新しい学校法人会計基準での最初の決算が、今年6月に終わりました。
基準の施行は令和7年4月1日。令和7年度(令和8年3月期)が初年度で、計算関係書類の作成期限が令和8年6月末でした。一巡したいま、何がどう変わったのかを旧基準との対応で整理します。
来年度以降に効いてくる論点も含めます。
根拠法が変わりました
見た目の変更よりも、まずここです。
| 改正前の会計基準 | 新会計基準 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 私立学校振興助成法 | 私立学校法 |
| 主な目的 | 補助金の適正配分 | 情報開示 |
| 適用対象 | 経常費補助を受ける学校法人 | すべての学校法人等 |
文部科学省は改正の趣旨をこう説明しています。
私立学校法の一部を改正する法律(令和5年法律第21号)により、補助金の適正配分を主な目的として私立学校振興助成法に位置づけられていた学校法人会計基準は、ガバナンス強化の観点から、ステークホルダーへの情報開示を主な目的とする基準として、私立学校法に位置づけられた
適用対象が広がりました。 新基準の対象は「すべての学校法人等」で、ここには私立学校法152条5項の規定により設立された法人(準学校法人)も含まれます。補助金を受けていない法人も対象になりました。
改正前も「実際にはほとんどの学校法人が対象」ではありましたが、根拠が助成法から私学法に移ったことで、何のために作るのかが変わっています。 補助金の配分のためではなく、外部に見せるために作る。この後の変更点は、すべてここから説明がつきます。
計算書類の新旧対応
作成する書類の対応関係です。
| 改正前 | 新基準 |
|---|---|
| 貸借対照表 | 貸借対照表 |
| 事業活動収支計算書 | 事業活動収支計算書 |
| 資金収支計算書 | 資金収支計算書 |
| 活動区分資金収支計算書 | 活動区分資金収支計算書 |
| 事業活動収支内訳表 | 計算書類から削除(助成法へ) |
| 資金収支内訳表 | 計算書類から削除(助成法へ) |
| 人件費支出内訳表 | 計算書類から削除(助成法へ) |
| 固定資産明細表 | 固定資産明細書 |
| 借入金明細表 | 借入金明細書 |
| 基本金明細表 | 基本金明細書 |
内訳表は「なくなった」のではありません
ここは誤解が多いところです。文部科学省の説明は次のとおりです。
改正前の学校法人会計基準により作成を求めていた「事業活動収支内訳表」「資金収支内訳表」「人件費支出内訳表」は、学校法人会計基準から削除のうえ、私立学校振興助成法に基づく書類と位置付けた
作成の根拠が移っただけです。 経常費補助を受ける学校法人は、私立学校振興助成法施行規則2条に基づいて引き続き作成します。
「計算書類ではなくなった」と「作らなくてよくなった」は違います。 内訳表は計算書類ではなくなったので、私学法上の備置き・閲覧やインターネット公表の対象からは外れますが、所轄庁への提出はなくなっていません。
「明細表」から「明細書」へ — 名称だけではありません
3つの附属明細書は、名称が「明細表」から「明細書」に変わりました。ただし、変更は名称だけではありません。 3つとも記載内容が変わっています。
固定資産明細書は、様式そのものは変更ありません。 変わったのは「摘要」欄の記載基準です。
「摘要」欄には、贈与、災害による廃棄その他特殊な事由による増加若しくは減少があった場合又は同一科目について資産総額の1/100に相当する金額を超える額の増加若しくは減少があった場合に、それぞれの事由を記載すること
旧基準にあった 3,000万円という金額の閾値は削除されました。 文部科学省は「3,000万円は昭和40年代の物価水準を参考にしていると考えられ、金額基準に物価水準を反映するとしても、改訂基準の設定が困難」であり、「法人規模に関わらず、公平性のある閾値の基準は比率による基準」であるとしています。法人の規模によって、記載すべき増減の範囲が変わります。
借入金明細書は、様式が実質的に変わりました。
借入先については、金融機関の名称を記載する必要はなく、各欄は、金融機関の種類(公的金融機関、市中金融機関及びその他)ごとに集計して記載すること
記載項目は、期首残高・当期増加額・当期減少額・期末残高・返済期限・摘要(資金使途等)です。「摘要」欄には、借入金の使途及び担保物権の種類を記載します。
個別の金融機関名と利率は記載しません。 文部科学省は、これらについて「地域により取引先の金融機関にとって、同業他社に知られたくない営業情報が含まれるおそれがあり、公開情報として適当でない」とし、利率については「平均利率を記載する方法も考えられるが、借入金が1種類のみの場合は実質的に個別の利率情報を記載することとなり、記載事項になじまない」としています。
一方で「当期増加額」「当期減少額」が入りました。借入フローが見えるようになり、資金収支計算書と連動します。
基本金明細書は、計算過程を示す形になりました。
基本金の組入れ及び取崩しの計算過程を明示するため、各号基本金に「当期組入対象額」及び「当期取崩対象額」の行を追加し、当期組入対象額から当期取崩対象額を差し引きして「当期組入額(又は当期取崩額)」を記載すること
第1号基本金の当期組入対象額・当期取崩対象額は、「土地」「建物」「構築物」など、貸借対照表の小科目単位で記載します。
そして**「第2号基本金の組入れに係る計画表」と「第3号基本金の組入れに係る計画表」は、明細書として作成を要しなくなりました。** 理由は「そのまま開示されると法人運営上不利益が生じるおそれがある」ためです。
規程や決算様式では、書類名を直すだけでは足りません。 新しい様式と記載基準に対応できているかを確認してください。
法律上の「計算書類」は2つです
条文を読むときに混乱しやすいので、定義を確認してください。
各会計年度に係る計算書類等(**計算書類(貸借対照表及び収支計算書をいう。以下同じ。)**及び事業報告書並びにこれらの附属明細書をいう。以下同じ。)(私立学校法103条2項)
法律上の「計算書類」は貸借対照表と収支計算書の2つで、この収支計算書が会計基準で資金収支計算書・活動区分資金収支計算書・事業活動収支計算書に分かれます。
そして**「計算書類等」は、計算書類+事業報告書+これらの附属明細書**です。条文が「計算書類」と言っているのか「計算書類等」と言っているのかで、対象が変わります。
なお、収益事業会計については、計算書類及びその附属明細書に代えて、貸借対照表及び損益計算書を作成します。
注記が15項目になりました
新基準は、計算書類に注記する事項を次のとおり定めました。
| # | 注記事項 |
|---|---|
| 1 | 重要な会計方針 |
| 2 | 重要な会計方針の変更 |
| 3 | 減価償却額の累計額の合計額 |
| 4 | 徴収不能引当金の合計額 |
| 5 | 担保提供資産の種類及び額 |
| 6 | 基本金未組入高 |
| 7 | 第4号基本金に相当する資金を有していない場合、その旨及び対策 |
| 8 | セグメント情報 |
| 9 | 重要な偶発債務 |
| 10 | 子法人に関する事項 |
| 11 | 学校法人の出資による会社に係る事項 |
| 12 | 関連当事者との取引 |
| 13 | 学校法人間の財務取引 |
| 14 | 重要な後発事象 |
| 15 | 前各号に掲げるもののほか、財政及び経営の状況を正確に判断するために必要な事項 |
負担が大きいのは 8のセグメント情報と 10の子法人に関する事項です。
文部科学省は、セグメント情報について「大臣が所掌する大学、短期大学、高等専門学校はそれぞれ独立した収支が見えるようになる」、子法人に関する事項について「改正私立学校法を踏まえて、子法人に対するガバナンス強化の観点から設けている」と説明しています。
内訳表が計算書類から外れた代わりに、部門別の情報は注記のセグメント情報で開示するという構造になりました。表示の場所が、別表から計算書類の中へ移ったと理解してください。
セグメント情報の区分は、いまは経過措置です
ここは来年度以降に効きます。文部科学省の資料によれば、区分と配分基準の適用は段階的です。
| 時期 | 適用 |
|---|---|
| 当分の間(令和7年4月〜令和9年3月末) | 【区分ア】+内訳表基準(選択可能:【区分イ】+内訳表基準) |
| 一斉適用(令和9年4月〜) | 【区分ア】+配分基準 |
- 【区分ア】:○○大学、○○短大、○○高専、幼・小・中・高・専修学校等、病院、その他
- 【区分イ】:大学・短大・高専、幼・小・中・高・専修学校等、その他
配分基準の早期適用は妨げられていません。 いま内訳表基準で作っている法人は、令和9年4月の一斉適用に向けて移行の準備が要ります。今年の決算が終わったところで手を止めないでください。
財産目録に様式ができました
改正前、財産目録は様式について法令上の定めがありませんでした。 新基準では、作成基準として内容、区分、金額、様式等が規定されています。
そして財産目録は、私立学校法107条1項が定める3つの書類のひとつです。
一 財産目録 二 役員及び評議員の氏名及び住所を記載した名簿 三 第100条第1項に規定する報酬等の支給の基準を記載した書類
この3つをまとめて**「財産目録等」といいます。作成期限は毎会計年度終了後3月以内**です。
なお、2の名簿については、閲覧請求があった場合に「当該名簿に記載され、又は記録された事項中、個人の住所に係る記載又は記録の部分を除外して」閲覧させることができます(同条6項)。作成は住所を含む形で行い、閲覧のときに除外する、という建て付けです。
会計監査人を置くと、知事所轄の特例が使えなくなります
新基準は、改正前の「知事所轄学校法人に関する特例」の内容を維持しつつ、会計監査人を設置する知事所轄学校法人は特例を適用しないこととしました。特例の名称自体が「会計監査人非設置知事所轄学校法人に関する特例」になっています。
会計監査人の設置を検討する法人は、監査報酬だけで判断しないでください。 特例が使えなくなることによる作成書類の増加も同時に生じます。
どの法人に会計監査人の設置義務があるかは、会計監査人の設置が義務になる学校法人はどこまでかで整理しています。
備置きの開始日が2種類あります
実務で最も間違えるのがここです。計算書類等と財産目録等で、備置きの起算日が違います。
| 書類 | 備置きの開始 | 主たる事務所 | 従たる事務所 |
|---|---|---|---|
| 計算書類等及び監査報告 | 定時評議員会の日の一週間前の日から | 5年間 | 3年間 |
| 財産目録等 | 定時評議員会の日から | 5年間 | 3年間 |
条文を並べます。
学校法人は、計算書類等及び監査報告を、前条第2項の定時評議員会の日の一週間前の日から五年間、その主たる事務所に備え置かなければならない(私立学校法106条1項)
学校法人は、財産目録等を、当該会計年度に係る定時評議員会の日から五年間、その主たる事務所に備え置かなければならない(同法107条3項)
1週間ずれています。 文部科学省はこの差について、次のように説明しています。
財産目録等(財産目録、役員及び評議員の名簿、役員等に対する報酬等の支給基準)は、改正前の私学法第47条第2項においてこれら書類を「作成の日から」備置くことが規定されていましたが、法改正により「定時評議員会の日から」となりました(第107条)。これは、役員や評議員の任期が定時評議員会の集結の時までとされ(私学法第29条第1項等)、定時評議員会で新たな役員や評議員が選任されることもあり、財産目録、役員及び評議員の名簿、役員等に対する報酬等の支給基準のそれぞれで作成時期が異なることが想定され、備置きの事務が煩雑とならないようにしたものと考えられます。(原文ママ)
引用中の2か所は、資料側の表記です。
- 「集結」は、私立学校法上は「終結」です
- 「私学法第29条第1項等」とありますが、現行の私立学校法29条は理事選任機関の規定であり、任期の規定ではありません。任期は理事が32条1項、監事が47条1項、評議員が63条1項で、いずれも「定時評議員会の終結の時まで」と定められています
理由の中身は変わりません。名簿の内容が定時評議員会で変わりうるから、というものです。同じ日に作っていても、備え置き始める日は別々になります。
閲覧請求できる人にも違いがあります
計算書類等及び監査報告について、債権者は閲覧に加えて謄本・抄本の交付等も請求できます(私立学校法106条3項)。
在学する者その他の債権者以外の利害関係人も閲覧を請求でき、学校法人は「正当な理由がある場合を除き、これを拒んではならない」とされています(同条4項)。
そして大臣所轄学校法人等には特例があります。
第百六条の規定の適用については、同条第四項中「当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の債権者以外の利害関係人は」とあるのは、「何人も」とする(私立学校法149条1項)
財産目録等についても同じ読替えがあります(同条2項)。大臣所轄学校法人等では、利害関係の有無にかかわらず誰でも閲覧を請求できます。
なお、在学者その他の利害関係人に閲覧請求権があること自体は、改正前からの制度です。 今回新たに加わったものではありません。整理し直されたのは、請求できる内容(閲覧か、交付まで含むか)と、大臣所轄学校法人等の特例の部分です。
決算の最終期限は6月末ですが、途中にも法定の期間があります
作成期限は法律で決まっています。
学校法人は、毎会計年度終了後三月以内に、文部科学省令で定めるところにより、各会計年度に係る計算書類等を作成しなければならない(私立学校法103条2項)
3月決算なら6月30日です。そしてこの「作成」の意味に注意してください。
前二項の監査を受けた計算書類等は、理事会の決議による承認を受けなければならない。この場合において、当該承認は、監査報告の内容を踏まえて行うものとする(同法104条3項)
理事会の承認をもって作成が完了します。 財産目録も同じく理事会の決議による承認が必要です(私立学校法施行規則43条1項)。
また、私学助成を受ける学校法人は、私立学校振興助成法に基づく書類を同じく会計年度終了後3月以内に所轄庁へ提出します。文部科学省の決算スケジュール例は、この2つを年度末から3か月以内の最終期限として示しています。
ただし「期限が2つしかない」わけではありません
文部科学省の資料には「法律上、期限が規定されているのは、計算書類・財産目録等の作成(理事会承認)期限(私学法)、及び所轄庁への計算書類の提出期限(私学助成法)のみ」という注記があります。これは6月末までの決算スケジュール例における最終期限の説明であって、法令上の期間が全部で2つしかないという意味ではありません。
途中にも法定の期間があります。たとえば会計監査報告の通知期限です。
会計監査人は、次に掲げる日のいずれか遅い日までに、特定監事及び特定理事に対し、計算関係書類についての会計監査報告の内容を通知しなければならない。 一 当該計算関係書類のうち計算書類の全部を受領した日から四週間を経過した日 二 当該計算関係書類のうち計算書類の附属明細書を受領した日から一週間を経過した日 三 特定理事、特定監事及び会計監査人の間で合意により定めた日があるときは、その日(私立学校法施行規則36条1項)
「いずれか遅い日」です。 合意で日を定めていなければ、計算書類の全部を渡してから4週間が確保されます。監事の監査報告についても、会計監査報告を受領した日から1週間を経過した日と合意日のいずれか遅い日という定めがあります(同規則38条1項)。
このほか、本記事で触れた備置きの起算日(同法106条・107条)も法令上の期間です。
逆算するときは、6月末から4週間以上を監査に見込んでください。 「作成期限だけ守ればよい」と考えると、監査の期間が足りなくなります。
なお、会計監査人設置学校法人では、計算書類及びその附属明細書について監事と会計監査人の両方の監査を受けます(同法104条2項)。事業報告書は監事のみです。ここも対象が分かれます。
保存期間は、計算書類を作成した時から10年間です(同法103条4項)。備置きの5年間とは別の話ですので、混同しないでください。
まとめ
- 根拠が私立学校振興助成法から私立学校法へ移り、目的が補助金の配分から情報開示に変わりました。対象もすべての学校法人等に広がっています
- 内訳表3つは計算書類から外れましたが、なくなっていません。 助成法に基づく書類として引き続き作成します
- 附属明細書は名称が「明細表」から「明細書」に変わっただけでなく、3つとも記載内容が変わりました。 固定資産明細書は摘要欄の基準が3,000万円から資産総額の1/100へ、借入金明細書は個別の金融機関名と利率を記載しない形へ、基本金明細書は組入れ・取崩しの計算過程を示す形へ。第2号・第3号基本金の計画表は作成不要になりました
- 法律上の**「計算書類」は貸借対照表と収支計算書の2つ**、「計算書類等」はこれに事業報告書と附属明細書を加えたものです
- 注記が15項目になりました。セグメント情報と子法人に関する事項が新設です
- セグメント情報の区分はいま経過措置で、令和9年4月から【区分ア】+配分基準に一斉適用されます
- 財産目録に様式ができました。名簿は閲覧時に住所を除外できます
- 会計監査人を置くと、知事所轄の特例が使えなくなります
- **備置きの開始日は、計算書類等が「1週間前」、財産目録等が「当日」**です
- 閲覧については、債権者は交付まで請求でき、大臣所轄学校法人等では「何人も」請求できます。在学者等の閲覧請求権自体は改正前からの制度です
- 最終期限は6月末(3月決算の場合)ですが、途中にも法定の期間があります。 会計監査報告の通知期限は「計算書類の全部を受領した日から4週間」等のいずれか遅い日です
新基準の初年度を終えて、翌年度以降に持ち越す論点があるはずです。セグメント情報の配分基準への移行、注記の書き方、規程や様式の整理は、今年の決算の記憶があるうちに手をつけるのが最も効率的です。学校法人会計の監査と税務の両方を扱っている立場から、御法人の実際の書類に即してご相談に応じます。