料金改定の相談を受けると、多くの場合すでに「いくら上げるか」の議論が始まっています。
ですが、順序が逆です。
料金の水準は、条例改正の議案として議会に出す時点までに積み上げたものの結果として決まります。先に率を決めて、後から根拠を揃えようとすると、議会でも住民説明会でも持ちません。
何を、どの順で積むのか。根拠条文と、令和8年度の繰出基準に沿って整理します。
根拠は1本ではありません
まず、どの法律が何を縛っているかを分けてください。
| 法令 | 定めていること |
|---|---|
| 地方自治法228条1項 | 使用料等に関する事項は条例で定めなければならない |
| 地方公営企業法21条2項 | 料金は公正妥当で、能率的な経営の下における適正な原価を基礎とし、健全な運営を確保できるものであること |
| 水道法14条 | 供給規程の要件、周知義務、料金変更の届出 |
| 下水道法20条2項 | 使用料は適正な原価をこえないこと等 |
額を決めるのは条例です。 地方自治法228条1項は「分担金、使用料、加入金及び手数料に関する事項については、条例でこれを定めなければならない」と定めています。審議会の答申も庁内の検討も、条例改正案を作るための過程にすぎません。
したがって、着手時期は条例を提出する議会から逆算して決まります。
水道と下水道で、原価の縛り方が違います
ここは見落とされがちです。条文を並べます。
料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし、健全な経営を確保することができる公正妥当なものであること(水道法14条2項1号)
能率的な管理の下における適正な原価をこえないものであること(下水道法20条2項2号)
水道は「原価に照らして公正妥当」、下水道は「原価を超えない」。
下水道使用料には上限としての縛りがかかっています。水道料金にはその形の縛りがなく、原価を基礎として健全な経営を確保できることが求められます。
同じ「適正な原価」という語を使っていても、条文上の働きが違います。上下水道を同じ資料で説明するときは、この差を踏まえて書き分けてください。 下水道で「原価を超える設定はできない」ことは、逆に原価の算定根拠を厳密に示す必要があることを意味します。
なお、地方公営企業法を適用している事業には、同法21条2項の要件も重ねてかかります。
手続きで落としやすい2点
条例改正に目が行きがちですが、水道法には他に2つ定めがあります。
実施の日までの周知
水道事業者は、供給規程を、その実施の日までに一般に周知させる措置をとらなければならない(水道法14条4項)
期限は「実施の日まで」です。 条例可決から実施日までが短いと、この周知が形式的になります。議会日程を組む段階で周知期間を確保してください。
国土交通大臣への届出
水道事業者が地方公共団体である場合にあつては、供給規程に定められた事項のうち料金を変更したときは、国土交通省令で定めるところにより、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない(水道法14条5項)
事後の届出であり、認可ではありません。 ここは主体によって手続きが違い、水道事業者が地方公共団体以外の者である場合は、供給条件の変更に国土交通大臣の認可が必要です(同条6項)。自団体がどちらに当たるかを取り違えないでください。
料金水準そのものが、国の財政措置の要件になっています
ここが料金改定の検討で最も効く論点です。議会説明で使える材料でもあります。
令和8年4月1日付の総務副大臣通知「令和8年度の地方公営企業繰出金について」は、繰出しの対象となる事業を、料金・使用料の水準で区切っています。
水道の高料金対策
自然条件等により建設改良費が割高のため資本費が著しく高額となり、高水準の料金設定をせざるを得ない上水道事業について、料金格差の縮小に資するため、資本費の一部について繰り出すための経費である
対象は、末端給水事業のうち次の3つをすべて満たす事業です。
| 指標 | 基準 |
|---|---|
| 前々年度における供給単価 | 186円以上 |
| 有収水量1㎥当たりの資本費 | 150円以上 |
| 有収水量1㎥当たりの給水原価 | 282円以上 |
下水道の高資本費対策
供用開始30年未満の下水道事業(特定公共下水道及び流域下水道を除く)については、次の2つを満たすことが要件です。
| 指標 | 基準 |
|---|---|
| 前々年度における有収水量1㎥当たりの算定対象資本費 | 43円以上 |
| 有収水量1㎥当たりの使用料 | 150円以上 |
算定対象資本費は、資本費から雨水処理に要する資本費と分流式下水道等に要する資本費に一定の率を乗じた額を控除して求めます。その率は処理区域内人口密度で変わります。
| 処理区域内人口密度(人/ha) | 乗率 |
|---|---|
| 25未満 | 0.6 |
| 25以上50未満 | 0.5 |
| 50以上75未満 | 0.4 |
| 75以上100未満 | 0.3 |
| 100以上 | 0.2 |
| 特定環境保全公共下水道等 | 0.6 |
耐震化事業の上積み
水道管路の耐震化についても、料金水準で上積みの措置があります。末端給水事業者のうち、前々年度における家庭用料金(13mm・20㎥)が3,374円以上かつ有収水量1㎥当たり資本費が75円以上のものは、通常の耐震化事業に上積みして実施する事業費の2分の1が対象になります(それ以外は4分の1)。
読み方を間違えないでください。 これは「料金を上げれば補助が出る」という制度ではありません。資本費が重い事業を支えるための基準です。ただし結果として、料金・使用料が基準に届いていない団体は、資本費が重くても対象にならないという構造になっています。
現行料金がこれらの基準の手前にある団体では、改定によって支援の対象に入るかどうかが変わります。 検討の初期に自団体の位置を確認してください。
経営戦略の改定が、すべての入口です
上に挙げた3つの措置には、共通の前提があります。
当該年度前5年度内に…経営戦略を策定又は改定している(当該年度前5年度内に経営戦略を改定していない事業であって、災害その他の理由により経営戦略の改定が著しく困難であったものを含む。)
5年以内に策定または改定していることが要件です。 例外は災害その他の理由により改定が著しく困難であった場合に限られます。
つまり、経営戦略の改定を止めていると、料金を上げても財政措置の対象から外れます。 料金改定の検討と経営戦略の改定は、切り離して進められません。
議会・住民に何を示すか
総務省の経営戦略策定・改定マニュアルは、料金改定についてこう述べています。
特に、料金改定を盛り込む場合は、住民負担に大きな影響を及ぼすものであることから、最大限の経営努力を行った上で、丁寧に住民や議会に説明を行う必要があることに留意すること
求められているのは、改定後の料金表ではありません。 そこに至るまでに何をしてきたかです。
説明資料に必要なのは次の3つです。
- やってきたことの実績 — 経営戦略の進捗管理で積み上げた取組。委託の見直し、施設の統廃合、広域化・共同化の検討。やった結果いくら効いたかまで
- それでも足りない理由 — 更新需要、資本費、人口減少。数字で示す
- 他団体との位置関係 — 経営比較分析表
3つ目は、料金の高さだけを並べないでください。 マニュアルは水道について、経営比較分析表で「収益性(経常収支比率、料金回収率、給水原価)、効率性(有収率、施設利用率)、安全性(累積欠損金比率、流動比率、企業債残高対給水収益比率)、施設の老朽化状況(有形固定資産減価償却率、管路経年化率、管路更新率)について、全国平均や類似団体平均と比較し、現状を分析すること」としています。
料金と原価と老朽化を同じ画面に置く。 料金だけを見せれば「高い」という結論にしかなりませんが、給水原価と管路更新率を並べれば、なぜその水準なのかが見えます。
なお、マニュアルは水道事業・簡易水道事業・下水道事業について、料金回収率や経費回収率の目標設定を求めています。改定後の料金がこの目標にどう届くのかは、必ず聞かれます。
検討の順序
逆算で並べます。
| 順 | やること | 落としやすい点 |
|---|---|---|
| 1 | 条例を出す議会を決める | ここから逆算する。実施日までの周知期間も込みで |
| 2 | 経営戦略の改定状況を確認する | 5年以内でなければ、料金改定より先にこちらが要る |
| 3 | 現状分析(経営比較分析表、類似団体比較) | 料金だけでなく原価と老朽化を同時に見る |
| 4 | 繰出基準の該当状況を確認する | 現行料金と改定案の双方で判定する |
| 5 | 経営努力の棚卸し | 「やってきたこと」を実績値で並べる。ここが説明の本体 |
| 6 | 投資・財政計画と収支見通し | 料金回収率・経費回収率の目標との関係を示す |
| 7 | 改定案の作成(改定率、体系、実施時期、激変緩和) | 下水道は原価を超えられない |
| 8 | 審議会・パブリックコメント | 5の資料がそのまま使える |
| 9 | 条例改正の議案 | 議決 |
| 10 | 周知と届出 | 実施の日までの周知(水道法14条4項)、国土交通大臣への届出(同条5項) |
5が最も時間がかかり、最も効きます。 ここを直前に作ろうとすると間に合いません。経営戦略の進捗管理を毎年度回していれば、その記録がそのまま5になります。
まとめ
- 料金・使用料の額は条例事項です(地方自治法228条1項)。着手時期は議会から逆算して決まります
- 水道は「原価に照らし公正妥当」、下水道は「原価をこえない」。 条文上の縛り方が違います
- 水道には実施の日までの周知義務と、国土交通大臣への事後届出があります。地方公共団体以外の事業者は認可が必要で、手続きが違います
- 料金・使用料の水準そのものが、国の財政措置の要件になっています。供給単価186円、使用料150円といった基準に届いているかを、検討の初期に確認してください
- 経営戦略を5年以内に策定または改定していることが、これらの措置の共通の前提です。改定を止めていると、料金を上げても対象から外れます
- 議会・住民に示すのは料金表ではなく、最大限の経営努力を行った上でという積み上げです
- 比較は料金・原価・老朽化を同じ画面に置いてください
料金改定は、庁内の合意形成と議会日程、そして経営戦略の改定時期が絡む作業です。どこから手を付けるかは、現行料金の水準と経営戦略の改定時期によって変わります。 総務省の上下水道事業経営アドバイザーとして全国約10団体を担当している立場から、御団体の状況に即した進め方をご提案します。