決算が議会で認定された、という連絡をもって、その年度の剰余金の扱いも片付いたものとして整理している団体があります。正確ではありません。
決算の認定と、剰余金の処分は、根拠になる条文が違います。別の行為なので、片方が済んでも、もう片方は済みません。これは解釈の余地がある話ではなく、国が行政実例として示しているところです。
ここを取り違えると、積立金が帳簿の上にあるのに取り崩せない、議案の件名が実態と合っていない、という形で後から出てきます。しかも気づくのは、たいてい次の決算の時期です。
結論
- 決算は「認定」、剰余金の処分は「条例の定め又は議会の議決」です。根拠は地方公営企業法30条4項と32条で、別の条文です
- 行政実例は「決算の認定としての議決を利益の処分の議決とみなすことはできない」としています。決算の認定とあわせて処分の議決を受けることは差し支えありませんが、認定だけでは処分の議決になりません
- 処分の前に、やらなければならないことがあります。繰越欠損金があれば利益でうめる(32条1項)、欠損が出た年に繰越利益があればそれでうめる(32条の2)。どちらも義務で、条例や議決は要りません
- 条例でよいものと、議会の議決しかないものがあります。利益と資本剰余金の処分は条例でも議決でもよい。資本金の額の減少(32条4項)と、積立金を目的以外の使途に使うこと(施行令24条2項)は、議会の議決だけです
- 議決の道として条文と様式に用意されているのは予算と決算の2つです。予算に書く道(施行令17条1項10号)と、決算の剰余金処分計算書で受ける道。ただし32条2項・3項は議案の形も議決の時期も限っていないので、この2つに限られるわけではありません(総務省も予算議案とは別議案での議決を可能としています)
- 何も処分しない年でも、剰余金処分計算書は作ります。処分しなかったことを議会に示すためです
決算の「認定」と、剰余金の「処分」は別の行為です
条文を並べると、違いがはっきりします。
| 行為 | 根拠 | 議会の関わり方 |
|---|---|---|
| 決算 | 地方公営企業法30条4項 | 認定に付す |
| 利益の処分 | 同法32条2項 | 条例の定めるところにより、又は議会の議決を経て |
| 資本剰余金の処分 | 同法32条3項 | 条例の定めるところにより、又は議会の議決を経て |
| 資本金の額の減少 | 同法32条4項 | 議会の議決を経て |
決算については、法30条4項が「監査委員の意見を付けて、遅くとも当該事業年度終了後三月を経過した後において最初に招集される定例会である議会の認定(中略)に付さなければならない」と定めています。付すのは認定です。
一方、利益の処分は32条2項です。
毎事業年度生じた利益の処分は、前項の規定による場合を除くほか、条例の定めるところにより、又は議会の議決を経て、行わなければならない(地方公営企業法32条2項)
この2つは別の行為です。そして剰余金処分計算書は、法30条9項が定める決算で作成すべき書類のひとつなので、決算と同じ束の中に入って議会へ行きます。書類が同じ束に入っていることと、議決の対象が同じであることは、別の話です。
国が行政実例で明示しています
総務省の資本制度の見直しに関するQ&A(平成23年11月30日)が、行政実例を引いてこう書いています。
行政実例(昭和34年10月15日自丁企発第11号)において、「決算の認定としての議決を利益の処分の議決とみなすことはできないが、便宜上、法第30条の規定に基いて作成する剰余金処分計算書をもって、決算の認定の議決とあわせて利益の処分の議決を受けることはさしつかえない」とされているところである
そして、同じ答のあとにこう続きます。
なお、決算の認定及び剰余金の処分等の議案を一議案として提出し、同時に議決を受けることは可能であるが、決算の認定の議決のみをもって剰余金の処分等の議決が行われたものとみなすことはできないものであることにご留意いただきたい
読み方を整理すると、こうなります。
| やり方 | 可否 |
|---|---|
| 決算の認定と処分の議決を、一議案で同時に受ける | 可能(ただし処分が議決の対象であることを明確にする) |
| 剰余金処分計算書をもって、認定とあわせて処分の議決を受ける | 差し支えない |
| 決算を認定したことをもって、処分の議決があったものとする | できない |
この問答は、そもそも「決算認定の際に、資本剰余金の処分及び資本金の額の減少についても議決を受けることができるか」という問いに答えたものです。同じ答の中で「議会の議決による資本剰余金の処分及び資本金の額の減少についても同様の取扱いをする事はさしつかえない」とされています。利益の処分だけの話ではありません。
議案の形まで踏み込んだ問答もあります。件名は「○○市○○事業会計利益の処分及び決算の認定について」とし、会議録の議決結果の記載は「原案可決及び認定」とすることが望ましい、とされています。「認定」だけが記録に残っている団体は、ここを一度確かめてください。
処分より先に、やらなければならないことがあります
32条2項には「前項の規定による場合を除くほか」という書き出しが付いています。除かれている前項が、条例でも議決でもなく、義務として先に来るものです。
地方公営企業は、毎事業年度利益を生じた場合において前事業年度から繰り越した欠損金があるときは、その利益をもつてその欠損金をうめなければならない(地方公営企業法32条1項)
「うめなければならない」です。ここに条例や議決は出てきません。国の通知も「毎事業年度利益を生じた場合において、前事業年度から繰り越した欠損金があるときは、その利益をもって欠損金をうめるものであること(法第32条第1項)」としています。
逆向きの条文もあります
見落とされやすいのが32条の2です。利益が出た年の話(32条1項)だけで止めると、損失が出た年の処理が抜けます。
地方公営企業は、毎事業年度欠損を生じた場合において前事業年度から繰り越した利益があるときは、その利益をもつてその欠損金をうめなければならない(地方公営企業法32条の2)
| 当年度 | 前年度からの繰越し | 根拠 | 議会の関わり |
|---|---|---|---|
| 利益 | 欠損金がある | 32条1項 | 要らない(義務) |
| 欠損 | 利益がある | 32条の2 | 要らない(義務) |
| 利益(欠損金をうめた残り) | — | 32条2項 | 条例の定め又は議会の議決 |
表の1行目と2行目は、処分ではありません。条文が「うめなければならない」と命じている処理です。議案にするのは3行目からです。
議決が要らないからといって、書類を省けるわけではありません。総務省のQ&Aは、欠損金処理計算書について「利益積立金をもって欠損金をうめる場合のように議会の議決等が必要ない場合であっても、欠損金処理計算書を作成しなければならない」としています。挙げられている例は利益積立金の取崩しですが、「議会の議決等が必要ない場合であっても」作るという書き方なので、32条の2によるてん補しかしていない年も同じです。
条例でよいもの、議会の議決しかないもの
ここが実務で最も効いてきます。4つの行為のうち、2つは条例で代えられますが、2つは代えられません。
| 行為 | 根拠 | 条例で代えられるか |
|---|---|---|
| 利益の処分 | 法32条2項 | 代えられる(条例の定めるところにより、又は議会の議決を経て) |
| 資本剰余金の処分 | 法32条3項 | 代えられる(同じ書き方) |
| 資本金の額の減少 | 法32条4項 | 代えられない(議会の議決を経て、減少することができる) |
| 積立金を目的以外の使途に使う | 施行令24条2項 | 代えられない(議会の議決を経なければならない) |
32条4項を読むと、2項・3項と文の作りが違うことが分かります。
資本金の額は、議会の議決を経て、減少することができる(地方公営企業法32条4項)
2項・3項にある「条例の定めるところにより、又は」が、ここには無い。欠けているのは「又は」という語ではなく、「条例の定めるところにより」という選択肢そのものです。条例という道が条文に置かれていないので、議会の議決しかありません。
総務省のQ&Aも、剰余金計算書の「資本金」の記載を省略してよいかという問いに対し、「資本金の額の減少は、事業規模の縮小等、地方公営企業の経営の基礎にかかわるものであることから、議会の関与を必要としている(法§32④)」とした上で、資本金の額が変動しないことも含めて議会に明らかにすべきなので省略は適当ではない、としています。
いっぽうで、企業債の償還に伴って借入資本金が減る場合について、総務省は「借入資本金は実体的には負債であり、その償還に伴い当然に資本金の額が減少するため、償還に伴う資本金の額の減少に係る議決は不要である」としていました。
ただし、この問答は借入資本金制度があった時期のものです。新会計基準では借入資本金は負債に計上することとされ(平成26年度予算及び決算から適用。早期適用も可)、現行の施行令15条1項は資本を「資本金及び剰余金」に区分するだけで、本則に借入資本金はありません。企業債は施行規則7条2項により固定負債です(一年内に償還期限の到来するものは、同条3項2号・3号により流動負債です)。
その一方で、「資本金の額が減るのは減資だけ」とまでは言えません。総務省は、法18条1項により一般会計から受けた出資金を、建設改良費の財源に充てなかった場合や不用額が生じた場合に返還する場面について、平成24年5月15日のQ&Aでこう答えています。
当該出資の趣旨が、建設改良費の財源に充当されなかった場合等には一般会計へ返還するものとしてなされたものであれば、その性質上当然返還されるべきものであり、こうしたケースは減資に当たらないと整理されてきた従来の取扱いと変わるものではない。そのため、「資本金の額」の「減少」にはあたらず、議会の議決は不要である(法§32④)
借入資本金の償還と同じ考え方で、32条4項の議決が要るのは、経営の判断として資本金を減らす場面(減資)です。帳簿の上で資本金が減ること自体が、そのまま32条4項の議決につながるわけではありません。古い資料に出てくる借入資本金の記述は、この前提の違いを踏まえて読んでください。
資本剰余金で欠損金をうめるときの順番
資本剰余金の処分も条例か議決ですが、取り崩す順番について国の通知が目安を示しています。
欠損金をうめるため、資本剰余金を取り崩す場合の順位は次によることが適当であること。1 再評価積立金以外の資本剰余金 2 再評価積立金
「適当であること」という書き方なので、拘束力のある順位ではありません。ただ、順番を変えるのであれば説明が要るところです。
資本剰余金の中だけでなく、どの区分から先に取り崩すかについても目安があります。平成24年4月1日施行の改正で、利益積立金・任意積立金・資本剰余金を用いて欠損の処理を行う際の順位を定めた規定(改正前の法32条の2、改正前の施行令24条の3)は廃止されましたが、同じ改正の通知がこう書いています。
なお、一般的に欠損の処理を行う場合には、資本金の性質等に照らし、資本金よりも資本剰余金が、資本剰余金よりも利益積立金が先に取り崩されるものであると考えられるが、最終的には議会の関与を経て、資本金・剰余金の性質や各地方公営企業の実情を踏まえた適切な判断が求められるものであること。
利益積立金 → 資本剰余金 → 資本金の順です。「考えられる」「適切な判断が求められる」という書き方なので、これも拘束力のある順位ではありません。順位の規定が廃止されたぶん、どの順で取り崩したかを議会に説明する責任が団体側に移っている、と読むべきところです。
そもそも資本剰余金に入るものは狭いです
施行規則6条2項が、資本剰余金に属する剰余金を4つ挙げています。そのうち2つに括弧書きの限定が付いています。
一 再評価積立金 二 受贈財産評価額(償却資産以外の固定資産の取得又は改良に充てるためのものに限る。) 三 寄附金(償却資産以外の固定資産の取得又は改良に充てるためのものに限る。) 四 その他の剰余金であつて、資本剰余金に属する剰余金とすべきもの
「に限る」です。償却資産の取得や改良に充てるための補助金等は、施行令26条1項により繰延収益として整理することになっており、資本剰余金には来ません。2号・3号については、土地のような非償却資産に充てるものだけが資本剰余金に残ります(1号の再評価積立金と4号のその他の剰余金は、この限定の外です)。処分できる資本剰余金が思ったほど無いのは、この括弧書きのためです。
利益剰余金のほうは、施行規則6条3項が「積立金」と「未処分利益剰余金」の2つを挙げています。施行規則の勘定科目表(別表第一号)には、利益剰余金の内訳として減債積立金・利益積立金・その他積立金・当年度未処分利益剰余金が並んでいます。
積立金は「使途を示す名称」を付けて積みます
利益の処分として企業の内部に積み立てるときの決まりが、施行令24条にあります。
法第三十二条第二項の規定により利益の処分として特定の目的のため利益を積み立てる場合においては、その使途を示す名称を附した科目に積み立てなければならない(地方公営企業法施行令24条1項)
前項の規定により積み立てた積立金をその目的以外の使途に使用しようとする場合においては、議会の議決を経なければならない(同条2項)
1項は名前の付け方を命じています。「その他積立金」のような名称でまとめてしまうと、2項の「目的以外の使途」かどうかを判定する土台が無くなります。名前は後から効いてきます。
「目的どおり」なら2項の議決は要りません
2項が議決を求めているのは「その目的以外の使途に使用しようとする場合」です。したがって、目的のとおりに使う分には、同項による議決は出てきません。
| 使い方 | 施行令24条2項の議決 |
|---|---|
| 減債積立金を企業債の償還に充てる | 要らない(目的どおり) |
| 減債積立金を当年度未処理欠損金の補てんに充てる | 要る(目的外) |
| 建設改良積立金を建設改良の財源に充てる | 要らない(目的どおり) |
2行目については、総務省のQ&Aが書き方まで示しています。「議会の議決を経て、減債積立金をもって当年度未処理欠損金をうめる場合(令§24②)」について、「欠損金処理計算書において、『議会の議決による処分額』の内訳として『減債積立金からの繰入』等の項目(行)を設けて記載すべきである」としています。
同じ「積立金で欠損金をうめる」でも、どの積立金かで結論が変わります。総務省は、欠損金の補てんを目的とした積立金(利益積立金)で欠損金をうめる場合について、正面からこう答えています。
問 欠損金の補塡を目的とした積立金(利益積立金)をもって欠損金をうめる場合、議会の議決が必要か。 (答)積立金の目的どおりの使用であることから、議会の議決は不要である。
分かれ目は積立金の名前ではなく、欠損金の補てんがその積立金の使途に入っているかどうかです。だから1項の「使途を示す名称」が効いてきます。
なお、目的どおりの取崩しは剰余金の「処分」ではありません。総務省のQ&Aは、剰余金計算書の「当年度変動額」に該当する事由として「補助金の受入、積立金の取崩、除却損への補填、補助金の返還、当年度純利益、当年度純損失、出資金の受入等」を挙げています。取崩しは処分の欄ではなく、変動額の欄に出ます。
平成24年4月1日より前は、積立てが義務でした
いま「積み立てなくてもよい」のは、改正があったからです。改正前と比べておかないと、条例や内部規程に古い前提が残っていることに気づけません。
総務省の資料(平成25年12月)が、第1次一括法による地方公営企業法の改正をこう整理しています。成立は平成23年4月28日(公布は平成23年5月2日)、施行日は平成24年4月1日です。
①法定積立金(減債積立金、利益積立金)の積立義務を廃止。 ②条例の定めるところにより、又は議会の議決を経て、利益及び資本剰余金を処分できることとする。 ③経営判断により、資本金の額を減少させることができることとする。
同じ資料に、改正前と改正後の対照表が載っています。
| 行為 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 利益の処分 | 1/20を下らない金額を減債積立金又は利益積立金として積立。残額は議会の議決により処分可 | 条例又は議決により可 |
| 資本剰余金の処分 | 原則不可(補助金等により取得した資産が滅失等した場合、利益をもって繰越欠損金を補塡しきれなかった場合は可) | 条例又は議決により可 |
| 資本金の額の減少 | 不可 | 議決により可 |
積立義務が無くなったことの意味について、総務省は正面から答えています。「法定積立金(減債積立金、利益積立金)の積立義務に係る規定(旧法§32①)が廃止されたが、利益が生じても必ずしも積み立てなくてもよいということか」という問いに対し、答は「お見込みのとおり」です。
ついでに、1/20という数字の由来も同じQ&Aにあります。「旧商法の規定に基づき取り入れられたものと推察される」とされています。
ここで注意が要るのは、積立義務が無くなったことと、積立金の名称や取崩しの手続が緩くなったことは別だという点です。施行令24条は改正後も残っています。積むかどうかは自由になりましたが、積んだものを目的外に使うときは議会の議決です。
また、源泉別の積立てについては、総務省が「法§20②の規定により、今後も資本剰余金はその発生の事実に基づき、適当な区分に従って整理されるべきものである」とし、「改めて従前の規定を条例化することは不要である」としています。廃止された規定をそのまま条例に書き写す必要はない、ということです。
議決を取る場所は、決算だけではありません
剰余金処分の議決を「決算の時にやるもの」と考えていると、ほかの道を見落とします。予算にも書く欄があります。
施行令17条1項は、予算に記載する事項を12項目挙げています。その10号が「利益剰余金の処分」です。そして予算は、法24条2項により「年度開始前に議会の議決を経なければならない」ものです。
| ルート | 根拠 | 時期 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 予算に書く | 施行令17条1項10号、法24条2項 | 年度開始前 | 予定処分 |
| 決算で受ける | 法30条9項の剰余金処分計算書 | 決算の議会 | 確定処分 |
| 単独の議案で受ける | 法32条2項・3項(議案の形の限定なし) | 必要になったとき | その議案で定めた処分 |
3行目を落とさないでください。32条2項・3項は「条例の定めるところにより、又は議会の議決を経て」と書くだけで、どの議案に載せるか、いつ議決するかを限っていません。総務省も、資本剰余金を取り崩して損失を直接補てんする場面について「予算議会において、予算議案とは別議案として直接補塡を実施する旨の議案を提出し、議決を経たうえで直接補塡を行うことは可能である」としており、別のQ&Aでは「議案○○号 平成○○年度○○市○○事業会計資本剰余金の処分について」という議案例まで示しています。予算にも決算にも載せ忘れた処分を次の決算まで待つ必要はありません。
予算に書く道については、国の通知が予算様式の読み方を説明しています。予算様式第4条本文かっこ書の「繰越利益剰余金処分額」は前年度末の繰越利益剰余金のうち予算様式第12条で処分することとした額、「当年度利益剰余金処分額」は当年度の純利益のうちあらかじめ予算様式第12条で処分した額、という説明です。予算様式は施行規則45条により別記第1号様式に準ずるものとされています。あわせて「剰余金処分においては、当年度分と繰越分とを区分して記載するものであること」とされています。
予算で予定処分を議決しておくと、資本的収支の不足を埋める財源として当年度の処分額を見込むことができます。総務省の質疑応答集(令和2年4月1日時点)には、法適用初年度についてこの流れを確認した問答があります。当年度利益剰余金を減債積立金に予定処分して資本的収支の資金不足の補填財源とした場合、「剰余金処分計算書において予定処分の額として議決を受けた範囲内の額を確定した処分額として記載する」という理解でよいかという問いに、「お見込みのとおりです」と答えています。
「議決を受けた範囲内の額」という限定が付いていることに注意してください。予定処分で取った議決は上限として働きます。決算で確定した利益が見込みを上回ったとき、予算の枠を超えて積むのであれば、その分はあらためて議決か条例が要ります。
積立てを実際に行える時期についても答が出ています。総務省は「利益剰余金の積立金への積立ては『利益の処分』(法§32②)に当たり、利益剰余金の処分は決算に関する手続であることから、翌年度4月1日から処分することができる。ただし、処分するまでに条例の制定又は議会の議決が必要である」としています。前年度の利益を積み立てるのは翌年度に入ってからで、それまでに条例か議決が要る、ということです。
処分しない年も、剰余金処分計算書は作ります
「今年は何も処分しないので、計算書は省きます」という整理はできません。
総務省の剰余金計算書・剰余金処分計算書の見直しに関するQ&A(平成24年5月11日)が、まさにその問いを扱っています。
問 「資本金」、「資本剰余金」、「未処分利益剰余金」いずれの処分も行わない場合、剰余金処分計算書の作成自体を省略することは可能か。 (答)処分しなかったことを議会に対して示すため、剰余金処分計算書を作成しなければならない。
欠損金処理計算書についても同じ答です。「処分しなかったことを示す」ための書類でもある、という位置づけです。
削ってよいところもあります。条例による処分を想定していない団体が、剰余金計算書の「条例第○条による処分額」の行を削除することは「差し支えない」とされています。該当する内訳項目の剰余金が無い場合に、その列を削除することも同様です。様式は施行規則48条により「準ずるもの」とされており、総務副大臣通知(平成23年8月30日総財公第103号)が「各地方公営企業の実態に応じたより適切な表示のため、項目の名称の変更、項目の追加、資本の各項目を縦に並べる様式により作成すること等は差し支えないものであること」としています。
様式の番号は読み替えが必要です
古い資料を見るときに引っかかるのが様式番号です。総務省のQ&Aは、新会計基準の適用後について「別表第十二号は別記第十一号に、別表第十三号は別記第十二号になる」としています。
現行の施行規則48条で確かめると、剰余金計算書又は欠損金計算書が別記第十一号様式、剰余金処分計算書又は欠損金処理計算書が別記第十二号様式です。Q&Aの読み替えどおりになっています。
同じ理由で、国の通知には現行と合っていない引用があります。決算で作成すべき書類を列挙した箇所が「(法第30条第7項)」としています(原文ママ)。現行の地方公営企業法では、決算について作成すべき書類を定めているのは30条9項です。この通知は令和4年6月30日(総財公第96号)まで改正を重ねていますが、この引用の項番号は改められていません。古い資料で条項番号を確認するときは、必ず現行条文に当て直してください。
設例で順番を確かめる
架空の設例で、順番と金額の動きを追います。実在の団体の数字ではありません。丸めは入れていないので、表示した数字どおりに足し引きできます。
利益が出た年
| 項目 | 金額 | 根拠・計算 |
|---|---|---|
| 当年度純利益 | 8,200万円 | — |
| 前事業年度から繰り越した欠損金 | 3,500万円 | — |
| ①欠損金のてん補 | 3,500万円 | 法32条1項(義務) |
| 当年度未処分利益剰余金 | 4,700万円 | 8,200万円 − 3,500万円 |
| ②減債積立金への積立て | 3,000万円 | 法32条2項+施行令24条1項 |
| 繰越利益剰余金 | 1,700万円 | 4,700万円 − 3,000万円 |
議案に乗るのは②だけです。①は条文が命じている処理で、議決の対象ではありません。②は条例があれば条例で、無ければ議会の議決です。
翌年度に損失が出た
| 項目 | 金額 | 根拠・計算 |
|---|---|---|
| 前事業年度から繰り越した利益 | 1,700万円 | 前年度の残り |
| 当年度純損失 | 900万円 | — |
| ③繰越利益によるてん補 | 900万円 | 法32条の2(義務) |
| 当年度未処分利益剰余金 | 800万円 | 1,700万円 − 900万円 |
③も義務なので、議決は要りません。ここで繰越利益が足りなければ当年度未処理欠損金が残り、それをどう処理するか(積立金を崩すのか、資本剰余金を崩すのか、繰り越すのか)という話に移ります。
減債積立金を建設改良に回したい
| 項目 | 金額 | 使途・計算 |
|---|---|---|
| 減債積立金の残高 | 3,000万円 | 企業債の償還が使途 |
| 建設改良の財源に充てたい額 | 1,200万円 | 目的以外の使途 |
| 充当後の減債積立金 | 1,800万円 | 3,000万円 − 1,200万円 |
これは施行令24条2項に当たるので、議会の議決が必要です。利益の処分を条例で行うことにしている団体でも、ここだけは条例で代えられません。逆に、同じ1,200万円を企業債の償還に充てるのであれば、目的どおりなので同項の議決は出てきません。
自分の団体で確かめること
次の5つは、書類を開けばその日に分かります。
| # | 確かめること | どこを見るか |
|---|---|---|
| 1 | 剰余金処分について条例があるか | 企業会計に関する条例。無ければ毎年度議決が要る |
| 2 | 議案の件名が処分を含んでいるか | 決算議会の議案。「決算の認定について」だけになっていないか |
| 3 | 会議録の議決結果の記載 | 「認定」だけか、「原案可決及び認定」か |
| 4 | 積立金の名称が使途を示しているか | 貸借対照表の利益剰余金。「その他積立金」のままになっていないか |
| 5 | 予算に予定処分を書いているか | 予算様式第12条。資本的収支の補填財源と整合しているか |
1と2が揃っていない場合、過去の処分の根拠が説明できない状態になっています。遡って直せるものではないので、次の決算から整えることになります。早いほど、整える範囲が狭くて済みます。
まとめ
- 決算の認定と剰余金の処分は、別の行為です。決算は法30条4項で認定に付し、利益の処分は法32条2項で条例の定め又は議会の議決によります
- 行政実例は「決算の認定としての議決を利益の処分の議決とみなすことはできない」としています。あわせて議決を受けることは差し支えありませんが、処分が議決の対象であることを議案の上で明確にする必要があります。件名は「利益の処分及び決算の認定について」、議決結果は「原案可決及び認定」とすることが望ましいとされています
- 処分の前に義務が2つあります。繰越欠損金があれば利益でうめる(法32条1項)、欠損の年に繰越利益があればそれでうめる(法32条の2)。どちらも議決は要りません
- 条例で代えられないものが2つあります。資本金の額の減少(法32条4項)と、積立金の目的外使用(施行令24条2項)です。32条4項に「条例の定めるところにより、又は」が無いことが、そのまま結論になります
- 積立金は「使途を示す名称を附した科目」に積みます(施行令24条1項)。名称が曖昧だと、目的内か目的外かを判定できません。目的どおりの取崩しは処分ではなく、剰余金計算書の「当年度変動額」に出ます
- 議決の道として条文と様式に用意されているのは、予算(施行令17条1項10号)と決算(剰余金処分計算書)です。予算の予定処分は「議決を受けた範囲内の額」として働くので、確定額が上回るときは別に手当てが要ります。32条2項・3項は議案の形も議決の時期も限っていないので、単独の議案で議決を受けることもできます
- 何も処分しない年でも、剰余金処分計算書は作ります(欠損の年に作る欠損金処理計算書も同じで、施行規則48条4号はこの2つを「又は」で並べています)。処分しなかったことを議会に示すためです
- 積立義務が廃止されたのは平成24年4月1日施行の改正です。改正前は1/20を下らない金額の積立てが求められていました。古い条例・内部規程・資料に、この前提が残っていないか確かめてください