学校法人会計

会計監査人の設置が義務になる学校法人はどこまでか

改正私立学校法が2025年(令和7年)4月1日に施行され、一定の学校法人には会計監査人の設置が義務付けられました。

この「一定の」の範囲について、「収入10億円以上なら義務」という説明を目にすることがありますが、これは正確ではありません。実際には2つの条件を同時に満たす必要があり、規模が大きくても対象にならない法人があります。逆に、自法人は関係ないと思っていた法人が対象になっていることもあります。

判定の基準を整理します。

まず、自法人がどの区分に入るかを確かめる

私立学校法は、学校法人を3つに分けています。

区分中身
大臣所轄学校法人大学・高等専門学校を設置する学校法人。文部科学大臣が所轄庁
知事所轄学校法人のうち一定のもの下記の基準を満たすもの。大臣所轄学校法人と同等に扱われる
その他の学校法人上記以外

このうち上の2つをまとめて 「大臣所轄学校法人等」 と呼びます。会計監査人の設置義務があるのは、この「大臣所轄学校法人等」です。

大学や高等専門学校を設置している学校法人であれば、大臣所轄学校法人にあたりますので、設置義務があります。問題は、そうでない学校法人の判定です。

知事所轄学校法人の判定基準

知事所轄学校法人が大臣所轄学校法人等に該当するのは、次の**(1)と(2)の両方**を満たす場合です。

(1) 収入10億円又は負債20億円以上 (2) 3以上の都道府県において学校教育活動を行っていること

「かつ」であることが重要です。 片方だけでは該当しません。

ここが最も誤解される点です。「収入10億円」という数字だけが独り歩きして、規模の大きな学校法人が一律に対象になると理解されていることがあります。実際には、規模が大きくても活動が1つの都道府県に収まっていれば、会計監査人の設置義務はありません。

それぞれの条件を、もう少し細かく見ます。

(1) 収入10億円又は負債20億円以上

ここでいう収入は、事業活動及び収益事業による経常的な収入の額です。特別な収入や一時的な収入は含みません。

「又は」ですので、収入と負債のどちらかが基準に達していれば、この条件は満たします。収入が10億円に届かなくても、負債が20億円以上あれば該当します。校舎の建替えなどで借入が大きい法人は、収入だけを見て判断すると誤ります。

(2) 3以上の都道府県において学校教育活動を行っていること

具体的には、次のような場合が該当します。

  • 3以上の都道府県に学校を設置している
  • 広域通信制高等学校を設置している

広域通信制高等学校が明示されている点に注意してください。学校の所在地が1か所であっても、広域通信制であれば生徒が複数の都道府県にまたがるため、この条件を満たします。

該当しても、所轄庁は都道府県のまま

知事所轄学校法人が大臣所轄学校法人等に該当することになっても、所轄庁は都道府県のまま変わりません。

「大臣所轄」という呼び方から、監督官庁が文部科学省に移ると受け取られることがありますが、そうではありません。認可の申請先も報告先も、従来どおり都道府県です。あくまで私立学校法上の取扱いを大臣所轄学校法人と同等にするための区分です。

該当すると、会計監査人以外にも変わることがある

大臣所轄学校法人等に該当すると、会計監査人の設置だけでなく、いくつもの取扱いが変わります。

項目大臣所轄学校法人等その他の学校法人
会計監査人設置義務任意
外部理事の数2人以上1人以上
理事の理事会への職務報告年4回以上年2回以上
評議員による評議員会の招集請求等1/10以上の評議員により可能1/3以上の評議員により可能
内部統制システム理事会による方針決定任意
事業に関する中期的な計画策定義務任意
計算書類等の閲覧誰でも可能評議員・債権者・在学生その他利害関係人のみ
解散・合併・重要な寄附行為変更理事会の決議に加えて評議員会の決議理事会の決議
情報の公表公表義務努力義務
評議員構成に関する経過措置の期限令和8年度の定時評議員会の終結の時令和9年度の定時評議員会の終結の時

負担が大きいのは、会計監査人の設置と、中期的な計画の策定義務、そして情報の公表義務です。

計算書類等を誰でも閲覧できる状態にし、かつ公表する義務が生じますので、作成の手間だけでなく、外部に見られることを前提とした水準が求められます。会計監査人による監査は、その水準を担保する仕組みでもあります。

なお、評議員構成に関する経過措置の期限も1年早く来ます。大臣所轄学校法人等は令和8年度の定時評議員会の終結の時までに対応を終える必要があり、その他の学校法人より1年前倒しです。自法人が該当することに気づくのが遅れると、この期限にも影響します。

常勤監事は「大臣所轄学校法人等のうち」の話

会計監査人とは別に、常勤監事の設置義務があります。ここで注意が必要なのは、この義務が独立した規模基準として働くわけではないという点です。

私立学校法第145条は「大臣所轄学校法人等のうち」と定めています。つまり、次の2段階で判定します。

第1段階 … まず「大臣所轄学校法人等」に該当するか 第2段階 … そのうえで、経常的な収益100億円以上又は負債200億円以上か

第1段階で外れれば、規模がいくら大きくても常勤監事の義務はありません。

たとえば知事所轄学校法人で収入が100億円を超えていても、活動が1つの都道府県に収まっていれば「3以上の都道府県」の条件を満たさず、大臣所轄学校法人等に該当しません。この場合、常勤監事の設置義務は生じません。

規模の数字だけを見て「100億円を超えているから常勤監事が必要だ」と判断すると誤ります。先に大臣所轄学校法人等かどうかを確かめてください。

なお、会計監査人の基準(収入10億円又は負債20億円)とは桁が違いますので、会計監査人は必要でも常勤監事は任意、という法人が大半です。

会計監査人をいつまでに選任するか

設置が義務となる学校法人については、令和7年度の定時評議員会の終結の時までに選任することとされていました。

すでにその時期は過ぎています。対象であるにもかかわらず選任していない場合は、速やかな対応が必要です。

選任は評議員会の決議によって行います。 理事会ではありません。評議員会の開催時期から逆算して、候補となる公認会計士または監査法人との事前の打ち合わせ、報酬の見積り、寄附行為の確認といった準備を進める必要があります。

助成法監査との関係を整理する

ここは混同されやすいところです。学校法人の外部監査には、私立学校法に基づくものと、私立学校振興助成法に基づくものの2つがあります。どちらも公認会計士または監査法人が行います。

私学法監査(会計監査人)私学助成法監査
目的公表する計算書類に第三者保証を付与し、学校法人の説明責任の履行を支援・強化する経常費補助金の適正な配分と効果を担保する
義務がある法人大臣所轄学校法人等経常費補助金の交付を受ける学校法人(私学法に基づき会計監査人を設置する学校法人を除く
監査人公認会計士又は監査法人である会計監査人公認会計士又は監査法人
選任評議員会において選解任学校法人との契約により選任
監査の対象計算書類、財産目録計算書類

会計監査人の設置義務がない学校法人でも、経常費補助金の交付を受けていれば、助成法監査として公認会計士等による計算書類の監査を受けます。 「会計監査人を置かない=外部の会計監査が一切入らない」ということではありません。

そのうえで、両方を受けることにはなりません。 助成法監査の義務は「私学法に基づき会計監査人を設置する学校法人を除く」とされているため、会計監査人を設置すると、助成法監査の義務からは外れます。

私立学校法上の責任関係は別の話

一方、私立学校法の上での計算書類に対する責任関係は、会計監査人を置くかどうかで変わります。会計監査人を設置しない場合は次のとおりです。

  • 理事等 … 学校法人会計基準に準拠して計算書類を作成し、学校法人の経営の状況及び財政状態を適正に表示する
  • 監事 … 計算書類が学校法人の財産及び収支の状況を適切に表示しているかどうかを監査し、財務報告プロセスの整備・運用における理事の業務執行の状況を監視する

助成法監査を受けている場合であっても、私学法上の責任関係としてはこの形になります。監事の監査報告の内容は、私立学校法施行規則第31条に定められています。

義務でなくても、任意で置くという選択肢

会計監査人の設置義務がない学校法人でも、寄附行為に定めを置けば任意に設置できます。

判断材料になるのは、2つの監査の目的の違いです。助成法監査は補助金の適正な配分を担保するためのものであり、私学法監査は公表する計算書類に第三者保証を付与するためのものです。計算書類を広く外部に示していく方針であれば、後者の枠組みの方が目的に合います。

金融機関からの借入や大口の寄附の受入れにあたって説明を求められる場合、あるいは今後の規模拡大で将来的に義務の対象になる見込みがある場合には、先んじて任意で設置するという判断もあります。

まとめ

  • 会計監査人の設置義務があるのは 大臣所轄学校法人等 です
  • 知事所轄学校法人が該当するのは、「収入10億円又は負債20億円以上」かつ「3以上の都道府県において学校教育活動を行っていること」の両方を満たす場合です。規模だけでは決まりません
  • 広域通信制高等学校を設置していれば、所在地が1か所でも(2)を満たします
  • 該当しても所轄庁は都道府県のままです
  • 該当すると、中期的な計画の策定義務や情報の公表義務など、会計監査人以外の負担も生じます
  • 常勤監事の義務は「大臣所轄学校法人等のうち」経常的な収益100億円以上又は負債200億円以上の法人です。2段階の判定であり、規模だけでは決まりません
  • 会計監査人を置かなくても、経常費補助金の交付を受けていれば助成法監査として公認会計士等の監査を受けます。逆に会計監査人を設置すると、助成法監査の義務からは外れます
  • 義務がなくても任意で設置できます

自法人が対象にあたるかどうかの判定、対象になった場合の準備、任意設置を検討する際の論点整理について、ご相談を承っています。学校法人の会計監査人としての就任実績があり、判定から実際の監査まで一貫して対応できます。

よくある質問

収入が10億円を超えていれば、会計監査人の設置は義務になりますか。

いいえ、それだけでは義務になりません。知事所轄学校法人が「大臣所轄学校法人等」に該当するには、「収入10億円又は負債20億円以上」と「3以上の都道府県において学校教育活動を行っていること」の両方を満たす必要があります。「かつ」の条件ですので、規模が大きくても活動が1つの都道府県に収まっていれば該当しません。この点は誤解されやすく、規模だけで判断すると結論を誤ります。

知事所轄学校法人が大臣所轄学校法人等に該当すると、所轄庁は文部科学省に変わりますか。

変わりません。所轄庁は都道府県のままです。「大臣所轄学校法人等」というのは、私立学校法上の取扱いを大臣所轄学校法人と同等にするための区分であって、監督官庁が移るという意味ではありません。認可の申請先や報告先は従来どおり都道府県です。

会計監査人はいつまでに選任する必要がありますか。

設置が義務となる学校法人については、令和7年度の定時評議員会の終結の時までに選任することとされていました。すでにその時期を過ぎていますので、対象であるにもかかわらず選任していない場合は、速やかに対応が必要です。選任は評議員会の決議によって行いますので、評議員会の開催時期から逆算して準備を進める必要があります。

義務でない学校法人が、任意で会計監査人を置くことはできますか。

できます。寄附行為に定めを置くことで、任意に会計監査人を設置できます。判断材料になるのは、私立学校振興助成法に基づく監査との目的の違いです。助成法監査は経常費補助金の適正な配分と効果を担保するためのものであるのに対し、私立学校法上の会計監査人による監査は、公表する計算書類に第三者保証を付与し、学校法人の説明責任の履行を支援・強化するためのものです。計算書類を広く外部に示していく方針であれば、後者の枠組みの方が目的に合います。

会計監査人を設置しなければ、外部の会計監査は入らないのですか。

そうとは限りません。経常費補助金の交付を受けている学校法人は、私立学校振興助成法に基づき、公認会計士または監査法人による計算書類の監査を受けます。会計監査人を置いていなくても、この助成法監査は行われます。一方で、私立学校法の上での計算書類に対する責任関係は、会計監査人を設置しない場合、理事等が学校法人会計基準に準拠して計算書類を作成する責任を負い、監事が計算書類が財産及び収支の状況を適切に表示しているかどうかを監査する、という形になります。「外部監査があるかどうか」と「私学法上の責任関係」は別の話ですので、分けて考えてください。

会計監査人を置くと、助成法監査も両方受けることになりますか。

なりません。助成法監査が義務付けられるのは「経常費補助金の交付を受ける学校法人(私立学校法に基づき会計監査人を設置する学校法人を除く)」とされていますので、会計監査人を設置すると助成法監査の義務からは外れます。二重に監査を受けることにはなりません。

常勤の監事も置かなければならないのですか。

常勤監事の設置義務は、私立学校法第145条により「大臣所轄学校法人等のうち」経常的な収益100億円以上又は負債200億円以上の法人に課されます。2段階の判定になっている点に注意してください。まず大臣所轄学校法人等に該当することが前提で、そこで外れれば規模がいくら大きくても常勤監事の義務はありません。たとえば知事所轄学校法人で収入が100億円を超えていても、活動が1つの都道府県に収まっていれば大臣所轄学校法人等に該当せず、常勤監事の設置義務は生じません。

出典

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