種類等の実情に応じて、「経営戦略のひな形様式」に追加した原価計算表等を活用し、資産維持費を料金算定に適切に反映すること」としています。下水道の使用料について、マニュアルは資産維持費をこう説明しています。
資産維持費とは、将来の更新需要が新設当時と比較し、施工環境の悪化、高機能化(耐震化等)等により増大することが見込まれる場合、使用者負担の期間的公平等を確保する観点から、実体資本を維持し、サービスを継続していくために必要な費用(増大分に係るもの)として、適正かつ効率的、効果的な中長期の改築(更新)計画に基づいて算定するものである。
「増大分に係るもの」です。 更新費用の全額ではありません。
速やかに料金の見直しを検討する必要性が高い状況も、ガイドラインに具体的に書かれています。
・ 資金不足、債務超過等の状況に陥っている、繰越欠損金が生じている。 ・ 計画期間内に必要となる財政負担額について、十分な合理化を行ったとしても、現行料金体系で見込まれる収入で賄うことができない。
2つ目に「十分な合理化を行ったとしても」が入っていることに注意してください。合理化を検討する前の不足額は、これに当たりません。
収支ギャップが出たら、試算に戻ります
投資試算と財源試算ができたら突き合わせます。ガイドラインは収支ギャップをこう定義しています。
「収支ギャップ」(計画期間内で地方公営企業法適用企業では「純損益」、地方公営企業法非適用企業では「実質収支」が黒字とならず、赤字が発生している場合の当該赤字の部分をいう。以下同じ。)
法適用か非適用かで見る数字が違います。 法適用なら純損益、非適用なら実質収支です。
戻る先は、ギャップの発生要因で決まります
ここは決め打ちにしないでください。ガイドラインは解消の基本をこう書いています。
「投資・財政計画」は、「投資試算」と「財源試算」が相互に「収支均衡」した形での策定が理想であるが、「収支ギャップ」が生じる場合においては、そのギャップの発生要因に応じて関連する項目を再検討の上、再度試算し、収支の均衡点を探した上で、料金水準の適正化及び投資の合理化等により、「収支ギャップ」を解消することが基本である。
「発生要因に応じて」です。 戻る先があらかじめ1つに決まっているわけではありません。ガイドラインが挙げている見直しの対象は3つあります。
| 見直しの対象 | ガイドラインが挙げている項目 |
|---|---|
| 「財源試算」 | 内部留保額の見直し、料金の見直し 等 |
| 「投資試算」 | 施設・設備のダウンサイジング・スペックダウン、長寿命化、効率的配置、過剰投資・重複投資の精査等の更なる検討/優先順位が低い事業の先送り、取りやめ/広域化の推進、民間の資金・ノウハウの活用 等 |
| 投資以外の経費 | 給与、定員の見直し/広域化の推進、民間のノウハウの活用/ICTやIoTの活用 等 |
マニュアルも、片方だけに戻るとは書いていません。
また、収支ギャップが生じた場合には、料金改定の必要性や更新投資の時期、投資以外の経費について再度検討し、投資試算、財源試算に立ち返って再度試算する。この一連の作業を繰り返し、収支ギャップを解消していく必要がある。
ただし、料金だけは置かれている場所が違います。 先に見たとおり、財源構成の検討順序では3番目で、料金見直しの必要性が高い状況も「十分な合理化を行ったとしても、現行料金体系で見込まれる収入で賄うことができない」場合とされています。合理化を検討する前に料金へ飛ばない、というのがここでの線引きです。
マニュアルが示している手順
マニュアルには、実際の作業例が8段階で示されています。
| 段階 | 作業 |
|---|---|
| ① | 施設の老朽化等を踏まえた将来における所要の更新投資等を踏まえ「投資試算Ⅰ」を試算 |
| ② | 今後の人口減少等を加味した料金収入、更新投資への資金確保を踏まえ「財源試算Ⅰ」を試算 |
| ③ | ①と②を比べたところ、投資に比べ財源が不足という収支ギャップが生じた |
| ④ | 「投資試算Ⅰ」に投資の合理化として、施設・設備の統廃合、スペックダウン、長寿命化の取組を検討の上、「投資試算Ⅱ」を試算 |
| ⑤ | ②と④を比べたところ、投資に比べ財源が不足という収支ギャップがまだ残っている |
| ⑥ | 「財源試算Ⅰ」に計画期間中の3年後と7年後、それぞれ料金改定(5%)を盛り込んで「財源試算Ⅱ」を試算 |
| ⑦ | ④と⑥を比べたところ、収支ギャップが解消し、計画期間(10 年間)で収支均衡となった |
| ⑧ | 「投資試算Ⅱ」と「財源試算Ⅱ」を踏まえ、「投資・財政計画」を策定していく |
この例でギャップが出たときに先に動かしたのは、投資試算です(④)。料金に手を付けたのは、投資を合理化してもなお足りなかった後(⑥)でした。これは作業例のひとつであって、どの事業でもこの順に戻ると決まっているわけではありませんが、料金を後に置いている点は、先ほどの「料金は3番目」と対応しています。
なお、この例で料金改定を2回に分けているのも読みどころです。10年の計画期間の3年後と7年後に5%ずつ、という置き方です。ガイドラインは「短期間で急激に引き上げるとともに住民理解を得られない場合は、段階的に引き上げることも検討すべきだが、合わせて経営健全化の道筋を示すことが重要であること」としています。
マニュアルは、うまくいかなかった試算も残すよう勧めています。
また、この際、検討過程に使った試算(均衡しなかったもの)についても、試算の例として経営戦略に載せることが望ましい。
議会や住民に説明するとき、これが効きます。「この料金水準にしたい」ではなく「これだけ合理化してもここまでしか届かなかった」という形になるからです。
繰入金は調整弁ではありません
繰入金は財源のひとつですから、投資・財政計画に計上します。ただし、ギャップの大きさに合わせて額を動かす項目ではありません。 ガイドラインは次のように書いています。
一方で、料金水準の大幅な引き上げを行わなければ「収支均衡」しない場合等、必要な意思決定をするまでに長期間を要することから、収支が均衡した「投資・財政計画」が短期間で策定できない事態も考えられるが、そのような場合であったとしても、安易に繰出金を増やすことで収支を均衡させることは適当ではない。
マニュアルも、繰入金の見込み方について同じことを書いています。「財政当局と繰入額や繰入方法について合意事項がある場合には、その合意事項に基づく繰入金額を用いることが重要である。合意事項がない場合においても、財政当局と協議・調整をした上で、その合意に基づく繰入金額を計上するなど、収支赤字額を安易に繰入金で賄う計画としないようにすることが重要である」。
繰入金は、先に合意した額を置くものであって、差額を埋めるために逆算する項目ではない、ということです。
どうしても均衡しない場合
均衡しないまま出すことも、まったく認められていないわけではありません。ただし条件が付きます。
収支について厳密に「合理的な計画期間内で「収支均衡」していない」場合でも、少なくとも「収支ギャップ」の解消に向けた取組の方向性や検討体制・スケジュールを記載した「経営戦略」を策定し、収支改善を図っていくことが必要である。
方向性だけでなく、検討体制とスケジュールまで求められています。 さらに「期待される効果等を極力定量的に記載することが望まれるが、定量的な記載ができない場合であっても、できる限り具体的に取組内容を記載することが必要である」とされています。
何を書けば足りるのか — 確認リストが列挙しています
「どこまで書けば足りるのか」は、感覚で決める必要がありません。総務省が毎年度の調査で使っている経営戦略確認リストが、項目を列挙しています。
下水道事業の確認リストは全56項目で、うち項目番号1から17までが必須項目です。投資・財政計画に直接かかわるものを挙げます。
| 項目番号 | 内容 |
|---|---|
| 2 | 今後の人口減少等を加味した使用料収入を反映している |
| 3 | 減価償却率や耐用年数等に基づく施設の老朽化を踏まえた将来における所要の更新費用を反映している |
| 4 | 物価上昇等を反映した動力費・修繕費・材料費等の上昇傾向等を反映している |
| 5 | 計画期間が10年以上となっている |
| 7 | 計画期間内に収支均衡となっている |
| 15 | 収支均衡となっていない場合、収支ギャップの解消に向けた取組の方向性や検討体制・スケジュールについて記載がある |
| 16 | 毎年度の進捗管理(モニタリング)と少なくとも5年に1回の頻度での見直し(ローリング)等の経営戦略の事後検証、改定の実施について記載がある |
そして確認リストの注記に、満たすべき組み合わせが書かれています。
※ 質の高い経営戦略となるよう、令和7年度までに項目番号2から4までの全てと、9から14までのうち少なくとも1つを満たすこと。
項目2から4は「全て」、項目9から14は「少なくとも1つ」です。ここは「かつ」と「又は」が混在しているので、読み飛ばさないでください。
項目9から14は、使用料改定の実施、資産の有効活用等による収入増加の取組、広域化・共同化の実施、ストックマネジメントの実施、民間活用(民間委託、指定管理者制度、PPP/PFIなど)の実施、その他の効率化・経営健全化のための取組の6つです。このうちどれか1つが反映されていればよい、という形になっています。
なぜ「令和7年度までに」なのか。令和4年1月25日付の通知が理由を書いています。「「新経済・財政再生計画改革工程表2021」(令和3年12 月23 日経済財政諮問会議決定。以下、「改革工程表」という。)においても、経営戦略の見直し率を令和7年度までに100%とすることとされています」。改定の期限は、この改革工程表から来ています。
なお、令和7年度はすでに終わっています。 この組み合わせは、これから間に合わせる目標としてではなく、手元の計画が満たしているかどうかを点検する基準として読んでください。
項目2から4の3つは、同じ通知が投資・財政計画に盛り込むよう求めた①〜③に対応しています。ただし、費目の並びまで同じではありません。 通知③は「維持管理費、委託費、動力費等」、確認リストの項目4は「動力費・修繕費・材料費等」で、共通するのは動力費だけです。どちらも「等」で閉じているので、点検するときは片方の列挙で足りたことにせず、両方を見てください。通知は次の5つを挙げていました。
① 今後の人口減少等を加味した料金収入の的確な反映 ② 減価償却率や耐用年数等に基づく施設の老朽化を踏まえた将来における所要の更新費用の的確な反映 ③ 物価上昇等を反映した維持管理費、委託費、動力費等の上昇傾向等の的確な反映 ④ ①②③等を反映した上での収支を維持する上で必要となる経営改革(料金改定、広域化、民間活用・効率化、事業廃止等)の検討 ⑤ ①~④の事項を情勢変化に合わせ的確に反映できるよう、経営戦略は「3~5年毎に改定すること」(経営戦略策定・改定ガイドライン)
自分の団体の計画を点検するときは、確認リストを開いて、項目ごとに「経営戦略の何ページ何行目か」を書き込んでみてください。 確認リストには該当箇所を記入する欄があり、注記に「「該当箇所等」欄には、経営戦略中の該当する記載のある箇所を「○○ページ○○行目」のように記載すること」とあります。書けない項目が、そのまま次の改定で埋める項目になります。
地方財政措置の要件は「前5年度内の策定又は改定」です
投資・財政計画の作り込みは、お金にも直結します。ここは誤解が多いので、原文で確認します。
令和8年度の地方公営企業繰出金についての通知(令和8年4月1日付 総財公第18号)は、水道の高料金対策の対象事業をこう定めています。
繰出しの対象となる上水道事業は、当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定している事業(当該年度前5年度内に経営戦略を改定していない事業であって、災害その他の理由により経営戦略の改定が著しく困難であったものを含む。)のうち、次の事業とする。
水道管路の耐震化事業への上積み措置、統合水道の建設改良に係る措置も同じ要件です。
下水道の高資本費対策にも同じ要件が入っていますが、下水道にはもう1つ条件が重なります。
ア 繰出しの対象となる下水道事業は、令和6年度までに地方公営企業法を適用している事業(地方公営企業法を適用していない事業であって、既に統合・廃止が決定しており、将来にわたり継続を見込まないもので、その旨公表しているもの又は災害対応その他の理由により、地方公営企業法の適用が著しく困難であったものを含む。)であって、当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定しているもの(…)のうち、次の事業とする。
「令和6年度までに地方公営企業法を適用している事業」であり、「かつ」「当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定している」ものです。 どちらか一方ではありません。法適化を済ませていない下水道事業は、経営戦略を改定していても、この措置の対象から外れます。
この2段構えは下水道だけではありません。 簡易水道の高料金対策にも、同じ「令和6年度までに地方公営企業法を適用している事業」と「当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定しているもの」の両方が置かれています。条件が経営戦略だけで済むのは、上に引いた上水道の高料金対策のほうです。水道だから法適用の条件はない、と読まないでください。
押さえどころは2つあります。
1つ目は「策定又は改定」であることです。 策定と改定の両方が要るわけではありません。最近策定したばかりの事業は、まだ改定していなくても要件を満たします。
2つ目は「当該年度前5年度内」であることです。 令和8年度から見た前5年度は、令和3年度から令和7年度です。総務省は令和2年度までの策定を要請していたので、その要請に応じて令和2年度までに策定し、その後改定していない事業は、この5年間に何もしていないことになります。
令和7年3月31日時点の調査では、策定済みの6,338事業のうち、改定済みが3,368事業(53.1%)、令和7年度に改定予定が2,187事業(34.5%)でした。残るのは、令和8年度以降に改定予定が648事業(10.2%)、未定が135事業(2.1%)です。この783事業は、策定または改定がいつだったかによって、前5年度内という要件を満たさない場合があります。
下水道事業に限ると、策定済みは3,522事業(99.7%)で、そのうち改定済みが2,283事業(64.8%)、令和7年度に改定予定が1,041事業(29.6%)、合わせて3,324事業(94.4%)です。残りは令和8年度以降が177事業(5.0%)、未定が21事業(0.6%)でした。
「確認リストの必須項目」は要件になっていません
もう1点、はっきりさせておきます。
令和4年1月25日付の通知には、次の一文がありました。
経営戦略の策定を要件としている水道事業の高料金対策、水道管路耐震化事業、旧簡易水道施設(浄水場、管路等)の建設改良事業及び下水道事業の高資本費対策に係る地方財政措置については、令和8年度から、「経営戦略確認リスト」の必須項目を盛り込んだ経営戦略の改定を要件とする予定であるので、留意されたい。
末尾が「予定」です。 そして、実際に出された令和8年度の繰出基準(総財公第18号)には、「確認リスト」も「必須」も出てきません。置かれている要件は、上に引いたとおり「当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定している」ことです。
したがって、確認リストの必須項目を満たしていないことをもって繰出基準の対象外になる、という扱いにはなっていません。 確認リストは計画の質を上げるためのものとして使ってください。
過年度の通知に「予定」と書かれていたことは、そのまま今年の要件にはなりません。要件を確認するときは、その年度の繰出金の通知そのものを開いてください。
作業には1年かかります
最後に時間の話です。マニュアルは策定作業の期間について「実際、策定までの期間については、事業内容や規模によっても異なるが、1年くらいかかることが多い」としたうえで、次のスケジュール例を示しています。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 〜1月 | 策定の意志決定(策定体制、予算、人員) |
| 3月 | 策定予算の議決 |
| 4月 | 策定事務開始 |
| 4月〜11月 | 決算分析、将来予測、庁内打合せ、住民アンケートなど |
| 〜11月 | 経営戦略(案)の作成 |
| 12月〜 | 議会や住民への説明 |
| 3月 | 議会説明を経て策定 |
策定予算の議決が、策定事務の開始より前の3月に置かれていることに注目してください。予算がなければ着手できませんから、逆算すると、検討を始めるのはその前年度のうちということになります。
体制についても、マニュアルは公営企業の担当課だけで作らないよう繰り返し書いています。「公営企業の経営管理担当課のみで策定するのではなく、技術担当課をはじめ、一般会計の企画・財政担当課や地域政策担当課など、地方公共団体全体を通じて関係各課と連携して検討を進めることにより意識を高める必要がある」。
繰入金を受けている事業については、さらに踏み込んで「繰出金の支出元である財政担当の一般会計部門にも経営状況や健全化の取組内容の検討に参画してもらうことも効果的と考えられる」としています。繰入金は財政当局との合意に基づく額を計上するものである以上、財政担当との調整は外せません。
なお、マニュアル自身が「本マニュアルは、経営戦略に盛り込むべき最低限の事項しか記載していない」と書いています。マニュアルどおりに作れば十分、という性質のものではありません。
まとめ
- 投資・財政計画は、投資試算・財源試算・投資以外の経費の3つを載せ、収入と支出が均衡するよう調整した収支計画です。特別会計ごとに作ります
- 計画期間は10年以上、試算は原則として30年から50年超で、高位・中位・低位といった複数パターンで行います。この2つは別物です
- 投資試算では、法定耐用年数をそのまま当てはめません。 実際の耐用年数や健全度調査に基づいて更新時期を置きます
- 財源の検討順序は①企業債、②一般会計繰出金、③料金です。企業債が先なのは、後年度の償還が料金収入を原資とするからです
- 収支ギャップが出たら、発生要因に応じて、投資試算・財源試算・投資以外の経費を見直します。 戻る先は1つに決まっていません。ただし料金は、十分な合理化を行ってもなお賄えないときの手段です。ガイドラインは「安易に繰出金を増やすことで収支を均衡させることは適当ではない」としています
- 均衡しない計画を出す場合は、解消に向けた取組の方向性・検討体制・スケジュールの記載が要ります
- 書くべき項目は経営戦略確認リストにあります。下水道事業は全56項目、うち項目1から17が必須項目です。注記は「項目番号2から4までの全てと、9から14までのうち少なくとも1つ」を求めています
- 令和8年度の繰出基準が置いている要件は「当該年度前5年度内に経営戦略を策定又は改定している」ことです(下水道の高資本費対策と簡易水道の高料金対策は、これに「令和6年度までに地方公営企業法を適用している」が重なります)。確認リストの必須項目を盛り込んだことまでは求めていません。令和4年の通知にあった「予定」を、そのまま今年の要件として説明しないでください