業務効率化・DX

職員向けAI活用研修で何を伝えるか — 総務省のひな形が求めていること

職員向けのAI活用研修は、「使い方を教える場」だと思われていることが多いのですが、自治体では位置づけが違います。

総務省が示したひな形では、研修の受講が生成AIを使うための前提条件になっています。順番が逆なのです。研修があるから使い方が上手になるのではなく、研修を受けていない職員は、そもそも使えないという建て付けです。

そうすると、研修で何を話すかは、講師の裁量で決める話ではなくなります。自団体のガイドラインが「受けろ」と言っている研修なのですから、そのガイドラインが職員に理解させたいと書いている事項が、そのまま研修の目次になります。

この記事では、その目次を原文から起こします。あわせて、研修をやっても解決しないこと(別表が埋まっていないと「何を入れてよいか」には答えられません)も書きます。研修を外部に頼むかどうかを判断する材料にしてください。

研修の受講は、ひな形では「利用の前提」です

総務省は令和7年12月16日、「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>」を第4版に改訂し、別添として「(自治体名)生成AIシステム利用ガイドライン(ひな形Ver1.0)」を公表しました。自団体の職員向けガイドラインを白紙から書かなくて済むように用意されたものです。

このひな形の「3 生成AIシステムの利用に係るルール」は、(1)利用前のルールと(2)利用中のルールに分かれています。そして(1)の「前提として理解しておくべき事項(対象:全職員)」のいちばん最初の項目が、これです。

(自治体名)職員が生成AIシステムを利用する前には、情報政策担当課が指定する研修を必ず受講すること。

総務省自身も、改訂の概要資料で「職員向け生成AI利用ガイドライン(ひな形)のポイント」の筆頭にこれを挙げています。

生成AIシステムを利用する前に、情報政策担当課が指定する研修を必ず受講すること。

これは「義務」ではなく「ひな形」です

先に線を引いておきます。これは総務省が示したひな形であって、それ自体が自治体を拘束する法令ではありません。効いてくるのは、自団体がこの文を自団体のガイドラインに採り入れて決裁を通した後です。

ただし、実務上はそこが分かれ目になります。総務省がひな形を出したのは「同ガイドラインの策定を促進」するためで、これから作る団体はこれを下敷きにすることになります。そのときこの一文を削る理由はまず見つかりません。削らずに通せば、その日から「研修を受けていない職員は使えない」というルールが立ち上がります。研修の準備がないまま先にガイドラインだけ決裁した団体は、ここで詰まります。

府省向けのひな形には、この一文がありません

見落とされやすいのですが、この研修の項目は自治体向けで足されたものです。

総務省のひな形は、デジタル庁のひな形をもとに作られています。概要資料にこう書かれています。

デジタル庁の「生成AIシステム利活用ルール」(各省向けひな形)をもとに、先行自治体のルール等も参考に、以下の職員向け生成AI利用ガイドラインの(ひな形)を作成。

総務省のひな形は令和7年12月のものですから、下敷きになったのはその時点の版、すなわちDS-920の初版(令和7年5月27日決定)の別紙2「〇〇省 生成AI システム利活用ルール(ひな形Ver1.0)」です。その「(1)利活用前のルール」は、次の4点でした。

#府省向けひな形「利活用前のルール」
1便益とリスク(要機密情報の流出、ハルシネーション等)があることを理解すること
2企画者又は提供者から説明された利用方法、セキュリティ上の留意点、出力についての精度及びリスクの程度を理解すること
3入力結果及び出力結果は、必要に応じて提供者に提供する必要がある旨事前に了解すること
4不特定多数の利用者に対して提供され、かつ定型約款や規約等への同意のみで利用可能となるクラウドサービス型の生成AIシステムでは、原則として要機密情報を取り扱わないこと(この項目には、要機密情報を取り扱わない場合でも利活用の許可を得ること、国外サーバに留意することが続きます)

研修の受講を求める項目はありません。現行の第2.0版の別紙2(ひな形Ver2.0)でも箇条書きは同じ4点で、研修受講の項目は加わっていません(文言には手が入っています。後で1か所使います)。DS-920の本体は、府省庁のAI統括責任者(CAIO)の対応事項として「研修(入力データやハルシネーション等に係る注意喚起等)」に触れていますが、職員が受講しなければ使えない、という建て付けにはなっていません。

自治体向けひな形は、この4点を横にずらしただけではありません。1から3は「前提として理解しておくべき事項(対象:全職員)」に引き継がれ、その先頭に研修受講が、末尾に私用デバイスの禁止が加わりました。4点目(約款型のクラウドサービス)は、対象を限った別の塊に移されています。逆に、府省向けでは「(2)利活用中のルール」の入力側にあった保有個人情報と機械学習の項目が、自治体向けでは「(1)利用前のルール」に繰り上がっています。対象と段階の組み替えが入っているので、府省向けの構成をそのまま研修の骨格には使えません。

「足された」ということは、足すだけの事情があったということです。次の数字がその事情です。

数字で見ると、市区町村では「ルールが無い」ほうが多数派です

総務省の改訂概要には、令和6年12月末時点のガイドライン策定状況が載っています。

区分策定済策定中未策定
都道府県46団体(97.9%)1団体(2.1%)—
指定都市17団体(85.0%)3団体(15.0%)—
その他市区町村584団体(33.9%)133団体(7.7%)1,004団体(58.3%)

都道府県と指定都市はほぼ行き渡っていますが、その他市区町村では未策定が58.3%に達します。しかも、未策定は未導入団体だけの話ではありません。概要には注記があります。

(※導入済み団体573団体中、97団体が未策定)

すでに生成AIを導入している団体のうち97団体が、職員向けのガイドラインを持たないまま使っているということです。

導入の側の数字も並べておきます。ガイドブック第4版は、「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」(総務省、令和6年度)から次を引いています。

生成AIを「導入済」の団体は都道府県で87.2%、指定都市で90.0%、その他の市区町村では29.9%となっています。

同じ図で、その他の市区町村の21.4%(369団体)が「導入予定もなく、検討もしていない」に分類されています。導入済みが29.9%、検討すらしていないが21.4%で、市区町村ではこの2つが近い水準に並んでいるという状態です。

研修を考えるときに、この分布は効いてきます。都道府県と指定都市では「ルールはあるので、中身を職員に降ろす」段階ですが、多くの市区町村ではルールを作る作業と研修の準備が同時に来ます。順番を決めておかないと、どちらも中途半端になります。

研修で伝える内容は、ひな形がそのまま目次になります

ここからが本題です。ひな形が「前提として理解しておくべき事項(対象:全職員)」として挙げているのは、研修受講を含めて5項目です。原文を引きます。

#全職員に伝える事項(ひな形・利用前)
1「(自治体名)職員が生成AIシステムを利用する前には、情報政策担当課が指定する研修を必ず受講すること。」
2「生成AIの利用は、様々な便益が期待される一方、要機密情報(中略)の流出やハルシネーションなどのリスクがあることを理解すること」
3「生成AIシステムの担当課室(中略)から説明された利用方法、セキュリティ上の留意点、生成AIシステムの出力についての精度及びリスクの程度を理解すること。」
4「生成AIシステムへの入力結果及び出力結果は、必要に応じて生成AIシステムの担当課室に提供する必要がある旨を事前に了解すること」
5「(自治体名)職員は私用デバイスへ私的にインストールした生成AIに職務上知り得た情報を入力してはならないこと。」

この5つは、研修のスライドに置き換えると次のようになります。

  • 1は、研修そのものの位置づけです。研修の冒頭で「これは受けないと使えない研修です」と言うかどうかで、後の集まり方が変わります
  • 2は、ハルシネーションの説明です。ハルシネーションそのものは、一般的なAI解説と同じ内容でかまいません。ただし、要機密情報という語については、ひな形が括弧の中に定義を置いています。上の表では中略しましたが、原文は「要機密情報(「(自治体名)情報セキュリティポリシー」における情報セキュリティ対策基準に定める自治体機密性2以上の情報をいう。以下同じ。)」です。この括弧を飛ばすと、後で出てくる別表の「自治体機密性2以下の情報」が要機密情報を含んでいることに気づけません
  • 3は、自団体の話でなければ意味がありません。「担当課室から説明された利用方法」とある以上、担当課室が何を説明したのかを研修で繰り返すことになります。汎用の研修教材では埋められない部分です
  • 4は、嫌われやすいところです。入力したプロンプトと出力は、求めがあれば提出する。これを研修で言っておかないと、後でログの提出を求めたときに「聞いていない」となります
  • 5は、1行で終わりますが、外せません。私物のスマートフォンに入れたアプリに、仕事で知った情報を打ち込まない、という話です

4番目は「例」まで読んでおく

4番目には括弧書きの例が付いています。

(例:情報政策担当課からの求めに応じて、アクセス可能な状態であれば入力データ又はプロンプト、出力結果、データ提供の手段、形式等を提出する。)

「アクセス可能な状態であれば」という限定が入っています。ログが残らない使い方をしていれば出せない、ということでもあります。研修でここを説明するなら、自団体が使っているシステムでログが残るのかどうかを、担当課室に先に確認しておく必要があります。

ひな形が名指ししている資料が、もう1つあります

ひな形は(1)(2)を示す前に、注記を1つ置いています。原文のまま引きます。

※「「DeepSeek等の生成AIの業務利用に関する注意喚起」についての周知」(令和7年2月6日総務省事務連絡)」についても併せて確認されたい。

(閉じ括弧が1つ多いのは原文ママです。)

これはひな形の項目ではありませんが、「併せて確認されたい」と名指しされています。自団体のガイドラインをひな形から作るなら、この注記も一緒に引き継ぐことになります。研修の配布資料の一覧に、この事務連絡を入れておいてください。ひな形の項目だけを見ていると抜けます。

対象が「全職員」ではない項目を、全職員研修に混ぜない

ひな形の(1)利用前のルールには、もうひとつの塊があります。見出しはこうです。

個人情報や要機密情報の取扱いについて留意すべき事項(対象:指定されていない生成AIシステムの利用を希望する課室、担当課室、情報政策担当課)

対象が違います。項目としては2つですが、2つ目は3つの文でできています。

1つは、保有個人情報を含むプロンプトを入力する場合に、事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認する、という話です。この「等」を落とさないでください。ひな形が挙げている理由は「当該保有個人情報が当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、当該行政機関等は個人情報保護法(平成15年法律第57号)の規定に違反することとなる可能性がある」ことです。つまり確認すべきは「応答結果を返す以外の使い方をしないか」であって、機械学習はその一例にすぎません。「学習に使わないと書いてあるか」だけを見て終わると、確認の範囲を自分で狭めたことになります。

もう1つは、不特定多数の利用者に提供され、かつ定型約款や規約等への同意のみで利用可能となるクラウドサービス型(以下「約款型」)では、原則として要機密情報を取り扱わない、という話です。2つの条件が「かつ」で結ばれています。約款に同意するだけで誰でも使えるサービスの話であって、契約を結んで庁内に導入したサービスが当然に含まれるわけではありません。

ただし、この項目はそこで終わりません。同じ項目の中に、続けて2つの文が入っています。原文を引きます。

要機密情報を取り扱わない場合であっても、不特定多数の利用者に対して提供され、かつ定型約款や規約等への同意のみで利用可能となるクラウドサービス型の生成AIシステムを業務で利用する場合には、「(自治体名)情報セキュリティポリシー」における情報セキュリティ対策基準の「8.4. 外部サービス(クラウドサービス)の利用(自治体機密性2以上の情報を取り扱わない場合)」に基づき、利用の許可を得ること。

また、要機密情報を取り扱わない場合であっても、例えば、国外にサーバ装置を設置している場合は、現地の法令が適用され、現地の政府等による検閲や接収を受ける可能性があることに留意すること。

2つとも「要機密情報を取り扱わない場合であっても」で始まっています。約款型の話を「要機密情報を入れなければよい」とまとめると、ここが丸ごと落ちます。機密性の低い情報しか入れないつもりでも、約款型を業務で使うなら、自団体の対策基準「8.4 外部サービス(クラウドサービス)の利用(自治体機密性2以上の情報を取り扱わない場合)」に基づく利用の許可が要る、というのがひな形の書き方です。「機密性の低い情報なら許可は要らない」ではありません。

参照先の8.4は、利用可能な業務の範囲・許可権限者と利用手続・管理者の指名・運用手順を規定として整備しておき、そのうえで利用を申請させて可否を決める、という形の例文です。つまり、この許可は「聞けばもらえる」ものではなく、先に規定がある前提の手続です。許可権限者が誰かは自団体の対策基準で決まるので、そこを確かめてから研修の資料を作ってください。

国外サーバの1文も、落とさないでください。現地の法令が適用され、検閲や接収を受ける可能性があるというのは、事業者の約款を読んでも出てこない話です。事業者が学習に使わないと約束していても、この可能性は消えません。

どちらも、個々の職員がその場で判断する事項として書かれていません。判断するのは、システムの指定を申請する課室と、担当課室と、情報政策担当課です。

全職員向けの研修でここを主役にすると、聞いた職員は「自分で確認して判断してよい」と受け取ります。伝えるべきは逆で、その判断はすでに済んでいる(あるいは、まだ済んでいない)という事実のほうです。

機密性の区分そのものの考え方は、自治体で生成AIに入れてよい情報はどこまでかに書きました。研修で区分の話をする必要があるのは、別表に「自治体機密性2以下」などと書き込んだ後です。

ひな形をそのまま使うときに直す箇所

ひな形の2番目の項目には、参照先が括弧で入っています。原文のまま引きます。

(生成AIによる便益とリスクについては、「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利用に係るガイドライン」(令和7年5月27日デジタル社会推進会議幹事会決定)の「5 生成AIによる便益とリスクを理解した利活用推進」を参照。)

ここは2点、手を入れる必要があります。

  1. 名称が「調達・利用」になっています(原文ママ)。正しくは「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」です。令和7年5月27日決定の初版の表紙を見ても、そう書かれています。なお、この誤記は総務省が持ち込んだものではありません。下敷きにしたDS-920初版の別紙2が、同じ括弧書きを「調達・利用」と書いていました。第2.0版の別紙2では「調達・利活用」に直っています。参照元はすでに直っていて、ひな形だけが誤記を抱えたままです
  2. 参照している版が古くなっています。このガイドラインは第2.0版が令和8年6月12日にデジタル社会推進会議幹事会で決定され、令和8年9月1日から施行されています。ひな形が参照しているのは初版です

なお、参照先の章の名称「5 生成AIによる便益とリスクを理解した利活用推進」は、第2.0版でも同じです。章を探しに行けば同じ見出しには着きます。

ただし、着いた先の中身は同じではありません。第2.0版の改定履歴によると、5.1では便益の例が追加されて「表5 生成AI利活用による期待される便益の例」が削除され、5.2では対象生成AIの拡大を踏まえて事例が追加され「表6 AI事業者ガイドラインにおけるリスクの例」が削除されています。初版のこの2つの表を写して研修資料を作っていると、参照先には存在しない表を説明することになります。見出しが同じでも版が変われば中身は変わる、ということです。

自団体のガイドラインとして決裁に回す文書に、正式名称の誤りと旧版の日付を残す理由はありません。

利用中のルールが、研修の本体です

利用前が「理解すること」だとすれば、利用中は「毎回やること」です。時間を割くべきはこちらです。

入力するとき(3項目)

#入力データ又はプロンプトにおけるルール
1利用目的の範囲内で適切に利用する。担当課室から説明された利用目的範囲外の利用をしない
2保有個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、事前に入力の可否を確認のうえ、「保有個人情報の利用目的のための必要最小限の利用又は提供であること」を十分に確認する
3正確かつ最新のデータを入力する。入力する前に、前提が誤っている等の不正確な情報となっていないかを利用者自身でチェックする

2番目の「必要最小限」は、研修で最も誤解されるところです。「個人情報を入れてはいけない」とも「個人情報を入れてよい」とも書かれていません。入力の可否は別表で決まっており、可となっているシステムでも、目的のために必要な最小限にとどめる、という二段構えです。

ひな形は、迷ったときの行き先まで書いています。

(例:生成AIシステムの担当課室が別に定める利用ルールを確認し、問題がないかを判断した上で利用、判断が付かない場合は個人情報を含まないプロンプトとする。)

「判断が付かない場合は個人情報を含まないプロンプトとする」。研修で覚えて帰ってもらう文があるとすれば、これです。

3番目は軽く扱われがちですが、実務では効きます。古い要綱を貼り付けて要約させれば、古い要綱の要約が返ってきます。出力を疑う前に、入力を疑うという順番を、ここで伝えておきます。

出てきたものを使うとき(7項目)

#生成物利用におけるルール
1利用目的に応じて求められる正確性の水準が異なることを意識し、出力結果を確認する
2出力に基づいて行われた判断も説明責任の対象に含まれることに留意する
3責任を持って業務への利用判断を行う。判断に迷う場合は利用しないこととする
4正確性や根拠・事実関係を、必要な範囲内でリスクに応じて確認する
5安全性・公平性・客観性・中立性等に問題がないことを確認し、問題のある表現は必ず加除修正する
6委託する外部事業者に対し、成果物に生成物が含まれる場合の取扱い等を委託契約書等に定める
7生成AIを利用して職務上作成した文書は、文書取扱規程等を踏まえて適切に管理する

1と4は、セットで読まないと厳しすぎる指示に見えます。1は「用途によって求められる正確性は違う」と言い、4は「必要な範囲内でリスクに応じて」と言っています。全部の出力を一次資料まで遡って検証せよ、とは書かれていません。翻訳の下書きと、住民に出す通知文とで、確認の深さを変えてよい、という趣旨です。

2は、研修で最も納得されやすく、最も行動が変わる項目です。ひな形の例はこうです。

(例:利用者自身が生成物について説明できることを確かめた上で業務利用する。必要に応じて生成物を換言して、自身で説明できる表現にする。)

自分の言葉に置き換えられないものは、使わない。これは検証の手続きというより、業務文書としての最低条件です。生成物の検証をどう仕組みにするかは、生成AIの成果物は検証とセットでなければ使えないに書きました。

6と7は、対象が個々の職員ではありません。委託契約に条項を入れるのは契約担当であり、文書の管理は文書主管課の所掌です。全職員研修で扱うなら「そういう整理が別にある」と触れる程度にとどめ、契約担当者向けには別の機会を作るほうが実務に合います。

リスクケースの報告手順は、起きる前に伝える

ひな形は、生成AIシステム特有のリスクケースとして4つの例を挙げています。偏見や差別を含む出力、攻撃的又は危険なコンテンツ、ハルシネーションによって利用者や第三者に不利益を与えた場合、著作権侵害等の問題が生じる可能性が高いコンテンツを意図せず生成し利用した場合です。

そして、起きたときの手順が3段階で定められています。

  1. ア.検知内容の報告 — 別紙1「生成AIシステム特有のリスクケースの報告フォーム」の必須項目を記載し、情報政策担当課に報告する。特に重大なものは、AIの利用・リスク管理における責任者(AI統括責任者(CAIO)等)にも迅速に報告する
  2. イ.対処 — 必要に応じ情報政策担当課・CAIO等の指示を仰ぎながら、業務影響特定・原因特定・暫定対応措置・恒久対応措置等を実施する
  3. ウ.対応結果の報告 — 同じ報告フォームに対処の内容を記載し、アと同様に報告する

研修でここを扱うときのコツは1つです。報告フォームの実物を画面に出すこと。報告の手順を言葉で説明しても、いざというとき職員はフォームの場所を探せません。総務省は報告フォームもExcelファイルとして公表しています。自団体で別表を埋めるのと同じタイミングで、このフォームの置き場所も決めておいてください。

なお、CAIOを誰にするかは、ひな形の側では決まっていません。改訂概要も「AI統括責任者(CAIO)を設置するなど、AIの利活用・リスク管理における責任者を明確にする必要」と書くにとどめています。報告先が空欄のまま研修をすると、手順を説明したのに宛先がない、という状態になります。

研修そのものは、情報セキュリティポリシーの枠組みの中にあります

ここまではAI固有の話でした。研修の作り方そのものは、別の資料に枠組みがあります。「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」(令和8年3月版・令和8年3月27日改定)です。

このガイドラインは、情報セキュリティ基本方針と対策基準の例文と、その解説で構成されています。対策基準の例文「5.2 研修・訓練」は4つの項に分かれています。(1)が実施の責任者、(2)が研修計画、(3)が緊急時対応訓練、(4)が職員側の参加義務です。

(1) 情報セキュリティに関する研修・訓練 CISOは、定期的に情報セキュリティに関する研修・訓練を実施しなければならない。

研修の設計に効くのは、次の(2)です。7項目あります。

(2) 研修計画の策定及び実施 ①CISOは、幹部を含め全ての職員等に対する情報セキュリティに関する研修計画の策定とその実施体制の構築を定期的に行い、情報セキュリティ委員会の承認を得なければならない。 ②研修計画において、職員等は毎年度最低1回は情報セキュリティ研修を受講できるようにしなければならない。【推奨事項】 ③新規採用の職員等を対象とする情報セキュリティに関する研修を実施しなければならない。 ④研修は、統括情報セキュリティ責任者、情報セキュリティ責任者、情報セキュリティ管理者、情報システム管理者、情報システム担当者及びその他職員等に対して、それぞれの役割、情報セキュリティに関する理解度等に応じたものにしなければならない。 ⑤情報セキュリティ管理者は、所管する課室等の研修の実施状況を記録し、統括情報セキュリティ責任者及び情報セキュリティ責任者に対して、報告しなければならない。 ⑥統括情報セキュリティ責任者は、研修の実施状況を分析、評価し、CISOに情報セキュリティ対策に関する研修の実施状況について報告しなければならない。 ⑦CISOは、毎年度1回、情報セキュリティ委員会に対して、職員等の情報セキュリティ研修の実施状況について報告しなければならない。

まず①です。研修計画は、情報セキュリティ委員会の承認を得るものとされています。生成AIの研修を、担当課が思いついたときに開く説明会として扱うと、この承認の外に出ます。

⑤⑥⑦は、記録と報告が3段階で積み上がる形です。情報セキュリティ管理者が課室の実施状況を記録して統括情報セキュリティ責任者へ、統括情報セキュリティ責任者が分析・評価してCISOへ、CISOが情報セキュリティ委員会へ。生成AIの研修をこの枠組みの外側に置くと、実施状況の記録も、この3段階の報告も残りません。単発のイベントとして開いて終わり、になります。

クラウドを使うなら、第4編も見てください

いま見た5.2は、第2編(対策基準の例文)と第3編(その解説)のものです。このガイドラインには第4編「地方公共団体におけるクラウド利用等に関する特則」があり、そこで5.2(1)に②が追記されています。

②CISOは、定期的にクラウドサービスを利用する職員等の情報セキュリティに関する意識向上、教育及び訓練を実施するとともに、委託先を含む関係者については委託先等で教育、訓練が行われていることを確認しなければならない。

ただし、第4編が対象としている場面は限られています。第4編が示しているのは、クラウドサービス上で標準準拠システム等(標準準拠システム・関連システム等の業務システム)を整備及び運用する場合の対策基準であって、クラウドで動く生成AIサービス一般の話ではありません。ガバメントクラウドを念頭に置いたものです。この編が想定している場面を超えて、ポリシー全体の話に広げないでください。

効いてくるのは、第4編自身が「β´モデルにおいてクラウドサービスを利用する際の対策基準としても活用できるように策定している」と書いている部分です。機密性の高い情報資産をβ´モデルでクラウド上に置いている団体は、生成AIの研修を組むときにこの②も見ておいてください。「委託先等で教育、訓練が行われていることを確認する」は、自団体の研修だけを考えていると出てこない項目です。

「毎年度最低1回」と「新規採用者向け」は、重みが違います

ここは読み分けが要ります。例文②はこうです。

②研修計画において、職員等は毎年度最低1回は情報セキュリティ研修を受講できるようにしなければならない。【推奨事項】

末尾に【推奨事項】が付いています。一方、先ほど引いた③新規採用者向けの研修には付いていません。

推奨事項が何を意味するかは、同じガイドラインの総則に書かれています。

推奨事項の項目を情報セキュリティポリシーに記載するか否かの判断は地方公共団体の裁量に委ねるが、記載した場合は遵守する必要があることに留意されたい。

つまり、「職員が毎年度1回受講できるようにすること」を自団体の対策基準に書いているかどうかで、話が変わります。書いてあれば遵守が必要で、書いていなければ、少なくともこの例文からは年1回の受講の義務は出てきません。「国が年1回と決めているので」という説明は、自団体の対策基準を確認してからにしてください。

ただし、「年1回」が全部推奨事項というわけではありません。先に挙げた⑦「CISOは、毎年度1回、情報セキュリティ委員会に対して、職員等の情報セキュリティ研修の実施状況について報告しなければならない。」には、【推奨事項】が付いていません。推奨事項が付いているのは受講の側であって、報告の側には付いていないという分かれ方です。報告する対象は「実施状況」なので、何も実施していなければ、そう報告することになります。

研修内容は、毎回同じにしない

解説の側にも、研修の設計に直接効く記述があります。

研修内容は、毎回同じ内容ではなく、情報セキュリティ監査の結果や庁内外での情報セキュリティインシデントの発生状況等を踏まえ、継続的に更新することや職員等が具体的に行動すべき事項を考慮することが望ましい。

研修計画に盛り込む項目も示されています。

(注1)研修計画には、研修内容や受講対象者のほか、e-ラーニング、集合研修、説明会等の実施方法、時期、日程、講師等を盛り込む。

さらに、効果測定についても触れられています。

(注4)教育・訓練の実施後、理解度試験等を行い、その有効性を評価し、次回の研修・訓練の改善に活用すれば、より効果を上げることができる。

研修を発注するときのチェックリストは、この3つでおおむね足ります。毎回更新されるか、対象者ごとに分かれているか、理解度を測って次回に返す仕組みがあるか。

このガイドラインには「生成AI」という語が出てきません

念のため確認しました。全422ページの本文を通して検索しても、「生成AI」という語は出てきません。令和8年3月27日改定の版でも同じです。

したがって、次のような分かれ方になっています。

枠組み(いつ・誰に・どう記録するか)中身(何を話すか)
根拠情報セキュリティポリシーに関するガイドライン「5.2 研修・訓練」生成AIシステム利用ガイドライン(ひな形Ver1.0)/AI活用・導入ガイドブック第4版
位置づけ対策基準の例文(自団体の基準に採り入れて効く)ひな形(自団体のガイドラインに採り入れて効く)

どちらか一方だけを見ていると片肺になります。中身だけを見ると記録も報告も残らず、枠組みだけを見るとAIの話が1行も入りません。

総務省が「研修内容を検討すべき」と書いた、その中身

ガイドブック第4版の「4.5 人材育成・リテラシー向上の取組」には、研修の中身について踏み込んだ記述があります。これは令和7年7月公表の「自治体におけるAIの利用に関するワーキンググループ報告書」の内容を反映したものです。

加えて、自治体が生成AIを導入した後には、実際に利用する職員を増やすことが重要です。即時利用可能なプロンプト集、職員のレベル別の研修などに取り組むのが有効であると考えられます。なお、生成AIに過度に依存することで、職員の文章作成・読解能力や企画立案能力の向上が妨げられることがないように職員の能力向上にも努める必要があります。職員が自らの力で文章作成・読解や企画立案ができる能力がなければ、AIの出力結果を評価できない点を踏まえ、研修内容を検討すべきです。

最後の1文が、研修の設計を決めます。

「出力結果を評価できるか」を基準に据えると、研修で教えるべきことが変わります。プロンプトの書き方を増やしても、出力を評価する力は増えません。評価できるのは、その仕事を自分でやったことがある人です。だとすれば、研修の題材は一般的な文章生成ではなく、受講者が自分で書いたことのある文書でなければなりません。起案文、照会回答、議事要旨、要綱の改正案。自分の手で書いた経験があるからこそ、出力のどこがおかしいかが分かります。

この1文は、ワーキンググループ報告書にあったものが移されたものです。並べておきます。

職員が自らの力で文章作成・読解や企画立案ができる能力がなければ、AI の出力結果を評価できない点を踏まえ、研修内容を検討すべきである。

違うのは文末(「である」と「です」)だけで、中身は同じです。ガイドブックのこの一文は、執筆時の書きぶりではなく、ワーキンググループが出した結論をそのまま自治体向けの資料に載せたものだ、ということになります。

私用デバイスの話は、2つの資料で表現が違います

先ほどの全職員向け5項目の5番目、私用デバイスの禁止については、報告書とガイドブック・ひな形で書き方が違います。読み比べるときに気づいたので、そのまま挙げておきます。

出典原文
ワーキンググループ報告書「私用デバイスへ私的にインストールした生成AI に職務上知り得た個人情報を入力してはいけないといった基本事項を、全職員に周知していく必要がある。」
ガイドブック第4版 4.5「私用デバイスへ私的にインストールした生成AIに職務上知り得た情報を入力してはいけないといった基本事項を、全職員に周知していく必要があります。」
ひな形(利用前のルール)「(自治体名)職員は私用デバイスへ私的にインストールした生成AIに職務上知り得た情報を入力してはならないこと。」

報告書は「個人情報」と書き、ガイドブックとひな形は「情報」と書いています。研修で伝えるべきは範囲の広いほう、つまりひな形の「職務上知り得た情報」です。個人情報に限らない、という理解で職員に降ろしてください。起案前の政策検討資料も、入札に関する情報も、個人情報ではありませんが、私物の端末に入れてよい情報ではありません。

誰を育てるかも書かれています

ガイドブックは、研修の対象として次を挙げています。

専門人材と一般の職員の橋渡しを行うDX推進リーダーと呼ばれる職員も重要です。このような職員の育成に当たっては、特に小規模団体が自前で育成することは大きな負担となることから、都道府県と市町村が連携したDX推進体制における合同研修等に取り組むとともに、自治大学校や市町村アカデミー、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)といった外部機関における研修を活用していくことが有効です。

全職員向けの研修と、橋渡し役を育てる研修は別物だということです。先に挙げた例文④の「役割に応じた研修」と、ここは同じことを言っています。

研修では決まらないこと — 別表が埋まっていないと答えられない

研修で必ず出る質問があります。「結局、何を入れていいんですか」です。

この質問には、研修では答えられません。答えは、ひな形の別表にあるからです。

別表の列は5つです。

生成AIシステム名担当課室利用者利用可能な業務の範囲入力可能な情報
具体的な生成AIシステムのサービス名①情報政策担当課適用対象となる行政機関に所属する全職員業務目的での汎用的な利用自治体機密性2以下の情報
具体的な生成AIシステムのサービス名②△△課△△課に所属する職員××業務目的での利用自治体機密性1の情報

公表されているひな形に入っているのは、この記入例だけです。サービス名も「具体的な生成AIシステムのサービス名①」という仮の記載のままです。ここを埋めるのは自団体の仕事で、総務省が代わりに決めてくれる部分ではありません。

別表の下には、埋めるときの条件も付いています。

なお、指定の際に、情報政策担当課において、要機密情報を入力可能な生成AIシステムについては、当該生成AIシステムを提供する事業者によって入力データが機械学習に利用されないこと及び(自治体名)の許可なく監査されないことを確認済みである。

確認するのは情報政策担当課であって、研修の受講者ではありません。この確認が済んでいない状態で研修を開くと、講師は「別表を見てください」としか言えず、職員は別表が空であることを知ります。

別表に何をどう書くか(業務名で書く、機密性の区分をどう当てはめる)は、自治体で生成AIに入れてよい情報はどこまでかで扱いました。

研修をどの時点で入れるか

庁内のルールづくり全体の順序は自治体で生成AIに入れてよい情報はどこまでかに書きました。ここでは、そのどこに研修が入るかだけを示します。

  1. 使う生成AIシステムを決め、別表の5列を埋める(要機密情報を入力可能にするなら、機械学習に利用されないこと等の確認を先に済ませる)
  2. ひな形をもとに自団体のガイドラインを決裁に回す(参照先の名称と版を直す。報告先となる責任者を埋める)
  3. リスクケースの報告フォームの置き場所を決める
  4. そのうえで研修を組む。内容は自団体のガイドラインそのもの
  5. 情報セキュリティ研修の研修計画に位置づけ、実施状況を記録する

1から3が終わっていない段階で研修だけ先に入れると、研修の半分は「これから決まります」で埋まります。逆に、1から3が終わっていれば、研修の材料はすでに全部そろっています。新しく作るものはありません。

小規模団体が実際に採っている型

総務省は令和7年11月に4つの市町村をヒアリングし、その結果をガイドブックのコラムに載せています。研修の頻度と形式の実例として参考になります。

取組の型例
① 無償で利用できる地域情報化アドバイザー等の活用熊本県あさぎり町。地域情報化アドバイザーの支援を受け、有志・部署横断のプロジェクトチームでガイドラインを検討し、「生成AI職員利用基準」を策定(令和5年12月町長決裁)
② 情報政策担当課に気軽な問合せが可能な場の設定島根県美郷町。情報・未来技術戦略課宛に質問できるグループチャットを作成し、随時対応。職員からの要望を受けて、利用可能な生成AIモデルの追加につながった
③ 最新情報を交えた年1〜2回の研修、事業者による研修の受講長野県原村。生成系AI導入アドバイザーによる全職員向けの職員研修やワークショップを実施/佐賀県鹿島市。事業者による2〜3か月に1回程度の研修を職員に周知し、令和6年度は計30人ほどが参加
④ 定期的な事例の共有熊本県あさぎり町。導入後、原則週1回、初心者向けに活用事例とプロンプトを紹介する1枚のビラを作成し、グループウェアで公開する取組を約1年実施

研修そのものは③だけです。①②④は研修ではありません。それでも同じコラムに並んでいるのは、年1〜2回の集合研修だけでは足りないという前提が共通しているからだと読めます。

これは先ほどの例文の読み方とも整合します。年1回の集合研修だけでは、例文が求める「毎回同じ内容ではなく、継続的に更新する」に届きません。集合研修で枠組みを伝え、日常の接点で中身を更新するという二段構えが、実際に回っている形です。

鹿島市の「令和6年度は計30人ほど」という数字も、正直な数字として読む価値があります。事業者研修を2〜3か月に1回の頻度で案内して、年間で30人です。1回の研修で全職員に行き渡ると考えないほうがよい、ということでもあります。

この枠組みが効くのは自治体です

最後に範囲を確認しておきます。ここまで見てきたのは、自治体向けの資料です。

  • 情報セキュリティポリシーに関するガイドラインは、地方公共団体向けです
  • ひな形は、自治体が職員向けガイドラインを作るために総務省が示したものです
  • DS-920とその別紙は、府省向けです。自治体を直接拘束するものではありません

民間企業や学校法人では、機密性の格付けという出発点がありません。個人情報・法令上の守秘義務・営業秘密・契約上の秘密保持義務という枠組みで考えることになります。そちらは業務で生成AIに情報を入れてよいかに書きました。

まとめ

  • 総務省のひな形は、研修の受講を生成AIの利用の前提条件に置いています。府省向けのひな形にこの項目はなく、自治体向けで足されたものです
  • 研修の内容は、ひな形の項目がそのまま目次になります。全職員向けは利用前が5項目、利用中は入力側3項目・生成物側7項目、これにリスクケースの報告手順3段階が続きます
  • 対象が「全職員」でない項目を混ぜない。個人情報・要機密情報の取扱いは、申請する課室・担当課室・情報政策担当課に向けて書かれています
  • 約款型のクラウドサービスの項目を「要機密情報を入れなければよい」で終わらせない。ひな形は要機密情報を取り扱わない場合であっても、対策基準「8.4 外部サービス(クラウドサービス)の利用」に基づく利用の許可を求め、国外サーバへの留意も求めています
  • 研修の枠組みは情報セキュリティポリシーの「5.2 研修・訓練」にあります。研修計画を定める(2)は7項目で、研修計画そのものが情報セキュリティ委員会の承認を要します。「毎年度最低1回受講できるようにする」には【推奨事項】が付いており、新規採用者向けの研修とCISOの年1回の報告には付いていません。自団体の対策基準の書きぶりを確認してください
  • 同ガイドラインに「生成AI」という語は出てきません。枠組みはこちら、中身はひな形とガイドブック、という分かれ方をしています
  • 総務省は「職員が自らの力で文章作成・読解や企画立案ができる能力がなければ、AIの出力結果を評価できない点を踏まえ、研修内容を検討すべき」としています。題材は、受講者が自分で書いたことのある文書にしてください
  • 「何を入れてよいか」は研修では決まりません。ひな形の別表(生成AIシステム名・担当課室・利用者・利用可能な業務の範囲・入力可能な情報)を埋めるのが先です
  • 令和6年12月末時点で、その他市区町村の58.3%が職員向けガイドラインを未策定、導入済み573団体のうち97団体が未策定です。多くの団体では、ルールを作る作業と研修の準備が同時に来ます

研修の中身は、自団体のガイドラインと別表が決まって初めて確定します。別表を埋めるところから職員向けの研修までを、いまの規程のままで何ができるかの整理を含めてご相談いただけます。監査で自治体の情報管理の実務を見てきた立場から、御団体の体制に合う形をご提案します。

よくある質問

職員向けのAI研修は、やらなければならないものなのですか。

法令が直接義務づけているわけではありません。ただし、総務省が令和7年12月16日に公表した「(自治体名)生成AIシステム利用ガイドライン(ひな形Ver1.0)」は、利用前のルールの筆頭に「(自治体名)職員が生成AIシステムを利用する前には、情報政策担当課が指定する研修を必ず受講すること。」を置いています。ひな形に沿って自団体のガイドラインを作れば、研修は自団体のルール上の前提条件になります。研修をしないまま生成AIを使わせることと、ひな形どおりのガイドラインを持つことは、両立しません。

府省向けのルールにも同じ定めがありますか。

ありません。総務省が下敷きにしたのは、DS-920の初版(令和7年5月27日決定)の別紙2「〇〇省 生成AI システム利活用ルール(ひな形Ver1.0)」です。その「(1)利活用前のルール」は、便益とリスクの理解、企画者・提供者から説明された利用方法等の理解、入出力を提供する必要がある旨の了解、約款型クラウドサービスでの要機密情報の取扱いの4点で、研修の受講を求める項目はありません。現行の第2.0版の別紙2(ひな形Ver2.0)でも箇条書きは同じ4点で、研修受講の項目は加わっていません(文言には手が入っており、1点目が引く参照先の名称は「調達・利用」から「調達・利活用」に直っています)。自治体向けひな形は、このうち前の3点を全職員向けの塊に引き継ぎ、その先頭に研修受講を置いています。

研修では何を話せばよいのですか。

ひな形の項目がそのまま目次になります。利用前として全職員に伝えるべき事項が5項目、利用中のルールとして入力側が3項目・生成物側が7項目、これに生成AIシステム特有のリスクケースが起きたときの報告手順(検知内容の報告・対処・対応結果の報告)が続きます。自団体のガイドラインをひな形から作っているのであれば、研修の内容は自団体のガイドラインの条文そのものです。

情報セキュリティ研修とは別に用意するものですか。

切り離さないほうが安全です。「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」(令和8年3月版)は、対策基準の例文5.2で、研修計画の策定、新規採用者への研修、役割・理解度に応じた研修、実施状況の記録と報告を定めています。生成AIの研修をこの枠組みの外に置くと、実施状況の記録も報告も残りません。なお同ガイドラインには「生成AI」という語は出てきません。枠組みはこちらにあり、中身はひな形とガイドブックにある、という分かれ方をしています。

研修は毎年やらなければならないのですか。

例文の読み分けが要ります。「研修計画において、職員等は毎年度最低1回は情報セキュリティ研修を受講できるようにしなければならない。」には【推奨事項】が付いています。推奨事項については「推奨事項の項目を情報セキュリティポリシーに記載するか否かの判断は地方公共団体の裁量に委ねるが、記載した場合は遵守する必要があることに留意されたい。」とされています。一方、新規採用の職員等を対象とする研修には推奨事項の印が付いていません。また、CISOが毎年度1回、情報セキュリティ委員会に対して研修の実施状況を報告しなければならないという項目にも付いていません。推奨事項が付いているのは受講の側であって、報告の側ではありません。自団体の対策基準で毎年度1回の受講を書いているかどうかを、まず確認してください。

全職員に同じ内容を一度話せば足りますか。

足りません。例文5.2は「研修は、統括情報セキュリティ責任者、情報セキュリティ責任者、情報セキュリティ管理者、情報システム管理者、情報システム担当者及びその他職員等に対して、それぞれの役割、情報セキュリティに関する理解度等に応じたものにしなければならない。」としています。ひな形の側も、全職員向けの項目と、指定されていない生成AIシステムの利用を希望する課室・担当課室・情報政策担当課に向けた項目を分けて書いています。対象の違う話を1回に混ぜると、判断してよい人の範囲が伝わりません。

研修をやれば「何を入れてよいか」の質問は片づきますか。

片づきません。入力してよい情報は、ひな形の別表で生成AIシステムごとに定めるものだからです。別表の列は「生成AIシステム名」「担当課室」「利用者」「利用可能な業務の範囲」「入力可能な情報」で、公表されているひな形には記入例しか入っていません。別表が空のまま研修を開くと、講師も職員も答えを持っていない状態で「入れてよいか」を議論することになります。別表を埋めるのが先です。

ひな形をそのまま自団体のガイドラインにしてよいですか。

別表を埋めるほかに、参照先の確認が要ります。ひな形は便益とリスクの説明で「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利用に係るガイドライン」(令和7年5月27日デジタル社会推進会議幹事会決定)を参照していますが、この正式名称は「調達・利活用に係るガイドライン」です。また同ガイドラインは第2.0版(令和8年6月12日決定)が令和8年9月1日から施行されています。参照する版と名称は、自団体のガイドラインを決裁に回す前に直してください。

出典

制度の内容は改正されることがあります。判断の際は必ず出典元の最新情報をご確認ください。

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