広域化・共同化について相談を受けるとき、最初に出てくる質問はたいてい同じです。「うちはまだ計画を作っていないのですが、何から始めればよいですか」。
この質問には、前提の取り違えが含まれています。汚水処理の広域化・共同化計画は都道府県が作るもので、令和4年度末までに全47都道府県で策定が完了しています。 水道広域化推進プランも同じく都道府県が作るもので、令和6年3月31日時点で全都道府県にあります。つまり、計画はもうあります。市町村の担当課が今からゼロで作るものではありません。
国が令和6年4月に出した広域化・共同化計画実施マニュアルは、この段階の変化を前提に書かれています。作る話ではなく、載っているメニューを1つ動かす話です。ここでは、進め方の枠組み、選べる手法、そして財政措置の入口を、原文に沿って整理します。
結論
- 広域化・共同化は事業統合のことではありません。 総務省の定義は「事業統合をはじめ施設の共同化・管理の共同化などの広域的な連携、下水道事業における最適化などを含む概念」です
- 計画はすでにあります。 汚水処理は令和4年度末に全47都道府県、水道広域化推進プランも令和6年3月31日時点で全都道府県にあります。最初の作業は自団体がどのメニューに載っているかを確かめることです
- 進め方の枠組みは PDCA ではなく CAPD です。 計画が先にある以上、Check(進捗管理)から入ります
- 手法は地方自治法に並んでいます。 法人を作らない仕組みが7つ、作る仕組みが2つ。マニュアルの表では9つすべてに議会の議決が「要」と書かれていますが、連絡調整を図るための協議会だけは条文にただし書があり、議決が要りません。総務大臣等の許可が要るのは一部事務組合と広域連合だけです
- 財政措置の入口は「計画に位置付けられていること」です。 計画にない事業でも、都道府県が「位置付ける予定であること等」を確認すれば道は開きます
- 令和8年度に、廃止に伴う一時的な負担を賄う地方債の特例ができました(地方財政法第33条の5の15)。特別会計を閉じる年に一度に出る撤去費や補助金の返還などが、活用場面として示されています
「広域化・共同化=事業統合」ではありません
言葉の範囲を先に確かめます。総務省は毎年「公営企業の抜本的な改革の取組状況」を調査して公表していますが、そこに置かれた注記が、行政としての言葉の使い方を示しています。
広域化等とは、事業統合をはじめ施設の共同化・管理の共同化などの広域的な連携、下水道事業における最適化などを含む概念。
「事業統合をはじめ」です。統合は含まれるものの一つであって、全部ではありません。
広域化・共同化計画実施マニュアルが個別メニューとして章立てしているのは、次の9つです。
| # | 個別メニュー |
|---|---|
| 1 | 事業統合・経営の一体化 |
| 2 | 汚水処理の共同実施 |
| 3 | 汚泥処理の共同実施 |
| 4 | 施設の広域監視 |
| 5 | 計画・調査委託の共同発注 |
| 6 | 水質検査・特定事業場排水指導の共同発注 |
| 7 | 維持管理業務の共同発注 |
| 8 | 災害時対応の共同化 |
| 9 | 庁内事務の共同化 |
統合を伴うのは1番だけです。残りの8つは、それぞれの団体が事業主体であり続けたまま実施できます。
実際に何が行われているか
令和6年度の実績を見ると、公営企業の抜本的な改革の取組は全体で232件(令和5年度実績は264件)、そのうち広域化等が80件で最多でした。内訳は下水道53件、水道20件、簡易水道5件、病院2件です。
読むときに1点だけ注意が要ります。同じ注記にこう書かれています。
事業統合を行った場合は、統合される事業は事業廃止、統合する事業は広域化等として計上している。
つまり、1件の統合は「広域化等1件」と「事業廃止1件」の両方に現れます。広域化等80件と事業廃止73件を足して153件の取組があったと読むと、二重に数えることになります。同じ資料は「1つの事業で事業廃止と民営化・民間譲渡のように、複数の類型に該当する場合がある。そのため、事業数ベースでは合計221事業となる」とも注記しています。232件は取組の数であって、事業の数ではありません。
計画に載っているのも、大半はソフト対策です
実施マニュアルは、令和4年度末に公表された全都道府県の計画の中身を集計しています。
令和4年度末の計画公表時点においては、ハード対策による汚水処理施設の廃止数は約2,000施設となっており、汚泥処理の共同化は約120メニューが予定されている。ソフト対策は、大別して「体制」、「事務」、「管理」、「その他」に分類すると、約780メニューが計画されている。
そして体制面については、こう書かれています。
「体制」については、事業統合まで計画に位置づけている都道府県はなかったが、執行体制の共同化について検討するとしているものが1件であった。
事業統合を計画に書き込んだ都道府県は、令和4年度末時点で1つもありませんでした。 一方で「管理」に分類されるメニューは194件あり、ソフト対策全体の約25%を占めています。計画の重心は、統合ではなく管理と事務の共同化にあります。
進め方の枠組みは PDCA ではなく CAPD です
ここが、この分野の実務で最も取り違えられる点です。実施マニュアルは、計画を回す枠組みをこう定めています。
策定した広域化・共同化計画は、①Check(進捗管理)、②Action(個別メニューの新規立案、変更、取り止め)、③Plan(計画の変更)、④Do(個別メニューの推進)の4つのステップを繰り返し、着実な事業推進だけでなく、取組内容の拡大、高度化により、広域化・共同化の取組を深化させるものとする。
Plan から始まりません。計画がすでに存在するので、まず現状を確認する Check から入るという組み立てです。逆に言えば、自団体の県の計画を開いて自分の名前を探すことが、この仕事の最初の一手になります。
進捗は4段階で評価します
Check の中身は感覚的なものではありません。国土交通省が作った「広域化・共同化計画進捗管理表」があり、メニューごとに次の4段階で評価します(マニュアルでの表題は「進捗評価基準(案)」です)。
| 評価 | 進捗状況 | ハード対策の内容 | ソフト対策の内容 |
|---|---|---|---|
| D | 検討開始 | 基礎調査、可能性調査、事業スキームの検討 | 業務内容、活動内容、システム仕様等の検討 |
| C | 合意形成 | 合意形成、地方自治法等法律上の手続き、事業計画の変更 | 合意形成、地方自治法等法律上の手続き、庁内事務手続き |
| B | 事業着手 | 予算要望、基本設計、実施設計、施設建設開始 | 維持管理業務の共同発注手続き、システム構築手続き |
| A | 事業開始 | 統廃合完了、供用開始 | 維持管理業務の共同発注、事務の共同化開始 |
D が最も手前で、A が完了です。 A から D へ進むのではなく、D から A へ上がっていきます。表を読むときに取り違えやすいところです。
この管理表について、マニュアルは「進捗を管理する上で最低限度を示したものであり、都道府県独自で必要に応じて新たな項目を設けることを妨げるものではない」としています。最低限であって、上限ではありません。
起点は都道府県です
推進体制についての記述も明確です。
広域化・共同化の取組は、中心的役割を期待されている都道府県による進捗管理を起点として、都道府県と市町村等が連携して個別メニューの検討、合意形成を図り、事業化を進めることとする。
根拠は地方自治法です。マニュアルは同法第2条第5項を引き、都道府県の役割を「広域にわたるもの(広域事務)」「市町村に関する連絡調整に関するもの(連絡調整事務)」「その規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるもの(補完事務)」と整理しています。市町村界をまたぐ調整は、制度上も県の仕事として置かれています。
市町村側から見ると、これは「県が動くのを待つ」という意味ではありません。県の進捗管理表に自団体のメニューが並んでいる以上、毎年の照会に何と答えるかが、そのまま自団体の進捗の記録になります。「未着手」と答え続ければ、その記録がそのまま残るということでもあります。
なお検討体制について、マニュアルは「汚水処理に係る部局(下水道、集落排水、合併処理浄化槽等)のみならず、し尿処理部局も参画することが望ましい」としています。し尿・浄化槽汚泥の受入れは汚水処理の共同実施の類型の一つなので、部局が欠けると選択肢がそのまま落ちます。
手法は地方自治法に並んでいます
「やることは決まったが、どういう形で実施するのか」で止まることがあります。実施マニュアルは、実施の形を4つに整理しています。準拠する法令は地方自治法・下水道法・民法の3つで、これにどの法令にも準拠せず任意の協議会などを設立する方法が加わります(マニュアルは「上記の法令に準拠せず」と書いており、4つ目は法令ではありません)。
このうち地方自治法の制度は、法人を作るかどうかで2つに分かれます。
| 制度名 | 法人の設立 | 議会の議決 | 総務大臣等の許可 | 委託側の責任・権限 |
|---|---|---|---|---|
| 協議会 | 要しない | 要 | 不要 | — |
| 機関等の共同設置 | 要しない | 要 | 不要 | — |
| 事務の委託 | 要しない | 要 | 不要 | 受託団体へ移譲 |
| 連携協約 | 要しない | 要 | 不要 | — |
| 事務の代替執行 | 要しない | 要 | 不要 | — |
| 指定管理者制度 | 要しない | 要 | 不要 | 協定書等での規定による |
| 公の施設の区域外設置 | 要しない | 要 | 不要 | — |
| 一部事務組合 | 要する | 要 | 要 | 組合へ移譲 |
| 広域連合 | 要する | 要 | 要 | 広域連合へ移譲 |
この表から読み取れることは3つです。
- 議会の議決は、この表では9つすべてが「要」です。ただし、表のとおりに読み切らないでください。地方自治法第252条の2の2第3項は「第一項の協議については、関係普通地方公共団体の議会の議決を経なければならない」としたうえで、「ただし、普通地方公共団体の事務の管理及び執行について連絡調整を図るため普通地方公共団体の協議会を設ける場合は、この限りでない」とただし書を置いています。マニュアル自身、協議会には「管理執行協議会」「連絡調整協議会」「計画策定協議会」の3種類があると書いています。このうち連絡調整協議会には議決が要りません。表が協議会を1行にまとめているため、この区別が消えています
- 総務大臣等の許可が要るのは、一部事務組合と広域連合だけです。法人を作らない7つは許可が不要で、その分だけ着手が早くなります
- 責任と権限が相手方へ移るのは、事務の委託・一部事務組合・広域連合の3つです。協議会や連携協約では移りません。「責任は残したまま実務だけ相手に持ってもらう」形を取りたいのか、「責任ごと渡す」形を取りたいのかで、選ぶ制度が変わります
議会を通さずに始められる形もあります
上の表は地方自治法の制度だけを並べたものです。議決が要らない形は、その外側にあります。
マニュアルは、民事上の委託契約について「4市町村で締結する協定は、あくまで民事上の委託契約であることから、議会の議決を伴わないものとされている」と書いています。さらに下水道法第31条の4の下水道協議会について、こう説明しています。
平成27 年7 月に施行された改正下水道法第31 条の4 において、複数の下水道管理者同士が広域的な連携を図るきっかけ作りの協議の場として「下水道協議会制度」が創設された。地方自治法の協議会制度と異なり、議会の手続き等が不要で、下水道管理者の他、国や都道府県、下水道事業団、下水道公社等の参画も可能であり、連携の方向性や役割分担についての具体的な方策を協議する場として簡便な制度である。
令和4年度末時点で7つ設置されています。効力は水道法の協議会と同じく尊重義務です(下水道法第31条の4第3項「協議会において協議が調つた事項については、協議会の構成員は、その協議の結果を尊重しなければならない」)。
検討と合意形成の場を作るだけなら、議会を通さずに始められます。議決が要るのは、事務や責任を動かす段階です。マニュアルも「下水道協議会で広域的な連携の方策や方向性を定めたのちに、地方自治法に基づく広域化・共同化の手法等を活用し、個別メニューの事業化を図ることが考えられる」という順序を示しています。
どの制度がどのメニューに使われているか
実際の組み合わせも示されています。事業統合・経営の一体化には一部事務組合または広域連合が、施設整備を伴う共同化には協議会・事務の委託・公の施設の区域外設置・指定管理者・一部事務組合・広域連合が、委託業務等の共同発注には協議会・事務の委託・民事上の委託・指定管理者が、それぞれ主に使われています。
維持管理業務の共同発注は、3つの形があります
最も着手しやすいのが委託業務の共同発注です。維持管理業務については、3つのケースが示されています。
| ケース | 形 |
|---|---|
| 1 | 共同で受託者を選定し、選定した受託者と各団体がそれぞれ委託契約を締結する |
| 2 | 事務の委託を受けた団体が、委託元の分も含めて受託者と契約を締結する |
| 3 | 共同発注する全下水道管理者で協議会を設立し、協議会が受託者と契約を締結する |
ケース1は、契約自体は各団体が結びます。選定だけを共同で行う形で、事務の委託も法人設立も要りません。実例として、長崎県波佐見町・東彼杵町が民事上の委託(協定)により受託者選定を共同で行い、選定した受託者と2町がそれぞれ契約した事例が挙げられています。
計画・調査委託でも、選定だけを共同にするか契約まで共同にするかで分かれます(マニュアルはこちらを3つではなく2つのケースとして整理しています)。大阪府富田林市・太子町・河南町・千早赤阪村の4市町村が共同協定に基づきストックマネジメント計画策定業務を共同発注し、富田林市が代表となって事業者と契約を締結した事例、愛知県の5市が民事上の委託によりオンライン申請システムの受託者選定を共同で行い、選定した受託者と5市がそれぞれ契約した事例が示されています。
「統合する/しない」の議論に入る前に動かせるものがある、というのがここでの含意です。
事業統合は、下水道ではまだ事例がありません
一方で、統合の側は率直に書かれています。令和6年4月時点のマニュアルの記述です。
公共下水道の事業着手に際して、市町村同士で一部事務組合を設立し、一部事務組合で公共下水道事業を実施している事例がある。しかし、広域化・共同化計画に基づき、それぞれの事業が供用開始済の状態で事業統合等をした事例はない状況である。また、ケース2に関しては、水道事業では既に3事例あるが、下水道事業では事例がない状況である。
ここでいうケース2は、都道府県と市町村が一部事務組合等を設立し、流域下水道と公共下水道を一体で運営する形です。水道では都道府県と市町村の統合が3例あるのに対し、下水道ではまだない、ということです。
理由として挙げられているのは、下水道に固有の2点です。
下水道事業の場合、雨水排水が事業範囲に含まれること、施設整備に公費が充当されることに起因し、水道事業とは異なる検討事項が生じることとなる。
雨水については、さらに踏み込んだ整理があります。
下水道法上、下水道管理者が汚水と雨水で別となることは想定されていないと考えられる。雨水事業も含めて事業統合を実施する場合、構成市町村により雨水対策への取組姿勢に差が見られる場合も想定されるため、市町村の意見を尊重しながら合意形成を行う必要がある。
ただし、地方自治法の事務の委託(一部の事務を委託)を実施することにより、下水道管理者の責任を市町村に残したまま、一部事務組合等が汚水に係る事務を実施することは可能である。
このただし書が効きます。 雨水の扱いで合意できないことが統合全体を止めてしまう場合でも、下水道管理者の地位は各市町村に残したまま、汚水に係る事務だけを組合に委託する形が取れる、ということです。
使用料についても、水道と扱いが違います。マニュアルは下水道について「下水道使用料は、組合内で統一されていない状態であっても可能」としています。統合=料金の一本化、ではありません。なお参考として挙げられている水道の3事例についても、「まだ、区域内での統一には至っていない」と注記されています。
お金の話 — 入口は「計画に位置付けられていること」です
財政措置の話は、ほぼ一つの要件に集約されます。
下水道事業債(広域化・共同化分)
下水道事業広域化・共同化推進要領(令和6年4月1日付け総財準第37号「下水道事業広域化・共同化推進要領の改正について」。実施マニュアルの113ページ以下に全文が再掲されています)は、この地方債を充てるために提出する「広域化施設整備計画」について、次のように定めています。
広域化施設整備計画には、「汚水処理の事業運営に係る「広域化・共同化計画」の策定について」(平成30年1月17日付け総財準第1号・29農振第1698号・29水港第2464号・国下事第56号・環循適発第1801171号総務省自治財政局準公営企業室長等通知)に基づき策定した広域化・共同化計画に位置付けられた事業に伴い必要となる施設整備等について記載するものとする。
ただし、協議等手続の時点で同計画に位置付けられていない事業に伴い必要となる施設整備等であっても、都道府県が、当該事業を同計画に位置付ける予定であること等を確認できたものについては、広域化施設整備計画に記載できるものとする。
本文だけを読むと「計画に載っていなければ対象外」に見えますが、ただし書が効いています。 計画にまだ載っていない事業でも、都道府県が「位置付ける予定であること等」を確認できれば記載できます。したがって、市町村が新しい取組を思いついたときの順序は、「計画改定を待つ」ではなく「先に県に相談する」です。
手続にも注意が要ります。この計画を総務省に提出するのは都道府県と指定都市で、市町村(指定都市を除く)は都道府県を経由します。実施期間は概ね5年以内とされています。
繰出しの基準(令和8年度)
令和8年4月1日付けの総務副大臣通知「令和8年度の地方公営企業繰出金について」は、下水道事業の繰出基準に「広域化・共同化に要する経費」の項を置いています。
「広域化・共同化計画」に基づき令和元年度以降に実施する広域化・共同化に要する資本費に、次の率を乗じた額が繰出しの基準です。
| 区分 | 率 |
|---|---|
| 合流式の公共下水道 | 7/10 |
| 分流式の公共下水道(処理区域内人口密度 25人/ha未満) | 8/10 |
| 分流式の公共下水道(25人/ha以上50人/ha未満) | 7/10 |
| 分流式の公共下水道(50人/ha以上75人/ha未満) | 6/10 |
| 分流式の公共下水道(75人/ha以上100人/ha未満) | 5/10 |
| 分流式の公共下水道(100人/ha以上) | 4/10 |
| 公共下水道以外 | 8/10 |
「公共下水道以外」は、特定環境保全公共下水道、流域下水道、農業集落排水施設、漁業集落排水施設、林業集落排水施設、簡易排水施設および小規模集合排水処理施設を指します。
さらに、令和4年度以降に実施する事業のうち、公共下水道等(流域下水道を除く)を流域下水道へ接続するために市町村(下水道事業を経営する一部事務組合を含む)が実施する施設等の整備事業については、上の率に1/10を加えた率を乗じます。流域下水道への接続は、他の広域化より1段階手厚く扱われています。
ハードだけの話ではありません。「広域化・共同化計画」に基づき実施する事業のうち、地方債に関する省令附則第8条第4号で定める情報システムまたは情報通信機器の整備に係る地方債の元利償還金についても、上の表と同じ率が適用されます。台帳システムの共同化のようなソフト対策も、繰出基準の対象です。
なお、平成30年度以前に発行した下水道事業債(広域化・共同化分)の元利償還金については、100分の55が繰出しの基準です。年度で扱いが分かれているので、古い起債と新しい起債を混ぜて計算しないでください。
令和8年度に、廃止に伴う一時的な負担のための地方債ができました
統合や施設の廃止に踏み込もうとすると、必ず最後に残る問題があります。特別会計を閉じる年に、撤去費・補助金の返還・繰上償還・退職手当が一度に一般会計へ乗ることです。将来の経費は減るのに、その年の負担が大きすぎて踏み切れない、という形です。
令和8年度に、ここに手当てが入りました。地方交付税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第3号)で加えられた地方財政法第33条の5の15で、令和8年4月1日から施行されています。
地方公共団体(都道府県、市町村及び特別区に限る。以下この条において同じ。)は、当分の間、次項各号に掲げる公営企業(地方公共団体の財政の健全化に関する法律第二条第二号イに規定する公営企業に限る。以下この項及び次項において同じ。)について次の各号のいずれかに該当すると認められる場合において、当該公営企業の全部又は一部を廃止しようとするときは、特定経費の財源に充てるため、第五条の規定にかかわらず、地方債を起こすことができる。
一 当該地域において、当該公営企業により現に提供されているサービスと同種のサービスが持続的に提供されるよう、そのサービスの提供の在り方を見直す必要があるとき。
二 前号に掲げるもののほか、当該地域の地理的条件及び社会的状況からみて、当該公営企業によるサービスの提供の継続が困難であるとき。
条文の構造を分解すると、こうなります。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 発行できる団体 | 都道府県、市町村、特別区に限る(組合そのものは発行主体ではありません) |
| 対象となる公営企業 | 地方公共団体の財政の健全化に関する法律第2条第2号イに規定する公営企業に限る |
| 該当が必要な事由 | 第1号または第2号のいずれかに該当すること |
| 事由に加えて必要なこと | 当該公営企業の全部または一部を廃止しようとするときであること |
| 充てる先 | 特定経費(総務省令で定める経費) |
括弧書きを飛ばさないでください。そして、飛ばさずに読んだ先に、もう一段の限定があります。引いてくる先の同法第2条第2号イは「一般会計又は公営企業(法適用企業及び法非適用企業をいう。以下同じ。)に係る特別会計以外の特別会計」と書いており、ここでの「公営企業」は法を適用している企業と適用していない企業の両方を指します。ただし、その「法非適用企業」は同条第1号ロで「地方財政法第六条に規定する政令で定める公営企業のうち法適用企業以外のもの」と定義されており、その政令(地方財政法施行令第46条)が挙げているのは、水道・工業用水道・交通・電気・ガス・簡易水道・港湾整備・病院・市場・と畜場・観光施設・宅地造成・公共下水道の13事業です。
したがって、こう分かれます。公共下水道は、法を適用していなくても対象に入ります。 一方、農業集落排水や漁業集落排水は第46条に挙がっていないので、地方公営企業法を適用していなければ、ここでいう「公営企業」に当たりません。総務省が活用場面として「集落排水を公共下水道に接続」を挙げているのは、集落排水の側に公営企業会計を適用していることが前提になります。自団体の集落排水事業が法適用か法非適用かを、先に確かめてください。なお、令和8年度地方財政対策の概要はこの措置を「公営企業に係る特別会計の廃止等を行う場合」のものと説明しており、特別会計を置かずに一般会計で行っている事業は想定されていません。
一部事務組合や広域連合が経営する公営企業を廃止する場合は、第2項第2号が受けています。組合が起債するのではなく、構成団体が組合に交付する負担金または補助金のうち一定のものが対象です。組合方式で統合を進めている場合、起債の主体を取り違えないでください。
手続は同条第3項・第4項に定めがあります。総務大臣または都道府県知事の許可が必要で(第3項ただし書により「軽微な場合その他の総務省令で定める場合」は不要です)、その許可の申請をしようとするときは、あらかじめ議会の議決を経なければなりません。申請書には、公営企業の経営の現況および将来の見通し、第1項各号のいずれかに該当すると認められる理由などを記載します(同条第5項)。
制度の内容は、令和8年度地方財政対策の概要で「公営企業経営改善特例債(仮称)」として示されています。同資料は対象経費として「施設及び設備の撤去並びに原状回復に要する経費」「国又は地方団体から交付された補助金、負担金等の返還に要する経費」「地方債の繰上償還に要する経費」「退職手当の支給に要する経費」等を挙げ、地方債充当率100%、償還年限は原則10年としています。また活用が想定される取組として、下水道では集落排水を公共下水道に接続する場合や合併浄化槽に転換する場合、水道では簡易水道を上水道に統合する場合や他の地方公共団体と事業を統合する場合を示しています。
条文が「総務省令で定める経費」としている以上、実際に何が対象経費に入るかは省令で確定します。個別の案件で使えるかどうかは、都道府県の担当課に確認してください。
支援制度の一覧には、年度の区切りが付いているものがあります
実施マニュアルは財政支援制度を一覧にしていますが、総務省の普通交付税措置の欄には「広域化・共同化を推進するための調査検討に要する経費について、普通交付税措置(令和5年度~令和7年度)」と期間が明記されています。マニュアルは令和6年4月時点のもので、この「令和5年度~令和7年度」はすでに終期を過ぎています。令和8年度以降も同じ措置があるかどうかは、マニュアルからは分かりません。調査検討費のように年度で区切られた措置は、当該年度の通知で確認してください。制度名が同じでも、期間が延びているか終わっているかは年度ごとに違います。
計画にないことを始めるときは、計画を直します
最後に、計画の側の手続です。実施マニュアルは見直しの考え方をこう定めています。
広域化・共同化計画の見直しは、上位計画である都道府県構想にならい、5年に1回の定期的な点検を基本とする。定期的な点検に加え、多くの住民の利害に影響が生じうる新たな個別メニューの立案や取り止め等の変更があった場合には、随時、計画の見直しを行うものとする。
新しいメニューを立案した場合の扱いは、3つに分かれます。
| 状況 | 取扱い |
|---|---|
| 新たな個別メニューを立案し、事業化を図る場合 | 速やかに都道府県が運用する進捗管理表に追記する |
| そのうち、事業化により多くの住民の利害に影響が生じうる場合 | 広域化・共同化計画の見直しを行い、変更計画に定める |
| 上記に該当しないと判断される場合 | 次回の広域化・共同化計画変更時に追記する |
進捗管理表への追記は「速やかに」ですが、計画本体の変更は必ずしも即時ではありません。 住民の利害に影響が生じうるかどうかで扱いが分かれます。変更計画を策定したときは、ホームページ等を通じて公表し、住民や関係機関に周知することとされています。
新しいメニューをどう立案し、どう合意形成するかについては、実施マニュアルは別の資料を指しています。「新規の個別メニューの立案、合意形成については、「広域化・共同化計画策定マニュアル(改訂版)」を参考とする他、計画の進捗管理の運用枠組みを利用し、一体的に取り組むことも有効である」。進め方は実施マニュアル、立て方は策定マニュアル、という分担です。
水道側は、根拠が計画ではなく法律に置かれている点が違います。水道法第5条の3の水道基盤強化計画は、都道府県が定めようとするときに、計画区域内の市町村と関係する水道事業者・水道用水供給事業者の同意を得なければなりません(同条第4項)。同法第5条の4の広域的連携等推進協議会のほうは「協議会において協議が調つた事項については、協議会の構成員は、その協議の結果を尊重しなければならない」と定めており、尊重義務にとどまります。協議の場を作ることと、同意を要件とする枠組みを作ることは別です。
なお水道広域化推進プランそのものは、平成31年1月25日付けの総務省・厚生労働省通知に基づく都道府県の計画で、同通知は「地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項(技術的な助言)に基づくもの」とされています。水道法に根拠を置く計画ではありません。水道基盤強化計画と混同しやすいところです。
そして実務上の落とし穴がもう一つあります。プランの名称は「水道広域化推進プラン」とは限りません。 総務省が公表している策定状況一覧を見ると、埼玉県は「水道整備基本構想(埼玉県水道ビジョン)」、京都府は「京都水道グランドデザイン」、大阪府は「府域一水道に向けた水道のあり方に関する報告書」、長野県と佐賀県は「水道ビジョン」、東京都は「市町村営水道事業の基盤強化に向けた都の取組」という名称です。名前で検索して見つからないときは、この一覧から自県のものを開いてください。
まとめ
- 広域化・共同化は事業統合のことではありません。総務省の定義は「事業統合をはじめ施設の共同化・管理の共同化などの広域的な連携、下水道事業における最適化などを含む概念」で、実施マニュアルが章立てする個別メニューは9つあります
- 計画はすでにあります。汚水処理は令和4年度末に全47都道府県、水道広域化推進プランは令和6年3月31日時点で全都道府県。最初の作業は、自団体がどのメニューにどう載っているかを確かめることです
- 枠組みは Check(進捗管理)から始まる CAPD です。進捗は D(検討開始)・C(合意形成)・B(事業着手)・A(事業開始)の4段階で評価します
- 手法は地方自治法に9つ並んでいます。マニュアルの表では議決がすべてに「要」ですが、連絡調整のための協議会は地方自治法第252条の2の2第3項ただし書で議決が不要です。民事上の委託契約と下水道法第31条の4の下水道協議会も、議会の手続きは要りません。総務大臣等の許可が要るのは一部事務組合と広域連合だけ。責任と権限が移るのは事務の委託・一部事務組合・広域連合の3つです
- 統合まで行かなくても動かせるものがあります。計画・調査委託や維持管理業務の共同発注は、選定だけを共同で行う形なら法人設立も事務の委託も要りません
- 財政措置の入口は「計画に位置付けられていること」です。載っていない事業でも、都道府県が位置付ける予定であること等を確認できれば記載できます。県への相談が先です
- 令和8年度に、廃止に伴い一般会計等が一時に負担する経費に充てる地方債の特例ができました(地方財政法第33条の5の15、令和8年4月1日施行)。ただし発行できるのは都道府県・市町村・特別区に限られ、廃止すれば使えるのではなく、条文の第1号または第2号に該当すると認められることが要ります。対象となる公営企業も、法を適用している企業と、地方財政法施行令第46条が挙げる13事業のうち法を適用していないものに限られます(農業集落排水は13事業に入っていません)。許可の申請にあたっては、あらかじめ議会の議決が必要です